コメディ・ライト小説(新)

汚れた群青(1) ( No.1 )
日時: 2017/01/07 19:37
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: F69kHN5O)







 何か、間違えちゃったのかな。
 清々しいほどの群青の空と、ぐちゃぐちゃに破かれた本。

 呼吸を整えて、そっと目を閉じる。
 
 眼の縁にたまっていた雫はぽとりと地面に落っこちて、それは水たまりの一部となる。

 「あ、踏んじゃった」

 赤い表紙の本を、彼は躊躇なく踏みつけた。
 口元は緩んでいて、私を見下ろすようにまた本を踏みつけた。

 「ごめんね、本当、わざとじゃないんだ」

 踏まれた本がまたびりびりと破れていった。
 私がそれを取ろうとすると、また彼は足を高く上げて、そのまま振り下ろした。

 ぐちゃり、私の手を踏みつぶす。

 「ごめん、大丈夫?」

 地面に押し付けられた私の手。
 やっぱり罵るように、見下すように、私を上から睨みつける彼の表情はとても悍ましいものだった。
 地面にこすりつけられて、切れた皮膚から赤い血が見えた。
 
 「その本、まだ大事にしてんだ。お前」

 踏みつけていた足が緩んだ瞬間を狙って、私は本を取った。
 赤い血が赤い本に落ちて、少しだけ跡になった。
 同じ色、けれど違う色。血色より鮮明なその本の赤は、私の制服の黒に映え、強く彼の瞳に映った。

 「いい加減喋れよ、俺が全部悪いみたいじゃんか」

 赤い本を抱きしめて、私は地面に座り込む。
 睨みつける彼に、やっぱり私は何も言わなかった。

 「俺が……全部、悪いのかよ、お前だって」

 震える声に、彼の怯える表情。
 空間には私たちしかいなかった。
 何か言葉を探して、彼はもごもごと口を動かす。
 けれど、彼はぐっと息を呑んで出ない声を必死で出そうとしていた。

 


 「大丈夫、私が全部、悪いから。あなたは何も、悪くない」



 汚れていたのは私だけ。
 君は何も悪くないんだよ。


 そんな言葉くらい、私が何度だって言ってあげるよ。


 彼は今までの緊張がほぐれたのか、ふと気を抜いた瞬間にぼろぼろと泣き崩れた。
 男の子なんだから泣かないの、なんて言ってあげればよかったんだろうか。
 嗚咽する彼を私はただ見ていただけだった。