コメディ・ライト小説(新)
- 忘れられた木(12) ( No.14 )
- 日時: 2017/01/31 15:31
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
「今日はね、とても面白い本を読んだの」
くすくすと笑いながら、少女は足をばたつかせる。りぼんのついた赤い靴がゆらゆらと揺れ、コンクリートの地面とごつんとぶつかった。
どんな本を読んだの、尋ねてみるが、少女はただくすくすと笑うだけで何も教えてはくれなかった。
やがて、少女はブランコから降りて、俺のもとにやってきた。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてるよ。聞いてる」
繰り返し俺は答えた。少女はそれでもぷくっと頬をふくらませて不満そうな顔をする。
木陰で休んでいる俺のもとにやってきて、少女は隣に座った。
「緑の絨毯ってきれいだね」
「四つ葉のクローバーを踏み潰しているかもしれないのに、それでも綺麗か?」
「その表現の仕方が間違ってるんだよ。草花の中で四つ葉は珍しいから偉いっていうの? もしかしたら三つ葉のほうが珍しい地域があるかもしれないじゃない」
「そんなのあるかよ。幻想だ」
「想像って大事だと思うんだ」
風が吹いて、木の葉っぱがざわっと音を立てて揺れた。
緑色の葉っぱが雨のようにぱらぱら降ってくる。少女の頭にもこつんとぶつかり、そして彼女の手のひらに着地した。
「たとえばこの葉っぱもさ、もしかしたら君の元に落ちたかったのかもしれない。それでも風の導きによって私のもとに落っこちた。運命だよ」
「そんな都合のいい運命なんてないよ。ただ風によって落ちた葉っぱに過ぎない」
「事実はそれでも、人間はいろいろ考えることができるのに。やっぱり君はもったいない」
「葉っぱのフレディでもあるだろ、葉っぱは土にかえって栄養になるんだよ。次の命を作るんだ。ただそれだけ」
「絵本のお話ができるなら、もっと想像力のある人間に育ってほしかったな」
少女はぽつりとつぶやいて、またくすくすと笑った。
「私は運命を信じたいな」
少女はアクリル絵の具で塗りつぶされたような青色の空を見ながら、ゆっくりと目を閉じた。
俺は少女の隣で、ただ葉っぱがすべて落ちるのを待っている。