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怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗
日時: 2016/10/16 21:24
名前: エル (ID: qRt8qnz/)

昔書いた小説のやり場に困ったので、こちらに投稿することにしました。

かなり昔にワードで書いた小説なので、色々粗が目立つと思いますが、どうかお許しください。

結構長い作品なので、時間が開いた時にちょっとずつ更新して行きます。

感想とかあったらください。

この小説は既に完結したものを投稿するので、よっぽどのことが無い限り投げ出したりはしません。


本編

>>1 >>2 >>3 >>4 >>5

Page:1



Re: 怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗 ( No.1 )
日時: 2016/09/07 21:31
名前: エル (ID: 0llm6aBT)

 夜。人々が寝静まる中、異変が起きていた。それは、一人の大金持ちの部屋で起きた。
 部屋に来た人々は、あまりの出来事に驚愕する。何故なら、誰も入れてはならないその部屋に、入れてはならない人物がいたからだ。
「何故……何故お前がここにいる!?」
「皆さんお揃いで、何を殺気立っているのですか? 私は、ここにある奪われた物を返してもらいに来ただけですがね……」
 その人物は、全身黒ずくめの衣装に身を包んでいた。シルクハットに燕尾服と、無数の黒い羽根が編み込まれたマント。手には黒い手袋をはめており、その手には黒いステッキを握っていた。髪の毛も黒い。そして最大の特徴は、彼の目元を覆う仮面。その仮面は、彼の衣装に合わせるように黒く、鳥のクチバシのような突起がある。それはまるで、カラスを仮面として被っているようであった。
「その姿……まさかお前は!」
「そう、私はレイヴン、怪盗レイヴン。では、もう目当ての物は頂きましたので、これにてさようなら」
 レイヴンと名乗ったその人物は、窓を突き破って外へと飛び出した。すると、空中に飛び立ったレイヴンのマントが、風になびいてはためくと、マントは大きな黒い翼へと変わった。
 これを見て、部屋にいた人々は騒ぎ立てる。
「奴だ! 奴が現れたぞ!」
「怪盗だ! 怪盗レイヴンだ!」
 怪盗レイヴン。その人物が現れたことがわかると、警察はレイヴンを捕まえるために総力を挙げて包囲網を作り、悪人達は、次は私の所かと恐れる。そして、民衆達はレイヴンの活躍に心躍らせる。
「あっ、見て! 怪盗レイヴンよ!」
「レイヴンですって!? どこにいるの!?」
「あそこよ!」
 人々は、レイヴンが空を飛ぶ所を見て、まるで劇をみるかのように楽しんでいた。そして、彼に向かって歓声を上げる。
 この状況を、空の上……いや、もっと上から眺めていた少年がいた。少年は、レイヴンが盗みを行っているこの状況を楽しんでおり、次がどうなるのかを楽しみにしていた。
だが、そんな彼の願いは、瞬く間に消える。
「隼君!」
 何やら声が聞こえるが、少年は目の前に
「隼君! 何をしているのですか!?」
「えっ、何!?」
 少年の目の前に広がっていた世界は消え、ありふれた教室に戻った。少年の手には教科書と、その間に挟まれていた一冊の小説が握られており、少年の隣には、仏頂面の先生がいた。
「あ、先生……」
「今は国語の授業中ですよ、何を読んでいるのですか?」
「え、えっと……教科書を……」
「では、教科書の間に挟まっているその本は一体何ですか?」
「え、えっとこれは……大人気の怪盗ノワールシリーズで……」
「隼君! 後で反省文を書くように!」
「はい……」
 クラスメイトから笑われた隼。まあ授業中に勝手な本を読んでいれば仕方のないことである。
この叱られた少年の名前は烏間隼。本が好きで夢見がちな、小学五年生の少年である。
 その後。
「いくら新作が出たからって、そんなに早く読みたいものなのかねえ」
「だって……怪盗レイヴンシリーズは人気作なんだよ?新作が出たら早く読みたいものさ」
「けど授業中に読むなんてことする? やれやれ……」
「けど、あちこちの書店で売り切れが続出しているらしいわよ? そんなのを読めるんだから、早く読みたいって思うのも仕方ないよ」
「奈央……確かにそうかもしれないけど、授業中に読むのはダメでしょ」
「流石に遼太の言う通りだね、今回もやったからもうやらないよ……多分」
 隼が今話している少年は、月島奈央という女の子と、東遼太という男の子である。隼とは友達であり、互いに本を貸しあったりする仲である。
「にしても、怪盗レイヴンシリーズの新作を誰よりも一番先にゲットできる隼君ってホントに良いよね、殆ど特権みたいな形でもらえるんだから!」
「うん、怪盗レイヴンシリーズをすぐに読ませてもらえるのは、凄く良いことだよ! 殆ど誰よりも先に読めるから」
「本当に凄いよね、お母さんが小説家で、しかも大ヒットシリーズの怪盗レイヴンシリーズの作者の!」
 隼は誇らしげに胸を張る。隼の母親は小説家であり、大ヒットシリーズの怪盗レイヴンシリーズを書いている人気作家である。そんな母を持てたことは、俊が皆に誇れることである。
 が、それしか誇れるところがないと言っているのが、隼の悪い癖であるが。
 ここで、怪盗レイヴンシリーズについて解説しておく。怪盗レイヴンシリーズとは、先程も言った通り非常に人気の高い小説作品である。
 とある仮面に選ばれて怪盗レイヴンとなった主人公が、夜の暗闇に紛れて悪事を行う悪人達に、盗みで制裁を与えるファンタジー小説である。
 主人公は悪人からしか盗まず、そして悪人であっても人を傷つけるようなことはせず、更には盗みを行う時には予告状を出す紳士的な怪盗である。
 そして、仮面に宿る力を使うで、人智を超えたことをすることも出来る。例えば、背中に羽織っている黒い羽根の編み込まれたマントを黒い大きな翼を変えたり、カラスを操って悪人の行っていることを盗み聞きしたりすることができる。他にもいろいろなことができるようである。
 そして、さっきの内容には出なかったが、ヒロインとライバルを兼ねる怪盗、ノーフェイスウィッチとのラブコメ要素や、レイヴンが謎解きをするミステリー要素などが詰め込まれており、単なる怪盗小説ではないことが、この作品の人気を示している。
 その人気は、日本で百万部数以上発行されたり、アニメ化もされるといった具合に、大人気であった。
 そして、最近出された新シリーズを、隼が授業中に読んでいたのである。
 そして隼と奈央、そして遼太はレイヴンシリーズについて話をしていたが、奈央が唐突にこんなことを言う。
「そう言えば、今日って隼君の誕生日だったよね」
「うんそうだけど?」
「じゃあ、今日お母さんから、誕生日プレゼントをもらう予定なんだよね?」
「うん……けど、あんまり期待してない」
「どうして?」
「だって……お母さんが誕生日にくれる物、大体僕にとっていらない物なんだもの」
「変な物? 例えば?」
「うん、例えば……理解できない幾何学模様の絵だったり、赤い水晶だったり、悪魔の石像だったりして……いらない物ばっかりなんだもの」
「はは……それはいらないね」
「だからね……今回の誕生日も期待していない」
「あら……そう」
 そう言って、話は打ち切りになってしまった。
 そして、学校が終わった隼は、足早に学校から家へと帰って行った。隼の家は、特に何の変哲も無い一戸建てで二階建ての部屋である。
「ただいまー」
 玄関のドアを開けて、母に帰って来たことを告げる隼。部屋の奥では、カタカタとパソコンのキーボードを打つ音が聞こえていた。その部屋から「おかえりー」という声が聞こえると、隼はその部屋に入って行った。
 そこには、パソコンに向かってひたすら文字を打っている母の姿があった。
「ただいま、お母さん」
 隼がそう言うと、母は文字を打つのを止めて隼に向き直る。眼鏡と長い黒髪を持った、綺麗な女性であった。
「ええお帰り。今日も学校楽しかった?」
「うん、楽しかった。それにしても、お母さんは新作をついこの間出したばかりなのに、もう新しい作品を書いているの?」
「ええ、私の中からあふれ出る物語が、私に作品を次々と書かせるのよ! ああ、早く次の作品を出したいわ!」
 眼鏡をキラキラさせながらそう言った母に、隼はいつも通りのお母さんだと再確認して、部屋に戻ろうとしていた。すると、母が隼に向かって言う。
「ああそうだった! 今日は俊の誕生日だったわね、誕生日プレゼントはもうあるから安心していてね!」
「あ、うん……あんまり期待しないで待っているよ」
「そんなこと言わないで。今日は特別に良い物を用意したから!」
 そう言われた後、隼は母の部屋を出て行った。
 そして、自分の部屋に戻って行った隼は、自分の部屋のベッドで横になる。
「……あんま変なのじゃないと良いなあ……」
 そして、その時はやってきた。隼が母から誕生日プレゼントを貰う、その時が。
「誕生日おめでとう隼、あなたへのプレゼントよ」
 そう言って、綺麗に包装された大きな箱を隼に渡す母。結構な大きさを持つその箱は、両手で抱えなければ持ちきれない程の物であった。
「お母さん……これ何?」
「内緒。開けてみて」
「ああそうだね、開けてみるよ」
 どうせろくでもない物が入っているだろうと思っていた隼。すると、予想をはるかに上回る物が入っていた。
「えっ……何これ?」
 一体誰が作った物なのだろうか、シルク素材で出来た漆黒の光沢を持つシルクハットに燕尾服、そして黒い羽根の編み込まれたマント。
 そして一番目に入ったのは、目元を覆う、鳥のようなクチバシがついた黒い仮面であった。それはまるで、あの怪盗レイヴンがしている仮面と、殆ど同じような仮面であった。
 その衣装の一式はまるで、怪盗レイヴンになるための衣装のようであった。
「お母さん、これって一体……」
「それはね……実は私とお父さんは……怪盗だったのです!」

Re: 怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗 ( No.2 )
日時: 2016/09/13 17:08
名前: エル (ID: 0llm6aBT)

 いきなりそう言われて、黙り込む隼。そして、一呼吸おいてから再び口を開いてみる隼。
「あーお母さん? 何かあって色々大変だとは思うけど、僕の誕生日を祝前に休んだ方が良いんじゃないの?」
 そう苦言を呈し、冷たくあしらう隼。それを見て、母は悲しそうな表情をする。
「やーねえ隼、せっかくこんな風にサプライズしてあげているのに、そんなに冷たいこと言わなくてもいいじゃない。折角衣装とか用意してあげたのに……」
「別に。前にも仕事疲れで色々変なこと言い始めたりしたことあったじゃん」
「アレは……どうしてもネタが思いつかなくて、色々切羽詰まっちゃったから色々大変なことになっちゃって……」
「それで色々大変な思いをしたのは僕なんだけど?」
 思い出したくないことを思い出す隼。思い出せば思い出す程、嫌な感情があふれ出てくる。それは非常に嫌な思い出であった。
「で……この衣装をプレゼントとして渡した意図は?」
「ああ、それはね……さっき言った通り、私とお父さんが怪盗だったって話」
「お父さんとお母さんが昔怪盗だったなんて……どこにそんな証拠があるのさ? それに、お父さんは普通のサラリーマンだったって言ってたじゃん」
 そう言って、部屋の隅に置いてある家族写真を見る隼。そこには、父と母と、赤ちゃんの頃の自分が写っていた。だが、その写真に写っている父は家にいない。実は、自分が赤ちゃんの時に、病気で亡くなってしまっていたことを隼は母から聞いていた。
「確かに、いきなり言われても信じられないかもしれないわ、けれど……証拠がきっちりあるのよ。これがそうよ……」
 母は懐から一枚の仮面を取り出す。その仮面は、何も描かれていない白い仮面であった。口も、鼻も、目も無い。顔に被れば、それこそ顔が無いように見える仮面であった。
「仮面? でもこれって……どこかで見たような……あっ! これノーフェイスウィッチがつける仮面じゃん!」
「そう、私は昔、ノーフェイスウィッチのモデルキャラ、フェイスレスウィッチとして、ヨーロッパ中を騒がせていたのよ」
 そう言われて、小説のノーフェイスウィッチを思い出す隼。あのキャラは、最初出てきた時はレイヴンのライバルとして現れ、レイヴンを出し抜いて光の氾濫という宝石を盗み出した。しかし、初登場した本から登場して五回目の本で、レイヴンに出し抜かれて光の氾濫を盗み返され、レイヴンに興味を抱き始めた。そして、後にレイヴンに興味を抱き始め、今ではライバルというより、ヒロインの要素が強くなっていったキャラである。
 はっきり言って、母がそんなキャラであるはずがないと思っていた。何故なら、ノーフェイスウィッチは顔こそ見えないが、ミステリアスな美人女性であり、ずっと部屋にこもって小説を書いていて、外に出ることをあんまりしない女性である。失礼かもしれないが眼鏡の干物女という言葉が似あう女性である。
ついでに、ノーフェイスウィッチは人知を超えた不思議な力を持っている。怪盗でありながら、魔女とすら言われている女性である。はっきり言って、小説を書く才能だけが突出している女性の母には、そんな力があるとは思えない。
「私は盗みをしている最中に、のちにお父さんとなる怪盗レイヴンと出会ってね……私より華麗に盗みを行う彼が気に入らなかった、だから私は怪盗として、お父さんが狙っていたものと同じ物を盗んだわ……でもね、お父さんに盗み返されて、対抗心がわいてきたの。けれど……何度やってもお父さんには勝てなくて……いつの間にか、どれだけ力を使っても華麗にかわして行くお父さんに惚れちゃったのよ。ああ〜! 今思い出しただけでも胸が熱くなるわ〜!」
 勝手に一人で盛り上がる母に、またしても呆れた目で見る隼。そして小さな声でつぶやく。
「……どう考えても作り話でしょ……」
 しかし、隼がそう呟いても母は話を止めない。
「そして、お父さんに惚れてしまった私は、お父さんを呼び出して、素顔をお父さんに見せて一緒になってほしいって言ったの。そうしたら、お父さんなんて言ったと思う?」
「わからない」
「そこまでの覚悟があるなら、ともに一緒になろう。って言ったの。そうしてお父さんも素顔を見せてくれたのよ。ああ〜嬉しかった……」
「……」
 言葉が出ない隼。母が何を言っているのか理解できない隼は、ただ黙って母の話を聞くだけだった。
「そして、私はお父さんと結婚したいって言ったわ、そうしたら……快くOKしてくれたのよ! そして、私との時間を大事にするために、共に怪盗を引退しようって言ったわ。そして……最後の大仕事として、フェイスレスとレイヴンは一緒になって世紀の遺産を盗んだの。そして、その遺産を元の国に返したの……そして、レイヴンとウィッチは眠りについたの。これ、レイヴンシリーズの最終回として予定していたんだけどね」
「と、いうことは、お母さんはその経験を生かして小説を書いているってこと?」
「そうよ、怪盗だった頃の思い出を生かして怪盗小説を小説賞に応募したら、見事受かって……大人気シリーズになったのよ! ああ〜……私達の物語がこれからも続いていくのは嬉しいことだ……という言葉を貰った時の、私の感動と言ったら! 何にも代えがたい物だったわ〜!」
 一人で盛り上がる母に、ため息をつく隼。そして、一番聞きたかったことを母に聞く隼。
「どうでも良いけど、なんでそんなことを僕に話したの? まあ、どうせ作り話だからどうでも良いことだけど」
「そう、何故このことを隼に話したのか……それを聞いてくれるのを待っていたわ」
「えっ……聞かれるのを待っていたって? どういうことなの? 説明してよ」
「では単刀直入に言わせてもらうわ」
 その後、母は深呼吸して、厳かな声で隼に言う。
「隼。あなたには怪盗レイヴンになってもらうわ」
「は、ハァ!?」
 いきなり突拍子もないことを言った母に、ただただ驚くことしかできなかった隼。そして、母が何を言っているのか、全く理解できなかった。息子にいきなり、怪盗レイヴンになれということを言ったことに。
「…………」
 しばらく唖然としていた隼は、恐る恐る母に言う。
「ねえお母さん……本当に大丈夫? 疲れが凄く溜まっているみたいだから、レイヴンシリーズを休載したほうがいいんじゃない?」
 心配した目つきで母を見つめる隼。しかし、母は何の屈託もない表情で隼に返す。
「別に? 私は疲れていないわ、むしろ絶好調よ」
「本当に? 全部ウソでしたってことで良いよもう……」
「ウソじゃないわ、だって、隼は本物の怪盗レイヴンになれるんだから」
「いや、僕は何も特別に運動神経が良いって訳じゃないし、頭が切れるって訳でもないし……確かに衣装を着れば格好だけレイヴンになれるかもしれないけど」
「恰好だけじゃないわ、身も心もレイヴンになれるのよ」
「そんなこと出来る訳ないじゃん、僕はただの一般人なのに……」
「それがね、なれるのよ……『彼』の力を借りればね……」
「『彼』? それって、一体誰?」
 まさかとは思うが、お父さんを怪盗として育て上げた人の所に弟子入りさせられるのか、と思い、不安になる。
 しかし、不安はすぐにかき消されることになる。
「彼はここにいるわ」
 母が懐から取り出したのは、一冊の古ぼけた本だった。表紙には、意味不明な文字で題名が書かれていて、鍵で閉じられていた。
「……どこに『彼』がいるの?」
「『彼』はこの本の中にいるわ」
「えっ……!?」
 本の中に人がいる。そんなバカげた話を大真面目に話す母。もはや、何に驚いていいかわからない。
「ねえ……もうやめない? この話……」
「まあ、いきなり言われて信じられる訳ないわよね。だから……この話はここでおしまいにしましょう」
「うん。そうしてくれると助かる……」
「じゃあ一応最低限の説明はしておくわね。この本は盗賊神書と呼ばれている本で、『彼』の魂が本に宿っているの。彼の力を借りるには、巻末に赤い文字で書かれている文字を読むといいわ。これがそうよ」
 本の鍵を開けて、本の一番後ろに赤く書かれている一文を見せる母。その一文も、意味不明な文字で書かれていた。
「この文章……なんて読むの?」
「いずれわかるわよ、いずれね……じゃあ、この本を隼にあげるわね」
 そう言って隼に手渡しで盗賊神書を渡す母。それを受け取った隼は、非常に嫌そうな顔をする。
「こんなのいらないよぉ……」
「大丈夫、本にはちゃんと彼の魂が宿っているわ。近いうちに、『彼』に会えるかもしれないわね……じゃあ、私は執筆作業に戻るわね」
 そう言って、母は自分の部屋へ戻って行った。そして、レイヴンの衣装と本を押し付けられた隼は、何をすればいいのかわからなかったので衣装と本を持って自分の部屋へと戻って行った。

Re: 怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗 ( No.3 )
日時: 2016/09/21 11:08
名前: エル (ID: rHtcSzQu)

「さて……どうしようか? この本と衣装」
 部屋に戻った隼は、母から押し付けられた盗賊神書と、レイヴンの衣装の処理に困っていた。
「衣装だの本を貰ったけど……はっきり言って、いらないものだらけだ……まあ、以前まで貰っていたものに比べれば、大分マシなものだけどね。一応僕もレイヴンの小説好きだし」
 だからと言って衣装まで渡さなくても……と思いながら衣装と本を机の上に置いた。
「……にしても、なんであんなこと言ったんだろう? お父さんが昔レイヴンとして世間を騒がせていたとか、お母さんはそのライバルだったとか……本当に、お母さんは何が言いたかったんだろう?」
 ベッドに寝転がりながら、そう呟く隼。確かに、母は隼にとって疑問になるようなことばかり言っていた。父が元怪盗だったと言ったり、自分も怪盗で、父と争って引退した後、自分と父のことをモデルとした小説を書いた……と母は言った。はっきり言って、本当のこととは思えない。
「けれど……お母さんが誕生日プレゼントに渡したものって、殆どが希少価値の高い高級品だったような……」
 隼の言った通り、母が隼に誕生日プレゼントとして渡した物は、非常に高級な品ばかりであった。変な幾何学模様の絵は、西洋美術の権化と言われた美術家が描いたものであり、赤い水晶はルビーの巨大な原石だった。そして悪魔の像は、黒曜石で作られた中世の貴重な美術品であった。と言っても、その殆どは押入れに突っ込まれていて、日の目を見てはいないが。
「でも……やっぱり何で衣装と変な本を渡したんだろう? それに、怪盗になれだなんて……お母さんの意図が読めないよ……」
 机の上に置かれた衣装と本に目を向ける隼。そうしたら気になってしまった隼は、ベッドから起き上がり、机に座って衣装や本を確認する。
 衣装の入っている箱の中身を見てみると、シルクハットや燕尾服にマント、仮面だけではなく、黒い革手袋や、黒のブーツが入っていた。だからどうした。といった具合であったが。
 次に、盗賊神書を読んでみる隼。本にかけられている鍵を開けて、本の中身を見てみる隼。鍵と言っても、開けるためのキーが背表紙にはめこまれており、そんなに苦労はしなかった。そして、本の内容を見てみるが、全くわからない意味不明な物だった。
 これは本当に文字なのかという文字の羅列ばかりが本には沢山書かれていた。その文字は、何やら規則性があるようで、規則性が無いようにも見える。まあ規則性があった所で読める物ではない。途中に挿絵が載っていたが、それを見ても何が何なのか、全くわからなかった。衣装とは違い、こちらの方は元から期待していなかったが。
「わかんない……これって本当に本なの? 意味不明な文字がひたすら書かれてるだけ……本当に、本としての意味がない……レイヴンシリーズは、一ページの中に物凄く凝縮されてるっていうのに……」
 読んでも読んでも、意味不明な文字と時々挿絵が挟まるだけ。内容の分からない本であるこの本を、三分で読むのを止めてしまった。
「こんな本、読んでも読まなくても別に同じじゃん……」
 そう言って、本を閉じようとするが、母から言われたことを思い出す。それは、巻末に書かれている赤い文字についてだった。
「そういえば、お母さん言ってたな……『彼』の力を借りるには巻末の赤い文字を読めば良いって言ってたけど……もう一度見てみるか」
 そう言って、見せてもらった巻末の赤い文字を見てみる。
 その文字は、本の中に書かれていた文字とは違っていた。読めない文字なのには変わりないが……どこか本に書かれていた文字とは違うような気がした。
「これ……なんて読むんだろう? 『彼』の力を借りるにはこの赤い文字を読めばいいってお母さんから言われたけど……」
 赤い文字をただじっと見つめる隼。……が、じっと見つめても何かが変わる訳ではなく、結局なんのことなのか分からず、本を閉じた。
「ふう……やっぱり読めないや……ま、こんな本読んでも何にもなるとは思ってないけど……」
諦めて本を閉じた隼。そして本を閉じた後は、ベッドに入って寝てしまった。やっぱり今年の誕生日も、外れの品だったな、と思いながら。
 が、隼は気づいていなかった。盗賊神書に鍵をかけておらず、そのまま本を開きっぱなしにしていたことに。

「ん……あれ、ここどこ?」
 眠っていたはずの隼が目覚めると、何もない闇の世界が広がっていた。まるで目が見えなくなってしまったかのように、目の前には暗闇が広がっていた。
 目の前はどこを見ても黒しかない。この状況で、自分が何をしているのか、どこにいるのかもわからなくなってしまった隼は、パニックを起こしていた。
「ど、どこなのここ……一体なんなの!?」
 訳がわからずただ慌てふためく隼。すると。
「……」
「え?」
 何やら声がする。高いとも、低いとも言えない、中性的な声。聞いていて心地いい声だった。
「烏間隼」
「……誰?」
 コツーンコツーンと足音を立てて近づいて来た何かが、隼の目に薄っすらと映った。それは……。
「君か、私の力を受け継ぐに相応しいという少年は?」
「えっ、ええ!? レ、レイヴン!?」
 目の前には、小説で何度も見た、レイヴンの姿があった。シルクハットを被り、燕尾服を着ていて、カラスのような仮面を被っているその姿。挿絵で何度も見たことはあったが、現物を見るのは初めてであった。
「私はレイヴンではない。ただのカラス。少し不思議な力を持っているだけのね」
「ど、どういうこと?」
「私は肉体を持たない。私の力を求める人間に乗り移ることで、はじめて私は私として力を使える……君のお父さんが昔、私の力を借りて怪盗になったように」
「えっ!? じゃあ、お母さんが言っていた『彼』の力を借りて怪盗になっていたって、君の力を借りていたってこと!?」
「ああ。私がその『彼』だ」
「そ、それって一体……」
「残念ながら、今回はここまでみたいだ。また……会える時に会おう」
 そう言うと、レイヴンの体が黒い羽根となって消えていく。だが、隼にはまだまだ聞きたいことが沢山あった。それを全部聞かないうちには、消えてほしくなかった。
「待って! 消えないで! 君がお父さんと怪盗をやっていたのも、お母さんが怪盗だったのも、全部っ……」
 羽根となって消えていくレイヴンを、なんとかつかもうとする隼。だが、レイヴンはというと。
「ここまでだって言っただろう? じゃあ、そろそろ目を覚まそうか」
 その瞬間、足に触れていた間隔がなくなる。体が宙に浮いたような、そんな感覚を、隼は感じた。
「待って! 君は一体……お父さんと何……わああああっ!」
 レイヴンは隼の呼び止めも聞かず、羽根となって消えてしまった。そして、隼は落ちていく。暗闇の中へ。虚無の中へ。どこまで落ちるのかわからない程、深い谷底へ。
「わああああっ!」
 ベッドから起き上がる隼。そこには、闇も何もなく、ただいつもの暗い部屋が広がっているだけだった。
「あ、アレ……? 夢?」
 息を荒くしていた隼は、自分が感じていたことを思い出す。だが、思い出そうとしても、何も思い出せなかった。
「な、なんだろう……? 何か凄く変な夢を見た気がする……だけど、思い出せない……」
 隼は、何が何だかわからない様子で、ただただ周りを見渡すだけだった。すると、母から貰った衣レイヴンの衣装と、盗賊神書なる本が目に入った。
「まさかとは思うけど……アレのせいじゃないよね?」
 あんまり母を疑いたくはなかったが、この場合原因が他に考えられるだろうか。ひとまず隼は時計を確認して、それが深夜の時刻だとわかると、衣装と本を部屋の隅っこに置いて……そのままベッドに入って眠ってしまった。

Re: 怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗 ( No.4 )
日時: 2016/09/29 12:42
名前: エル (ID: rHtcSzQu)

翌日。放課後の学校で隼は昨日母に言われていたことを友達の遼太と奈央に話していた。
「なるほど、お母さんが昔怪盗をやっていて、その過程でレイヴンだったお父さんと出会って、お母さんがお父さんに一目ぼれして、その後一緒になって怪盗を引退して、引退した後はお父さんの活躍をモデルにした小説を出版社に出したら、ものの見事に大成功しちゃった……ってことでいいのかな?」
「うん。大体そんな感じ」
「あのさ……こういっちゃ悪いと思うんだけど……隼のお母さんは相当疲れが溜まっているんじゃないのかな?」
「うん遼太……僕もそう思うよ。おまけにレイヴンの衣装に、お父さんを怪盗にした『彼』の魂が宿っているっていう、盗賊神書っていう本まで押し付けられて……もうやだぁ……」
「隼君も大変だねえ……」
「大変すぎる……」
 遼太と奈央に、哀れみの視線で見られる隼。流石に今回のことは、隼にとって余程応えたようだった。気落ちした隼は、ただただ項垂れるだけだった。
「うう……僕はどうしたら良いの? お母さんがあんな風になっちゃって……」
「ひとまず、お母さんにレイヴンシリーズをしばらく休載するように言ったら? 今まで大分根を詰めて書いていたからね……しばらく休んでも文句は言われないんじゃない?」
「そうだよ。今まで三十巻以上も休み無しで作品を出し続けていたんだから、いい加減休まないとそのうち……」
 そう言われた隼は、ますます気を落とす。まあ、あのお母さんのことだから大丈夫だと隼は思っていたが、やはりどこか不安は隠せない隼だった。
「あー……やだやだ……お母さんはどうなるのかな……」
「まあ、なるようになるんじゃない? どうせ過労による一過性の逃避行動みたいなものだとは思うし、そのうち収まるとは思うよ」
「そうだと良いね……」
 半ば諦めたような口調で言う隼。それをからかいの表情で見ている遼太。奈央であった。
 すると、遼太が言う。
「ねえ、その盗賊神書……今持ってる?」
「え? なんで?」
「なんか興味があるんだよ。その『彼』が宿っている本がどんな本なのか。別に、持ってきてないなら別にいいんだけどさ」
「別に良いよ。別に面白くもなんともない本だけど」
「持って来てるんだ……じゃあ読ませてくれよ」
 隼はカバンの中に入れておいた盗賊神書を出して、遼太に見せる。遼太はまじまじと本の中身をじっと見つめる。隼はすぐに本を閉じた代物だが、。
「ねえ……これは本当に本なの?」
「一応本なんだけど……僕にはとても、この本が意味を持って書かれたようには思えないんだ。というか、これは本当に本と言っていいのか……」
「確かに、一目見ただけじゃ何が何だかわからないと思う。だけど、この文字には規則性があるように思える。この本に書かれている文字はつまり……何かの暗号だと僕は思う」
「暗号? どういうこと?」
「要は……この本は普通の人が読めないように特殊な文字で書かれている。それは何故か? それは……この本には他の人には知られてはいけない、とても大切なことが書かれているんだと思う」
「それって何なのさ?」
「例えば……凄い宝石とか、古代の秘宝とか」
「確かにそうなるのが筋かもしれないけど……本当にこんな本が宝のありかを示す地図だなんて思うの?」
「えー、なんかいいじゃん。ロマンがあるよ! 怪盗が盗み出した古代の秘宝の地図を本として私たちの手に渡っているんじゃ」
「奈央……それ本当に信じているの?」
「えー……隼君はロマンって言葉を知らないの?」
「事実は小説よりも奇なりって言うじゃないか。ありもしない幻想よりも、現実の方がもっと驚くようなことが多いと思うよ? こんなくだらない本に時間をかけるより、もっと現実に目を向けた方が良いと思う」
「うー……相変わらずロマンが無いなあ隼君は。とても小学生の言葉とは思えないね」
「昔から、お母さんの被害に遭っていたからね……こういうのはお母さんの悪ふざけみたいなものだから、あまり真剣に受け止めないが良いと思うよ」
「あ……そ……」
 隼のあまりにも現実的な言動に、呆れ果てる奈央。奈央は隼と友達とはいえ、隼のこういう所が嫌だと思っていた。まだ小学生だから、もっとアクティブになってもいいと思うのに……と、いつも思っていた。
 そして、まだ例の本を読んでいた隼は遼太はというと。
「うーむ……規則性があるのは分かったけど……やっぱり日本語訳は相当難しそうだとは思うよ」
「あれ……遼太まだその本読んでたの?」
「うん。規則性があるけど……日本語にするのは相当苦労すると思うよ」
「いや……これを日本語に出来るって発想がおかしい」
「けれど……内容はさっぱりだ。文字に規則性はあるけど……文章に規則性が見られない」
「だろうね。そんなもの解読できる方がおかしいと思うよ」
「ねえ隼君。お母さんにそれっぽいヒントとかもらわなかった?」
「うーん……巻末の赤い文字が、本に宿っている『彼』の力を借りるための呪文とか言ってたけど」
「巻末の文字……ねえ」
 隼にそう言われて、遼太はすぐさま巻末の方へとページをめくる。そしてその文字を見てみる遼太。
「ふむ……これは本の中にあった文字とは結構違う文字だな……一見すると、本の中にある文字と同じに見えるけど……微妙に違っているのがまたニクイなあ……以外と考えて作られているね……」
「そう?」
「でも……この文字は他の文字とはどこか違う……何かこう……生きているような……」
「生きている? どういうこと?」
「なんかこう……変な感じがするんだ。この文字を見ていると、何かが語り掛けてくるような気が……」
「……そんなことあるわけないじゃん」
「そうは言っても……うわっ!?」
 いきなり大声を上げた遼太。それに、隼と奈央は驚く。
「遼太君どうしたの?」
「い、今……この本に書かれている文字が僕を睨んだような気が……」
「……それ、本気で言ってるの?」
 あまりにも非現実的なことに、ただただ呆れることしかできない隼。
「……ゴメン。そんな気がするだけだ。この本は返すよ」
「うん。ありがとう。それじゃあ二人とも、僕は帰るよ」
「うん。それじゃあまたね」
 本を返してもらった隼は、そのまま本を持って学校から帰って行こうとする。すると、奈央が呼び止めた。
「あ、そういえば隼君に言いたいことあるんだった」
「何?」
「誕生日に大変な目にあった隼君に、後で私の宝物を見せてあげる」
「あ、ありがとう……」
「うん。誕生日に酷い物を貰ったって言うから、せめて良い物を見れば少しは気分も良くなると思って……」
「ありがとう。その心意気だけで十分だよ」
 少しでも自分のことを心配してくれていた奈央に、感謝の気持ちを覚える。心から自分のことを心配してくれる、友人の奈央に。
「まあ、お母さんはきっと大丈夫だと思うから心配しなくていいよ」
「うん。小説家っていうのは意外と難儀な職業だからね……まあ、今まで耐えてきた隼君なら大丈夫だとは思うよ」
「うん。それじゃあ!」
 二人の励ましを受けて、家へと帰って行った隼。
「ただいま」
 家のドアを開けた隼。すると、家の中は真っ暗であった。明かりは一つもついておらず、まるで光が消えてしまったようにも感じられた。
「アレ? 停電かな? まさかとは思うけど……お母さんがパソコン使いすぎてブレーカーを落としちゃったかな?」
 ひとまず、ブレーカーを探して暗い家の中を歩き回る隼。しかし、太陽が昇っているというのに、何故こんなにも暗いのか隼は疑問に思っていた。カーテンも何も閉めていないというのに。
「お母さん! どうかしたの? もしかしてブレーカー落ちた?」
 その言葉と同時に、向こうから足音が聞こえてきた。恐らくお母さんがこっちに来ているのだと思った隼は、足音のする方向に向かって行った。そしてしばらく歩くと、暗闇の向こうにお母さんがいた。隼は駆け寄る。
「お母さんどうしたの? ブレーカー落ちたの?」
「違うわ。これは私が光を消しているのよ」
「は? お母さん何を言っ……て……?」
 母が振り向いた時、見えた顔にはなんと……顔が無かった。いや、顔が無いように見える白い仮面を被っていた。それはもう、目も口も、何もない仮面だった。
「お、お母さんそれ……!」
「あら言わなかった? 私がレイヴンの小説に出てくるノーフェイスウィッチのモデル、フェイスレスウィッチの正体だということに。それに、これからあなたに真実を見せてあげるのよ。レイヴンの真実を」
「お母さん! ふざけてるの!? こんなに追い詰められているんだったら、ちゃんと休みを取って、休載して——」
「やれやれ……しばらく眠っていなさい」
 母が隼の額を指でつつくと、隼はスイッチが切れたように眠ってしまった。
「さあ隼……これからたくさん見せてあげるわ……レイヴンの真実を……」
 そう言って、母は隼を抱きかかえて部屋の奥へと連れて行ってしまった。その仮面の下に、愉悦の表情を浮かべながら。

Re: 怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗 ( No.5 )
日時: 2016/10/16 21:28
名前: エル (ID: qRt8qnz/)

リアルの方が忙しかったので、大分更新が遅れました。ごめんなさい。


隼が目を覚ますと、自分が暗闇の中にいたことに気づく。
「う……あ、あれ? 僕、何をして……」
「目が覚めたわね、隼」
 暗闇の中から母の声が聞こえた。その瞬間、隼の目の前にいきなり明かりがつく。それはろうそくの明かりであり、いくつもの明かりがひとりでについた。その怪しさに、隼は何とも言えない恐怖を感じる。
「なんだここ……とりあえず、ここから出て行かなきゃ」
 すると、体に違和感を感じた。後ろを見てみると、なんと縄で柱に縛らつけられていた。柱に縄で縛られていた隼は、何が何だかわからずただただ暴れまわることしかできなかった。
「何これ!? ちょ、ちょっと一体どうなっているの!?」
「言ったじゃない、レイヴンの全てをあなたに見せるって」
 そういうと、また暗闇の中から母の声が聞こえてきた。そして、母らしき人物が暗闇の奥から来た。が、隼の目の前に来たのは母の姿ではなかった。
 黒いフードを頭に被り、背中にはマントを羽織っている。そして体にはスーツを身につけており、手には爪がついた黒いドレスグローブを身に着けていた。そして、先端に水色の水晶がついた奇妙な杖を持っていた。そして、極め付きは顔に被っていた仮面だった。その仮面は、顔の無い白い仮面。目も、口も、何もない仮面だった。
 それはまるで、レイヴンの小説に出てくるライバルの女怪盗、ノーフェイスウィッチのような姿であった。
「ちょっとお母さん! 何考えているの!? 僕を柱に縛り付けたりなんかして……僕に何をしようって言うの!?」
すると母は、縛り付けられている隼の前にしゃがみこむ。そしてその様子を、頬杖をつきながらまるで映画でもみるかのように観賞していた。更に、仮面の中からフフフと怪しげな笑い声をあげており、魔女のような恐ろしさを隼は感じていた。
 そして、母の仮面の中から笑い声が止まる。そして話をし始める。
「さっき言ったじゃない。レイヴンの全てをあなたに見せるって」
「お母さん! もうやめてよ! 目を覚ましてよ! もうお母さんが何を言っているのかわからないよ!」
 隼が必死で母に訴えているのだが、母は気にする様子もなく、懐から本を取り出してブツブツとつぶやいていた。
「まあ、いきなりこんなことされて落ち着ける訳ないでしょうけど、レイヴンのことを知ってほしいから仕方ないわ。とりあえず……儀式に必要な物はそろってるから問題ないわね」
 隼のことなどお構いなしに、母は本をめくってブツブツと話していた。そして隼はというと、柱に縛り付けられているこの状況を嘆いていた。目からこぼれる涙で床を濡らしながら。
「うう……お母さん壊れちゃったの? もう小説を書きたくないの? こんな現実が嫌になっちゃったの? お母さん……もうやめて……僕こんなお母さん見たくないよ……! お願い、目を覚まして!」
 しかし、母に言葉は届かない。
「私は壊れてなんかいないわ。真実を見せてあげるだけだから……さあ、レイヴンの儀式を始めましょう……!」
「儀式ってなんなのさ……とにかくやめてよぉ!」
 泣き叫ぶ隼だが、母に声は届かない。それどころか、母はフフフと笑っており、今の状況を楽しんでいるように見えた。それはまるで、魔女のような邪悪な笑いであった。
 怖い。怖くて仕方ない。今見ている女性は、もはや母ではなかった。邪悪な思想に取り憑かれた、魔女にしか見えなかった。
「ウフフフ……!」
 不気味な笑い声を立てながら盗賊神書を隼の目の前に置くと、杖で床を一突きする。すると、床から黒い光が現れ、母と隼を囲む。
 そして母は立ち上がり、杖を両手で持って日本語とも外国語とも思えない呪文を口にし始める。その呪文の意味はわからない。しかし、その呪文の内容は、あの盗賊神書に書かれてあったものだという事は理解できた。
 そして、一通り呪文を唱え終えた母は、杖を回す。そして、杖をいきなり隼の目の前に突き立てると、隼に向かって言う。
「大鴉の姿は何処へ消えた」
 その言葉と同時に、盗賊神書が突然浮き上がる。すると、盗賊神書が勝手に開いてペラペラとページがめくられる。そして、あの赤い文字の書かれている最後のページとなり、赤い文字が隼の目に入る。
 すると、その赤い文字が光る。その光った文字を見ると、何やら隼の頭の中に何が入って来た。その何かが入って来たと同時に、隼はいつの間にか口を開いて言葉を言っていた。
「闇夜に紛れて消えた」
 その言葉を、言おうと思ってないのに口走った隼。その瞬間、黒い光の中から羽根が出てくる。羽は黒く、まるでカラスのような羽根で……。
「ウフフ……これで『彼』は隼の中に……ああ、嬉しいわ……」
 仮面に隠れて隼には見えなかったが、仮面の下の母の表情は恍惚の表情となっていた。それほどこのことが嬉しいのだろうか。
 すると、黒い羽根は次第に渦巻く。そして、渦巻いた羽根は、どんどん集まっていき、人の形を象っていく。
「な、何……? 何が起こるの……?」
 人型を象った羽根の塊がいきなり隼に近づいてくると、なんと隼の中に入入っていく! あまりの出来事に、理解が出来ない隼。
「うわあああ何これ!? 羽根が……羽根が僕の中に! ああああああああ! やめてええええええ!」
「さあレイヴン、もう一度私の前に現れて。あの人に取り憑いていて、怪盗をやっていたあの時のように。あなたに相応しい子が、ここにいるから……」
 羽根が全て隼の中に入ると、隼の下に影が出来る。光もないのに出来たその影は、長く伸びて人の形となる。しかし、その影は隼の姿とは全く違う姿であった。
 すると、伸びていった影が隼から離れた。隼から離れた影は、黒い煙を上げながら浮き上がって行った。
 その浮き上がった影は、次第に鮮明さを増していく。そして、はっきり見えるようになると、その姿に驚いた。それは、いつも小説見ていたレイヴンの姿であった。シルクハットにマントのレイヴンだった。
「ふわぁぁ……やれやれ、フェイスレスウィッチかい? 折角いい気持ちで寝ていたのに……」
 長い黒髪を、革手袋で払いのけながらそういうレイヴン。その長い髪の毛の下には、挿絵で見ている端正な顔立ちが見えていた。
「だってレイヴン、あなた二十年後に起こしてくれって言ってたし、私とお父さんの子供に是非、怪盗を継がせたいって言ってたでしょ? だから起こしたのに……」
「ついさっき男の子にじっと見られて少し起きちゃったからね……それまではずっと深い眠りについていたんだけど、その子に本を開けられて日を浴びちゃったからね……ああ眩しかった」
「そうねえ」
 いきなり現れたそのレイヴンと、なんの変哲もなく会話している母。だが、隼から見れば、そのレイヴンには明らかな違和感があった。それは。
「お母さん……その人、なんかおかしいよ。空中に浮かんでいるし、なによりこのレイヴン、足が無いよ!?」
 驚いた隼に対し、母と浮いている男は笑い始める。母は顔に手を当てて笑い、レイヴンはマントをたなびかせながら笑う。母の顔には表情が無く、男がたなびかせるマントの中には、下半身というものがなかった。
「まあそうよね、普通の人から見ればレイヴンはおかしいもの」
「まあ今の私は幽霊だからな。足なんて死んだ時に捨ててしまったよ」
「幽霊だから普通に浮けるしね〜正直私の力なんかより良いわよ〜」
「ウィッチ……やはり君は彼と結婚してから不気味さがなくなったようだ。今はただの魔女の力を持つお茶目な女性だ」
「ウフフ。ごめんね」
 二人で楽しそうに会話しているが、隼はそんなことよりも今の状況を説明して欲しかった。この縛られている状況と、何かの儀式で現れたレイヴンのことについて。
「ねえお母さん! これって一体なんなの!? 説明してよ!」
「そうねえ……私儀式で熱くなって汗かいちゃったし、疲れちゃったわ。後はレイヴンから聞いてちょうだい」
 そういうと母は、部屋の電気をつける。明かりがつくと、床に書かれた魔法陣や柱に縛られている状況。そしてレイヴンと仮面の母がはっきりと見えた。
そして母は、フードを下して杖を壁に立てかけた後、ドアを開けて何処かへ行ってしまった。
取り残された隼は、何が何なのかわからなかった。いきなり母が儀式を初めて、いきなりレイヴンが現れたことに。
「あ、あの……」
「わかっている。説明してほしいんだろう? 私のことを、そして母のことを」
「あっ、はい。お願いします……」


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