コメディ・ライト小説(新)
- 雪の幽霊より(14) ( No.18 )
- 日時: 2017/02/22 16:38
- 名前: はるた ◆OCYCrZW7pg (ID: zG7mwEpd)
「世界の殻だけ僕は愛したい」
彼はいつもブランコに座って、私にそう言った。
意味の分からない言葉に、私はいつも「どうして」と聞き返すけれど、一度も彼が答えてくれたことはない。
世界の殻とはなんだろう。世界は卵じゃないから、殻もないし、中身もないはずだ。彼には黄身や白身がちゃんと見えているのだろうか。
今日も彼は私の隣でブランコをこいでいる。
冷たい風で、鼻のあたまを赤く染めて、彼はくしゅんとくしゃみした。
「どうしたんですか、寒いんですか」
「うん。君と初めて会った日よりはだいぶ冷えるようになったね」
初めて会ったのは、春だったから。歪めた顔から白い息を吐き出す。
彼は視点はいつも空だった。今日も分厚い雲の冬空を見つめている。
「私、明日からはここには来ません」
告白をしようと思った。もう時間がなかったから。
けれど、私はわかっていた。彼の答えも。彼の気持ちも。
「そうか。さみしいね」
「……それ、それだけですか」
「うん。それだけだよ。君と話していてとても楽しかった。君と会えなくなるのはとてもさみしい。……それだけ」
降ってきた雪は、お別れの合図だったのかもしれない。
頬に冷たい何かが触れた気がした。雪だ。涙じゃない、これは雪だ。
新しい場所で、これから頑張るから。
あなたを忘れて、これからもがんばっていくから。
伝え終わると、私はなんだかほっとしたんだろう。涙がどばっと滝のように流れてきた。辛いわけでも寂しいわけでもない。
彼は笑って言った。「またね」と。
「はい、また会いましょうね」
雪が落ちる。私の恋が終わりを告げた。
さようなら、二度と会わないから、だから私は「また」と守れない約束をする。
生きたいな。彼の隣で生きていきたいな。
冷たいと感じない雪も、触れられない彼の手も。
生きたい。彼の幸せを見届けたい。かなわない願いを心に秘めて、今日も私は幽霊として彼を見守り続けるんだ。