コメディ・ライト小説(新)
- 王様と女騎士のお話(11) ( No.13 )
- 日時: 2017/01/25 16:41
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
森の奥深くに入る。木々が茂るその場所は、深い緑の森だった。
足場が悪く、少しでも踏み外せば、雪崩のように下に落っこちる。
踏ん張るようにして、俺はゆっくりと一歩ずつ前に進んだ。
「おや、こんなところにあなた様のようなひとが来てもよいのかしらね」
やっとたどり着いたその場所には、たった一つだけ家が建っていた。
カラフルな家だ。屋根は赤と緑のクリスマスカラーで、煙突からはもくもくと煙が出ている。冬で火を起こしているのなら分かったが、まだ秋の初めだ。しかも汗をかくぐらいの暑さなのに。
家の前には一人の少女がにたりと微笑んで立っていた。
「なんで、煙が出ている?」
「私の質問をちゃんと聞いた? ここに来るような人間じゃないでしょうに、あなた様は」
「あぁ、すまない。少し、あなたにお願いがあって」
「私にお願いなんて……あなた様ほどの人間が私にお願いなんて……」
くすくすと少女は笑った。
黒いマントにとんがり帽子。一見、アニメなどで見る魔女っ子のような姿の少女はくるりと一回転してにこりとまた俺に微笑みかけた。
「何のお願いかしら。場合によっては、あなたもあれになるかもしれない」
魔女っ子はそういって煙突のほうを指差した。俺の目に映るのはもくもくと空と一体化する煙。最初は意味が分からなかった。
けれど、すぐに気付く。この季節に火を起こす。
何かを焼いている。
あぁ、人間を焼いているんだ。
俺は少しだけ声ばった体をさすって、魔女っ子に言った。
「入れ替わりの薬がほしい」
「入れ替わり? あなた様のような人間が立場を捨てるというの?」
「あぁ、ある人間と入れ替わりたい。きみにしか頼めない」
そういって俺は手にあるだけの金貨と財宝を魔女っ子渡した。
彼女は不思議そうにそれを見た後、ふっと鼻で笑てこちらの表情を伺った。
馬鹿な人間、そう思われているのだろう。彼女の瞳には光はなかった。
「あなた様の結末が良いものでありますように」
魔女っ子はそういってあのカラフルな家の中から小さな瓶を取ってきて俺に渡した。
受け取った俺は「ありがとう」とお礼を言ってその場から離れる。
彼女の言葉には抑揚はなく、多分俺の結末を分かっていたからこそ、彼女はそう言ったのだろうなと山を下りながら一人で笑った。
俺はその日、城に帰って女騎士のあの少女を呼び出した。
彼女はまだ泣いている。自分が見殺しにしたのだと、わんわんと泣いている。
俺は彼女に薬の入った水を渡した。
彼女はごくりとそれを呑む。俺も彼女と同じように、薬を水に溶かして呑んだ。
ゆっくりと俺と少女は眠りについた。
先に目覚めたのは俺だった。小さくなった体は、女のものだった。
目の前には眠り続ける俺がいる。少女だ、俺の姿をした少女。
少女の姿をした俺は、腰にしてあった剣を俺の姿をした少女に突き立てた。
ぐしゃり、内臓のつぶれた音が聞こえた。
口から血を吐いているのは俺であって、俺ではなかった。
「罪は、王を殺したこと」
女の声で、俺はつぶやく。
「そして少女は死にました」
血を吐いて、内臓をつぶされて、無残な死に方をした俺を見ながら、俺は俺の血がへばりついた剣をさやに戻す。
そして、すぐにその部屋を出た。
女騎士の願いをかなえた代わりに、すべてが消えてなくなった。
王様は死に、女騎士も死んだ。
結局誰も、救われなかった。