コメディ・ライト小説(新)

女騎士のお話(9) ( No.9 )
日時: 2017/01/23 16:17
名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)




 ある日、王様が言った。
 それは間違いだったのだと、今ならわかる。

 ――隣国と戦争をする

 彼の気持ちなんてわからない。わからなくてもいいのだ。
 彼が、この国の王が「戦争」を、「勝利」を所望している。私たちは、彼にそれを与えなければいけないのだ。
 砂嵐が吹き荒れて、私はごくりと唾をのんだ。喉にとおるその唾さえも気持ち悪く感じた。傷だらけの足は、思うとおりに動いてはくれない。私はそれでも王様のために、国のために戦った。
 

 死んだ。みんな死んでしまった。
 あっけなく、敵の矢にあたった人や、敵陣に攻め込んで切り殺された人。死に方は色々だったけれど、みんな死んでしまった。
 けれど、勝利を手に入れた。沢山の、うん千万の屍を越えて、私たちの国は勝利した。
 戦争に出ていた人間は、私と王様以外死んでしまった。




 「王様、王様。どうか、お願いです。私を殺してください」


 勝利をつかんだのはお前のおかげだと、帰ってきた私たちを国民は祝福した。
 私の心には、ただぽっかりと大きな穴が開いているだけ。
 ぐちゃぐちゃになった死体を、黒く濁った血液も、目を瞑ればすぐに映像となって浮かび上がってくる。生々しいそれを、私と王様だけが覚えている。

 「それは無理だ。わたしには君を殺せない」


 王様は私にそう告げた。

 
 「私は罪人です。沢山の人の死を見ました。助けることだってできた人たちも、手を伸ばしたら救えた命もあったのです。私は彼らを見殺しにしました。英雄として民に祝福されるようなそんな人間ではないのです。どうか、私を殺してください」

 王様はただ私をじっと見つめて、深いため息をついた。
 呆れられたのだろうか。王様の表情ばかり伺って、私は息することも忘れていた。

 私はただの騎士だった。弱い弱い騎士だった。
 だれも救えない弱い弱い騎士だった。


 「君には、生きてほしかったな」


 王様はそうぽつりと声を漏らして、ゆっくりと瞼を閉じた。
 それからゆっくりと椅子から降り、私のほうに歩いてきた。
 

 王様が手を伸ばしてきたので、私は驚いて目を瞑る。
 暖かな掌が、私の頭を撫でた。驚いて私は目を開けるけれど、王様の顔は影になって見えなかった。

 
 「君には、幸せになってほしかった」

 王様は、私と歳も変わらない王様は、そうぽつりとまた声を漏らして部屋から出て行った。