コメディ・ライト小説(新)
- 王様のお話(10) ( No.10 )
- 日時: 2017/01/24 17:16
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
少女はにこやかに笑って、いつも人々の手伝いをしていた。
毎朝にわとりから卵をもらい、牛の乳を搾り、花に水やりをしていた。近所の子供たちに絵本を読んであげたり、一緒に鬼ごっこをしていたりした。
俺はそっと陰からそれを見ていた。
少女はやがて騎士になった。
男にも勝るほど強くなり、少女は俺の前にやってきた。
「本日より、あなた様にお仕えいたします」
あのときみたいな笑顔は見せてはくれなかった。
呼吸をする。浅く呼吸をする、そしてゆっくりと前を見た。
ぴらりと落ちたその書類にはこれから起こることのすべてが書かれてある。
戦争が始まる。
たくさんの人間が死ぬというのに、戦争が始めるという。
戦争が始まれば武器がたくさん売れ、経済状況が潤うだとか、そんな馬鹿らしい理由で。たくさんの人間が死ぬ選択肢を俺は選ばされた。
生き残ったのは、俺と一人の女騎士だけだった。
あの時の少女だった。
彼女は民衆から祝福されてもただ泣くだけ。「私はだれも救えなかった」そう、細い声でただ泣くだけ。
自分の愚かさを嘆く少女には、あの時の面影が一つもなかった。
「私を殺してください」
少女の唇はそう動いた。
俺と同じ年の彼女は、ただ懺悔を繰り返す。
自分を追いつめて、頭の中で自分を何度殺したのだろう。
二人っきりの空間は、音もせず、ただ彼女の涙が地面に落ちた。
「そんな結末、俺は望んでなかったのに」
少女が出て行ってから俺はまた椅子に座りなおす。窓から見えた群青の空を見つめながらふぅとため息をつく。
街では祭りが始まっているのだろう。戦争の勝利を祝って、民衆は舞ったりしているのだろうか。勝利の女神とまで謳われた少女の望みとは正反対に、街は喜びに更けていく。
「望みを何でもかなえてやろう」
ぽつりと考えていた言葉が漏れた。
きっと今の少女は「自分を殺してくれ」というだろう。だから言葉にできなかった。
俺は椅子から立ち上がり、金庫を開けてあるだけの財宝を手に外へ出る。
山の中まで「あの人」に会いに、城を抜け出した。