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菊と蓮と藤と。
日時: 2016/10/28 23:42
名前: 四葉 春蜜 (ID: 4NzAaWKB)

とある、古マンションの一室。

生活音の一切しないその部屋は、人が住んでいることさえ疑われる、謎の部屋だ。

一説によるとその部屋の住人は、背の低い太った中年のジジイという風貌らしい。

当然、そんな根も葉もない噂は間違っていて、本当の容姿は、

『高身長』、『細身』の一見、端整な顔立ちだと錯覚するような風貌なのだ。

だが、その住人、菊川紘は、28にして『ニート』&『引きこもり』のダメ男なわけで、

モテる、というのは『二次元』に限られた話だ。

そして彼は非常にネガティブで、後ろ向きな考え方をする野郎です。

お気を付けて、接してあげて下さい。

そんなオタッキーな彼の元を訪れたのは、幼馴染みの蓮村葉子だった。

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Re: 菊と蓮と藤と。 ( No.2 )
日時: 2016/12/24 11:59
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


翌日、九時五分。

紘は怪力怪獣・葉子に連行され、空港へと来ていた。

昨夜、夜中まで凛香ちゃんを眺めていたせいで、瞼が重い。

ウトウトと死にそうな顔をしていると、葉子が耳元で大声を出し、一気に目が覚めた。

「壮介だ!」と叫んでいるようだった。

「あっそ」と興味のないフリをし、目を閉じる。

だが、思い切り前後に身体を揺さぶられ、無理にでも起こされる。

葉子が壮介に寄り、楽しそうに何か話している。

その様子を眠そうな半目で見た紘は、

「あのう〇こ野郎(葉子)、壮介の事、色眼鏡で見てやがる。マセ野郎が」

と葉子に嫌味を吐いた。

二人の様子が気に入らず、紘は待ち合いの椅子を横に三つを占領し、仰向けに寝転がった。

なんなんだよ、アイツ。

前は壮介の扱いは雑の極みだったのに、帰って来たら笑顔で擦り寄りやがって。

二重人格なんだよ。俺のこと置いていって、楽しくガールズトーク? …壮介は女じゃねえわ。

紘は近くを通り過ぎる人々の足音に耳を塞ぎ、目を閉じた。

Re: 菊と蓮と藤と。 ( No.3 )
日時: 2016/12/24 12:23
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


「ん…」

目を覚ますと、俺は知らない場所にいた。

俺は白く奇麗なベッドに寝かされ、来ていた服は見知らぬ新品の服に変えられていた。

……イヤン♡

辺りを見渡すと、入口から見てベッドの右手に棚があるだけの、生活感のない質素な部屋だった。

ベッドから降り、ドアを開ける。

ドアの先にあったのは、ビキニのお姉さん達がいる楽園……

…ではなく、葉子と壮介がソファーに座ってテレビを見ていた。

「あっ、紘、大丈夫?」

葉子が駆け寄ってきた。

「平気」紘は適当にそう返し、自分に目を向けている壮介に訊いた。

「…げ、元気だったか」

「…別に、普通」

壮介はそう言い、視線をテレビへと戻した。

紘は、砕け散った自分のハートの破片を一つずつ拾い、セロハンテープで繋げ、心に戻した。

…あまりに素っ気なくないか。

紘は訝しげに壮介を睨み、壮介の背中にアッカンベーをした。

Re: 菊と蓮と藤と。 ( No.4 )
日時: 2016/12/26 12:22
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


「紘、お腹空いてない? 私と壮介はさっき食べたんだけど」

キッチンにいる葉子に訊かれ、紘は腕時計を見た。

ああ…もう、昼か…。

「蓮村、お前何食ったんだ?」

「え…別に」

「……はっはーん、さては寿司でも食ってきたな?」

紘が葉子に冗談で言うと、葉子は肩をギクッと揺らした。

「おま……お前ら………死にそうな俺を置いて、寿司食ってきたのかあっ!」

紘が目に涙を溜めながら二人を責めると、葉子がヒヒッと笑った。

「死にそうって……夜中まで凛子? 凛菜? ちゃん眺めてたから寝不足なんでしょ」

「凛香ちゃんだあーっ!」

紘は号泣しながら寝室に走り、ベッドの布団に包まった。

「うっ……じゅるるるっ……ひっ、ひくっ…何なんだよ…アイツらあ…俺も…俺も寿司食いてえんだよおっ!」

Re: 菊と蓮と藤と。 ( No.5 )
日時: 2016/12/26 12:45
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


それから暫く泣いていると、部屋のドアがノックされた。「俺だけど」

紘はハッと我に返り、ティッシュで涙と鼻水を拭き取った。「どうぞっ…」

頭に布団を被ると、足音がベッドの側に来た。

ギシッという音が聞こえたので、ベッドに腰を掛けたのだろう。

「菊川、ゴメン。…今度からさ、お前もちゃんと連れて行くからさ」

さっきの素っ気ない声ではなく、本当に申し訳なさそうな落ち込んだ声だった。

よく考えたら、俺が悪いんだよな。

凛香ちゃんなんて、所詮二次元の『絵』でしかないし、存在しない。

そんな女の子を遅くまで眺めて、空港で寝て、終いには二人の昼ご飯に怒るっていう…。

「蓮村も、泣いて謝ってた。『寿司中毒の紘を連れて行かないなんて、私、頭イカれてるわ』って」

紘はそこで目が覚めた。

一番大切なのは蓮村なんだ。

そんな蓮村を泣かせて、心から傷付けた俺。

……謝らなきゃ。

紘はベッドを飛び出し、部屋のドアを開けた。

「蓮村っ、ごめ………」

部屋の中は真っ暗だった。カーテンも閉まっていた。

蓮村は家出をしたのかもしれない。

「蓮村! 蓮村、どこだよっ! 蓮村…っ!」

その瞬間、パァァンッと耳を突き刺すような爆音が部屋に響いた。

「え………っ?」

呆然と立ち尽くしていると、部屋が明るくなり、紘は目を細めた。

そして二度目の爆音が響き、紘は腰を抜かした。

Re: 菊と蓮と藤と。 ( No.6 )
日時: 2016/12/28 15:00
名前: REI (ID: 4NzAaWKB)


状況を理解するのに、数秒がかかった。

耳元でクラッカーを鳴らされ腰を抜かした俺、それを囲む笑顔の蓮村と壮介。

ドッキリ。…俺はすっかり騙された。

「…蓮村が泣いてるって、嘘なのか?」

「嘘! 泣くわけないよ、あんなことで」

蓮村がハハッと笑い、壮介も口の端を緩めた。

紘は笑った。

自分が見事に騙されたからだ。

蓮村が紘の前に皿を差し出した。

四角く固められた白い米の上に、どっしりと乗った刺身。

「寿司っ…?」

「そうだよ。私達、お昼ご飯はおにぎりで、お寿司なんか食べてないよ。…嘘ついてごめんね」

そう言った蓮村は両手を顔の前で合わせ、謝った。


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