コメディ・ライト小説(新)
- 赤い花火(8) ( No.8 )
- 日時: 2017/01/23 16:17
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
――明日、花火を見に行きたい。
いっこ、にーこ、さんこ、夜空の星を一つずつ数えながら、ぼそりと彼女はつぶやいた。
彼女の瞳には星が映り込んでいて、まるで宇宙の瞳だと僕は思った。
「花火、見たことあるの?」
「あるよ。夜空に咲く大きなお花のことでしょう」
比喩で表現したのか、彼女は笑って答えた。
長く伸びた髪を右耳にかけて僕の方を見る。
「とってもきれいだと思った、だからまた見に行きたいの」
「見に行くのは無理だよ」
僕がそう答えると、彼女は「そうだね」と軽く口元を緩めた。
眉が下がるのを見て、僕は自分の発言を悔いた。
言っていい真実と、言っちゃダメな真実があるのだと。
僕はちゃんとわかっているのに。でも、わかっていてもできないことがいっぱいある。
「昨日は赤を見た」
彼女がまるで機械のように言葉を紡ぐ。
赤は血の色。きっと昨日、彼女は血を吐いたのだと、僕はそう思った。
「今日も赤を見た」
彼女は続ける。また今日も吐血しちゃったんだね。
僕は何も言わず、彼女の言葉にうなづいた。
「明日も、赤を見るのかな」
明日も赤しか見えないのかな。赤ばっかの人生なのかな。
彼女の瞳にはいつしか涙が浮かんでいた。
ぽつりぽつりと落としていく彼女の欠片はとても小さくて、僕が掌で受け取ろうとしても隙間に入り込んで地面へ帰ってしまう。
ふいに、五時を告げるチャイムが鳴った。
聞き覚えのある夕焼け小焼けのあの音色。なめらかに流れていく音楽につられて、彼女は口ずさんでいた。
「ゆう、やけこやけで、ひが、くれ、……」
こらえていた涙がまたぼろぼろと彼女の瞳から零れて落ちる。
僕がハンカチを渡すと、彼女はごしごしと自分の顔を拭いた。
「ねぇ、明日も私と話してくれる」
彼女は僕の手をつかんでそういった。
明日には死ぬから、だから。
看取られたい。彼女は誰かに看取られたい。
だから僕は今日も彼女の願いを叶えるためにここにいる。
彼女の死を見るために、彼女が息をしなくなる日まで、ここにいる。