コメディ・ライト小説(新)

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.14 )
日時: 2016/12/04 10:29
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)

第二話――の2「あどけなさなんてあり得ない」

 私は、ある日曜日の午後、制裁公園にやってきていた――もっちーちゃんや宗谷くんと遊べなかったのが少し残念だけれど。
 でも、今日は別の友達と遊ぶのだ。加賀坂蒼ちゃん。ボーイッシュというか、男勝りというか、とにかく、格好いい子。同じ委員会で知り合ってから、ちょくちょくお話をしてもらうようになって、今日遊ぶ約束をしたのだ。
 もっちーちゃんが殺気を放っていたけれど、私としてはあの子にも蒼ちゃんと仲良くなってほしい。あの子はきっと、寂しいんだ。孤独が好き、とか、友達を作らない主義、とか言っていても彼女もまだ中学生。人と触れ合うことが、本当に嫌いなわけがない……はず。

 制裁公園はこの地域ではかなり広い公園で、休日になると小学生くらいの子から高校生以上の人まで様々な人が訪れる。
 今日も例に漏れず人がたくさんいて、待ち合わせている蒼ちゃんが迷わないか心配だ。
 とりあえず、いつも通り時間の30分前に着いた私は近くのベンチに腰掛け、バッグから文庫本を取り出す。宗谷くんはいつも私が早く来て何をやっているかが気になるみたいだけれど、そんなに面白いものじゃない。本を読んでいるだけ。ただ、私はこの時間が好きなんだ。人の声が聞こえる中で、本を読むというこの時間が。
 100ページほど読んだ所で、、公園の入口の方から耳をつんざくような大声が聞こえてきた。

「真面目ちゃあああああああああっん! 私だあああああ! 返事をしてくれえええ!」
「はーい! ここだよー」

 人間はここまで大きな声を出せるのか、というのが私の感想だった。最近は元気な子がいなくてなんだか残念なので、蒼ちゃんのような人を見ると感心してしまう。
 そして、その声に比べて何倍も小さい声で返事したけれど、彼女は聴力も素晴らしいようで、気づいたときにはもう隣りにいた。……なんだか凄いな。同じ学年という事を忘れてしまう。

「よっ! 真面目ちゃん」
「真面目ちゃんはやめてってば。私は真面目じゃないよ?」
「何言ってるんだよ。とどろきが真面目じゃなかったら誰が真面目っていうんだ?」
「そりゃ、宗谷くんとか……」
「ああ、かわいい君か」
「その呼び方もやめてあげたら……?」

 確かに可愛い顔つきをしているけれど。女子の間でも時たま話題に上がるのだ。『女装が似合う男子について』のような話題が。何を話しているんだ! と一喝されるかもしれないけれど、女子同士の会話なのでどうか許してほしい。女子の話はあまりとりとめのないものなのだ。

「蒼ちゃんも可愛いと思うよ?」
「おいおい、冗談はよしてくれ。こんな顔で可愛いとか、ないぜ」
「やーん、照れてる、可愛いー!」
「やっぱとどろきは個性強いな……。まあそんなところも大好きだがな」
「ありがと!」

 本当に、蒼ちゃんは可愛いのだ。学校では校則で結んでいるけれど、今日はほどいて腰辺りまであるロングヘアーに、格好いい三白眼。髪の毛をいじるって、なんだか女の子らしくて憧れる。私は昔からずっとこの髪型だからなあ。服装が青いジャージなのもなんだか決まっていて可愛い。
 そして、身長も凄く高くて羨ましい。横顔が凛々しくて、もし私が男子だったら彼女に惚れているかもしれないな、なんて考える。

「それで、今日はどこに行くの?」
「ん、そうだな……」

 わくわく。基本的に遊ぶ時は私が企画するので、人からの計画に沿って何かを行うのが好きなのだ。

「決めてない」

 こけた。ベンチから落ちてしまって、スカートが汚れてしまった。手で土埃を払う。期待を裏切られてしまった。予想以上にびっくりした。でも蒼ちゃんはそんなこと気にしていない様子で、

「まあ、私の家の近くに公園があるんだよ。そこにいこうぜ」
「この公園じゃ駄目なの?」
「ああ。だって、そこには面白いやつがいるからな!」
「おお」

 なんだなんだ、蒼ちゃん決めてないなんか言って、私を楽しませてくれるような事を言ってくれる。私は人と会うのが大好きだ。いつか全世界の人とお友達になるのが、私の夢。
 しかし、蒼ちゃんの言う面白い人っていうのは誰なんだろうか。とても気になる。蒼ちゃんほどの面白い人が言う面白い人なんだから、それはもう並大抵の人じゃないだろうな。

「じゃ、行くか」
「うん」

 そうと決まれば行動は迅速に。私も蒼ちゃんも思い立ったが吉日タイプなので、目的地が決まると同時に公園から出た。
 まだ4月ということで、公園の桜の花びらが道路にびっしりと落ちている。来年は、宗谷くんやもっちーちゃんとお花見ができたらいいな、なんて。

「そういえば、とどろきは部活入るのか?」
「うーん、今考え中。委員会で手一杯になりそうだし、入らないかもなあ」
「そっか。私も多分部活しないと思う」

 一昨日――金曜日に、部活説明会が行われた。野球部やサッカー部など、運動部はもちろん、文芸部、家庭科部、美術部などの文化部も充実している。部長の人達が揃いも揃って強烈だった。
 野球部の部長がサッカーについて語り始めたり、文芸部がいきなりダンスを踊り始めたり、なんだかもう滅茶苦茶だった。いい意味で。
 だから、入ってみたいのだが、学年委員会は中々忙しいみたいで、部活や勉強と両立するのが難しそう。残念。

「さて、ここだ」

 10分位経ったころだろうか、唐突に蒼ちゃんが止まって、背中にぶつかってしまった。しかし、蒼ちゃんは微動だにしなかった。どんな体をしているんだろう。
 そして、蒼ちゃんが指差した方向を見ると、小さめの公園があった。ブランコがあって、滑り台があって、おしまい。
 申し訳程度の砂場に、人影が見えた。予想していた人よりも小さい人のようで――。

「え?」

 声に出して驚いてしまう。なぜなら。
 その人影は、超無表情な幼女と、正反対に表情が豊か過ぎるくらい豊かな幼女だったからだ。

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.15 )
日時: 2016/12/09 02:52
名前: 河童 ◆KAPPAlxPH6 (ID: DxRBq1FF)

 人は見かけによらない、という。
 たとえば、見た目が明らかに不良な子が、熱い優しい心を秘めていることだってあるだろう。たとえば、毒舌まみれの不良少年が、前髪をきっちりと分けた、眼鏡をかけて、柔和な笑顔を浮かべていることだってあるだろう。
 しかし、だからといって。
 明らかに無表情な子が声色豊かに弾むように話してきたり、どう見てもただの純粋な女の子というような子が、抑揚がついているだけの、棒読みのような話し方、というのは見かけによらないの枠を外れすぎていると思う。

「はじめまして! あたし、木使正色きづかいただしきっていいます! よろしく!」

 と、この子は、ひたすらに棒読みで、淡々と、単調な声で、それなのに表情はころころと変わり、それらがちぐはぐに絡み合ったようだった。
 前髪が跳ねた、上の方で結っているつやつやした黒いツインテール。おっとりしたイメージをもつような垂れ目。薄い桃色のワンピースを着ていて、表情も合わさり、外見は可愛らしい少女といった感じだ。

「……私は、無元智相むもとちあい。まあ、よろしく」

 正色ちゃんの隣で、しゃがんで砂をいじっている彼女。顔からは、どんなことを思っているのかわかりにくい……どころか、わからない、無表情。しかし、正色ちゃんとは正反対に、声から気だるげさが溢れている。顔から想像できないのに声から気持ちがまるわかりである。
 そして、短い黒い髪の毛を上の方でちょこんと結い、フリルが袖や襟などに沢山ついている、まさに女の子というシャツやスカートが妙に似合っている。Tシャツにはフリルだけでなく、『I love Teddy Bear』という文字がハート付きで印刷されており、女の子感が増し増しである。

「よろしくね、正色ちゃん、智相ちゃん!」
「な、こいつら面白いだろ? 正義とまぐろ」
「せ、正義とまぐろ?」

 蒼ちゃんの言葉に困惑する。正義とまぐろという、どう頑張っても隣に並ぶことはないだろうという言葉のチョイス。文脈から察すると、この2人を指しているのだと思うけれど、いや、それにしても、ちょっと。正義はともかく、まぐろちゃんって。もはや人間ではないじゃん。

「あの、蒼ちゃん、まぐろはちょっとかわいそ――」
「いや、いいんです! あたし達で決めたあだ名なので」
「ん、そうなの?」
「はい!」

 と、棒読みで言う正色ちゃん。顔はにこにこと笑っているので、やっぱり不思議な感覚に陥る。

「じゃあ、その呼び方で納得してるんだ。えっと……どっちがまぐろちゃんでどっちが正義ちゃんなの?」
「あたしが正義! やっぱり正色――正しきだからね! 智相がまぐろ! 智相――血合いだし!」
「私は別に、そのだっさいあだ名を認めた覚えはないんだけど」
「えー? 覚えやすくて可愛いあだ名だと思うけど!」

 ほんとに、混乱する。棒読みの子が表情豊かで、声色豊かな子が無表情で。何が何だかわからない。どうしてこんな話し方なんだろうか……?
 でも、なんだか聞いたら駄目なような気がする、なんとなく……!

「そういえばなんでお前らそんな喋り方なんだ? 今気づいたけど」

 言っちゃたよ蒼ちゃん! 私が気を使って言わなかったことを! ……まあ、それも蒼ちゃんらしいのかな。私がフォローしていかなきゃいけないな。
 それにしても本当に気になる。この際だから聞いてしまおう。わくわく。

「え? そりゃもちろん、お互いの声当てするために決まってるじゃん」
「は?」

 声を揃えて、さもそれが当然であることのように言われた。そして、それに合わせたわけでもないのに私達も同じように声を合わせてしまう。お互いのアフレコという意味のわからない言葉に、そこから言葉を継げない。
 やっとのことで、その言葉の意味を聞くと、やはりそれを疑問にも思っていないようで、逆にこちらのことを不思議に思っているように言った。

「誘拐された時に、片方の声を腹話術で当てられるようにしてるんだよ」
「はあ」

 そもそも誘拐された時という前提がおかしい……。この2人は実はものすごい危険な子なのかな? 容姿は普通に可愛い女の子達だけど。

「いや? あたし達は普通に友達のいない小学4年生だよ?」
「じゃ、じゃあなんで誘拐されること前提で……」
「念には念を? こんな時に備えて? みたいな台詞あるじゃない? それを言ってみたいの。『誘拐されちゃった! でもこんな時に備えて腹話術を覚えているぞ!』みたいな」
「いや、そんな時に備える必要はないと思う……」
「ははは、やっぱこいつら面白いな!」

 そんな問題かなあ。まあでも、面白い子達というのは本当だし、お友達になりたいな。
 と、思ったところで、私も自己紹介をしていないことに気づく。

「そういえば、私の名前言ってなかったね。私は半本とどろき。中学1年生なの」
「半本とどろきちゃん」
「馬鹿、さん付けしろよ」

 怒気をこめて智相ちゃん――まぐろちゃんが正義ちゃんに言う。無表情に見えても、この子は礼儀正しいいい子なのかもしれない。
 小学4年生だというのに、いい子だなあ。正義ちゃんも無邪気で可愛いし。

「ちょっとあだ名を考えますね、とどろきちゃん!」
「敬称を使え。年上だぞ、敬えよ」
「いやいや、いいよ。呼び捨てでもなんでもオッケー!」
「じゃあとどろき」

 ……。智相ちゃんは実は礼儀を重んじているわけではないのかもしれない。いや、呼び捨てでもいいよとは言ったけれど、まさか躊躇なく呼び捨てるとは思っていなかった。でも、さんとか付けられるよりはいいな。本当は宗谷くんやもっちーちゃんにも呼び捨てで呼んでほしいのだけれど、なぜか拒否されてしまう。
 あの2人とは、もっと仲良くなりたいな。
 すると、蒼ちゃんが言った。

「じゃあ、自己紹介も終わったし、遊ぶか!」
「それいいね、賛成!」

 と、私が言い終わる前に蒼ちゃんは砂場に突っ込んでいた。