コメディ・ライト小説(新)
- 雪は夢の形(13) ( No.15 )
- 日時: 2017/02/03 16:57
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: 3A3ixHoS)
この世の中で一番大事なものってなんだろう。
俺は永遠に見つかることのない答えを探している。
「人間はなくしたものを探すために生きてるの。何か大事なものを失って、そして人間は生まれてくる」
あの人の言葉が何度も何度も繰り返しリピートされる。
夢の中に出てくる。少し口角をあげて、ふふっと声を出して笑う。あの人が誰なのかはわからない。ただ、俺に大事なことを教えてくれる。
本当はそれが大事なのかもわからない。ただの人の暇つぶしなのかもしれない。それでも俺はあの人の言葉を思い出して言葉を連ねる。
「大事なものを失って、そして生まれて……」
じゃあ、いったい俺は何を失って生まれてきたのだろう。
何を探すために生きているのだろう。
夢を見る。美しい女が俺に意味のよくわからないことを語りかけてくる、そんな夢を見る。
いつもきまって同じ場所。
噴水のある公園。見覚えはない。どこなのか見当もつかない場所にあの人と二人きりでおしゃべりをする。
「もう、お別れかもしれないわ」
あるとき女の人はにいつものように微笑んで言った。
いつもと違うのは彼女の言動と景色だった。
噴水のある公園。それは同じだった。それでも違った。
「……ゆ、き」
あの人と出会ってから初めて雪が降った。
彼女はただ笑うだけ。
何も言わずにただ笑うだけ。
「かもしれないってなんだか適当だね」
「そうね。わたしは案外適当な性格なのよ。人間適当が一番っていうじゃない」
「だから君は死んだんじゃないのかな」
「あら、あなたは私が幽霊だって言いたいのね」
あの人はふぅと軽く息をついた。ため息に似たようなその息は白い。
そうだ。ここは夢のはずなのに、どうしてこんなに寒いのだろう。
「失って人間は生まれてくるってわたしは言ったでしょう」
「言った。けど俺には意味が分からない。ねぇ、どういうことなの」
あの人に手を伸ばした。けれど触れられない。
やっぱり幽霊なのだろうか。感じる冷たさは冬の証拠。
「わたしは探している、あなたが生きるための方法を。そして、あなたは失った。わたしを失った」
やっぱりあの人は意味の分からないことばかり言う。
俺が生きるための方法? 俺は生きている。
寒さを感じているし、今だって夢を見ている。ただそれだけだ。
「おはよう。あなたはわたしを失って、生きることを見つけるんだよ」
微笑む彼女の表情は、いつもと少しだけ違った。
雪のせいであれ。どうか、雪のせいであってくれ。
彼女の瞳から零れ落ちる涙よ、どうか夢であってくれ。