コメディ・ライト小説(新)
- 『気弱なオリオン』 ( No.1 )
- 日時: 2016/08/12 20:15
- 名前: 鈴燕 ◆yLI4tJCjaQ (ID: T7mhaKN7)
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星を見た。
深い青みを帯びた空に浮かぶ、美しい光。
どんなに手を伸ばしても、その光は私に届くことはない。
あなたと出会ったあの頃は、こんな痛みや哀しみがあるだなんて知らなかった。
幸福な日々、穏やかな時間、煌めく言葉。
ねぇ。朗らかなあの声で、もう1度語ってよ____
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「やーい、オリオン。お前は女の癖に身体が大きくて変だなァ」
私が教室のドアを開けると同時に、そんな声が投げかけられる。
声のした方を見れば、小学校が同じの男子だった。同じ小学校出身の男子たちと身を寄せ合って、にやにやとしている。
そんな男子の前を通り過ぎ、はあ、とため息を吐きながら自分の席に座った。
今日から念願の中学生だと言うのに、相変わらず子供っぽいな。野郎どもめ。
私は昔から、周りより身長が高かった。
男子は女子に比べて成長がおそいと言うけれど、男子はそれが気に食わなかったらしい。
気づけば、私は「オリオン」というあだ名を付けられ、笑いものにされていた。力持ちで、性格の悪い大男。
しかし、彼らは、私を守る女子たちの眼光に負けて、そのうちそこまでキツくは言ってこなくなった。
それでも、私がなにも言わないことを良いことに、調子にのるとすぐこれだ。今この教室に、私を知る女子はほとんどいない。私がもっと口下手じゃなかったから……あの出来事が無ければ、やめさせられるのに。
私は、オリオンはオリオンでも、屈強なやつじゃない。気弱で自己主張の少ない、ただの背の高いやつだ。
だから、このあだ名も、嫌だと言えずにいるのだ。
「あれ、オリオン? 中学生になって1段とゴツくなっちゃったんじゃねぇか? もう負け無しだなー。また体育で俺達を投げ飛ばすなよー」
俯く私に、男子共はさらに冷やかしの言葉を投げかける(今思えば、彼らは私のことが好きだったのだと思う)。
やめて。その一言がいつまでたっても言えない。だって、それは、戒めの言葉だから。
誰かを縛る、呪いの言葉。
ぎゅっと大きな身体を滑稽に縮こまらせて、私は静かに耐えていた。
そのとき、教室のドアが開き、声が響いた。
「オリオンはそこまで強くないよ」
ふわり、と風が声の主の髪を揺らす。こつこつと教室の中に入ってきた彼の髪は、綺麗な栗色をしていた。
「オリオンはとても力持ちだったけれど、女神さまの怒りに触れて、サソリの毒で死んでしまうんだ。ほら、オリオンはサソリより弱いってことでしょ? そんなオリオンに、君たちを倒せるはずないじゃないか」
朗らかな声が耳に心地よく響いて、教室がしん、と静まり返る。
彼は天使の笑みを浮かべて、
「だから、女の子にいじわるしちゃいけないよ、クソ野郎ども」
と続けた。
神聖な神話にのせて、彼は毒を吐く。男子たちは意味がよくわからないのかあんぐりと口を開け、静止していた。
これが、彼との出会い。
そして、澄み切った星の海を、はじめて見た日だった。