コメディ・ライト小説(新)
- Re: まほがく! ー魔界のおかしな仲間達ー ( No.3 )
- 日時: 2016/03/30 02:46
- 名前: ささみ ◆dRwnnMDWyQ (ID: n0SXsNmn)
*残念な理事長、ここにあり。
まほがくの理事長兼校長は、自由気ままな死神である。
ちなみに死神だということは他の先生方と生徒会メンバーしか知らない。
名をイヴァ・レクイエムという。
そして、重度のロリコンであった。
リンが委員会を2つ掛け持ちできているのも、“六天王”だからという理由もあるだろうが、大半は甘やかしであろう。
…それはさておき。
イヴァは根っからの弱肉強食的思考であり-というか魔界がそういう世界なのだが-、強き者が上に立つという考えなので、力を持つ“六天王”を生徒会に配置した。
アレンが1番強い力を持っていて、生徒会長に任命されたのだが、彼には正直やる気が無かった。
今、生徒会がちゃんと組織として成立しているのは、他のメンバー(主にリュート)が頑張ってくれているおかげなのである。
「アレン、今日の話し合いのメモ、理事長に持っていくね」
「あぁ、宜しく」
先程の総会が終わった後。
もう外は夕日が沈もうとしていた。
リュートは今日話し合った内容が書かれているノートを持って、生徒会室を出た。
1つ、大きな溜め息を吐く。
理事長室までの長い廊下を歩いていると、後ろから誰かが走ってくる足音がした。
振り向くと、リンがこちらに向かってきていた。
「リュートにーちゃん!」
「リン、転ばないように気を…」
「にゃー!?」
「言ったそばから…」
リンは、顔から盛大に転んでしまった。
思わず、くすりと笑ってしまう。
「大丈夫?鼻、打ったんじゃない?」
「だいじょーぶ。リンは、つよいこだから」
「強い子は転ばないよ」
「んにゃ!そうなの?」
「ふふ、多分ね。ほら、立って」
リュートが差し伸べた手を掴んで立ち上がり、服についたほこりを払い落すリン。
「そういえば、どうしてここに来たの?ローゼは許した?」
「おねーちゃんに見つからないように、こっそりきたよ」
リンは唇に人差し指を当て、無邪気に笑った。
「あのね、リュートにーちゃん、いつもがんばってるから、リンがノートもってってあげる」
「本当?嬉しいな。…でも」
口籠るリュートを見て、リンは首を傾げた。
リュートは、リンが理事長の元に1人で行ったらどうなるか考えた。 あのロリコンのことだ、何かするに違いない、と。
「僕も一緒に行くよ。1人じゃ危ないから」
「え?がっこーはあぶなくないよ?リンはだいじょぶだよ」
「あのねリン。放課後の学校には怖い噂があるんだよ」
「こわい、うわさ…?」
「学校に1人で残ってるとね、どこからともなく無数の手が現れて…」
「それで…?」
「人間界と魔界の間にある、真っ黒な所に引きずり込まれるんだって」
本当はこんな噂なんて無いのだが、できるだけ本当っぽい雰囲気を持たせるためにいつもより低い声で話してみた。
リンは完全に信じきって、大きな瞳を涙で濡らした。
「ひぃぃ…じゃあ、リュートにーちゃんも、いっしょにいこ…」
「いいよ」
リュートは心の中で「嘘吐いてごめんね」と謝った。
嘘だと気付くことないリンは、リュートの手を握り、怯えながらきょろきょろと辺りを見回していた。
暫く歩くと、理事長室に着いた。
重々しい、木製で焦げ茶色の扉を叩く。
「どうぞー」
気の抜けた返事が聞こえ、リュートは扉を開けた。
「失礼します」
「しつれーします」
「話し合い、終わった?今日はいつも以上に長かったね」
黒い革の、大きな回転椅子に座り、微笑んでいる。
無造作に結んだ紫色の髪と瞳を持つこの男が、イヴァである。
「はい。また、ちょっと言い争いがあって…。あ、これ、今日のノートです」
「ありがと、いつもご苦労様。…んで、今日はリンちゃんも一緒なんだね」
「えぇ、まぁ」
リンを視界に捉えると、イヴァは折角の整った顔立ちを台無しにする位のだらしない顔をした。
口元にはよだれが見えるようだ。
「うへへ…リンちゃん今日も可愛いね。僕に会いに来てくれたの?」
「んー?リュートにーちゃんのおてつだいさんなんだよ」
「そっかー。ローゼちゃんは?」
「おねーちゃんにないしょできたよ」
リンがそう笑顔で言った刹那、理事長室の扉が勢いよく開いた。
ローゼが足蹴りで扉を開けたようだ。
観音開きの扉の、片方が取れ、もう片方にはひびが入った。
イヴァはそれを見て頭を抱えたが、ローゼは気にすること無くつかつかと歩いて入ってきた。
「リン、探したぞ。勝手にいなくなったら駄目」
「ごめんなさい…」
ローゼは耳を垂れるリンの頭を撫でた後、イヴァとリュートを睨み付ける。
そして、リンの手を引いて部屋を出ていった。
「ドア壊されたの何回目だろう…」
「ローゼには魔術よりドアの開け方を教えてあげたらいいんじゃないですか?」
「僕の教育の問題かぁ…。あぁ、リュート。もう帰った方がいいよ、暗いし」
「はい」
「今度はアレンも連れてきてね。あの子の態度、悪意は無いと思うけどね。ま、これからもリュートがサポート宜しくね」
「分かりました。…じゃ、帰りますね。また明日」
「じゃあね~」
軽く一礼して帰っていくリュートの背中を、イヴァはどこか寂しげな表情で見つめていた。