コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.2 )
日時: 2017/09/19 16:35
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Dscjh0AU)

 第301次元 科学部班班長からの指令

 「! れ、れれレト君!? ――それにみ、みんなもっ!」

 非現実だらけの神の世界から帰還した英雄たち一向は、まずはじめに、目の前に広がる景色に唖然とした。
 妖精の社は碧々とした景観でなく、燃えるようにな暖色を彩っている。夏だった世間は既に、秋の終わりを迎えていたのだった。

 レトヴェールを初めとして、キールアやエン、サボコロの四名は傷ついた体を引きずりながらセンターの街並みへと足を踏み入れた。
 そして蛇梅隊本部の門をひさしく潜ると、廊下を慌ただしく駆けていたフィラ・クリストン副班長が目を丸くして足を止めたのだった。そして現在に至る。

 フィラ副班長の反応は至極当然のものだった。蛇梅隊に正式に所属している隊員が数名、無断で数か月もの間隊を留守にしていたのだ。さらに彼らはもう一般の次元師ではない。次元師を代表する『英雄大四天』の名を授かって間もなく、俗にいう有名人となってしまった四人はまるで、故郷にひょっこりと顔を出した旅人のよう。
 バサバサバサー! と、フィラ副班長の抱えていた分厚い書類が傾れ落ちる。

 「あの、大丈夫ですか? 書類全部落ちましたけど……」
 「ええ、大丈……――じゃないわよ! ちょっと四人とも! 一体どこへ行っていたの!? ずっと探してたんだから! 通信機にも連絡が来ないし、こっちから連絡飛ばしても繋がらないし……! 大体なんでそんなボロボロなのよ!?」
 「ええと、それは……」
 「悪いフィラ副班。詳しい話はあとで、報告書でまとめて班長に提出するから」
 「ほ、報告書? 一体……」
 「ま! 細けえことは気にすんなってこった!」
 「気にするわよ! 何ヶ月留守にしてたと思って……!」
 「失礼だがあとにしてくれ。俺たちは早急に医務室に寄りたいのだ」
 「……そ、そうね……なんだか怪我、してるみたいだし。大戦が間近に控えてるんだから、体は大事にね?」

 フィラ副班から、それ以上の言及はなかった。四人は医務室へ足を運ぶ。


 彼女の言う通り、第二次神人世界大戦の開戦はもう目前に迫ってきている。
 カレンダーに目をやれば、大戦の日まで一ヶ月を切っていることがわかった。蛇梅隊本部内も、留守にしていたこの数ヶ月の間に雰囲気が変わったように感じられる。
 フィラ副班が抱えていた書類も、恐らく大戦に関連した資料か何かだったのだろう。

 千年前の資料を集めている科学部班。世界中に散り散りになった次元師の所在を確認している援助部班。
 大戦へ向けて、さらなる医術の発展を目指し研究に励む医療部班。
 ――そして、日に日に増えていく元魔の討伐へ向かう次元師たちと、各個人の戦闘力を管理する、戦闘部班。
 どの部署も忙しない様子で廊下を駆け回っていた。目まぐるしい日々を、英雄大四天の留守の間にも送っていたと思うと四人は、少し申し訳ない気持ちを抱いた。



 医務室に顔を出し、一通りの治療を終えたところですぐに部屋をあとにした。レトは、本部の廊下で静かに太陽光を受け入れている大きな窓ガラスの、奥を見やる。
 単純に何を眺めているとは定めずに、ただじっと。
 ――しかし体は正直だ。一年ほど前、義妹がまだ薄暗い明け方に自分の目の前から姿を消したときと同じ景色が映える。
 涸れた葉は地から舞い、撫で、撫ぜられを繰り返しては、からりと転がった。


 寒空の下。ひどい雨の降る朝だった。眼を開けた少女はまるで、人間ではなかった。
 今までの彼女を否定するかのようにその眼は朱く。
 もしも今まさに、目の前に彼女が現れたと仮定して。またこの右手を伸ばしたのなら。
 今度こそ、掴むだろうか。
 もう一度、拒むだろうか。

 ――あのとき手を離さなければ。違う未来は、在っただろうか。

 「――レトヴェール」
 「!」

 数ヶ月越しに耳に差した低い声色が、レトの意識を奪った。
 彼の実の父親である、フィードラス・エポールは窓際で立ち止まるレトへ近づいた。
 父を嫌いらしいとはいえ特に逃げる素振りも見せず、父子は向かい合う。

 「俺になにか用かよ」
 「準備ができたら、地下へ続く階段まで来い。ほかの三人も一緒にな」
 「? 準備ってなんのことだ」
 「来ればわかる」

 フィードラスは息子であるレトに嫌われていると自覚があるが、そんな息子をからかうような面を持つ。しかし、終えた会話からは、まるで上司が端的に部下へ指示を渡すような希薄さが滲み出ていた。
 実際に班長階級に位置しているフィードラスからすれば、所属部署が異なるとはいえ班の一隊員にすぎないレトは階級も低く、上司と部下の関係に遺憾はない。
 それでもと、レトは去っていく父の後ろ姿を、しばし呆然と目で追っていた。
 腑に落ちないが、フィードラスは実の父親であり、科学者としての才能、実力、それに纏わる地位も確立している。
 認めざるを得ないかと、レトはぽつぽつ歩き出した。



 「おいレト~。集合って、いきなりなんだよ」
 「知るか。あのクソ親父、詳しいことはなにも言わなかったんだよ」
 「『来ればわかる』……か」
 「ああ。ったくいい加減なやつ……」
 「でも用ってなんだろうね? それも私たちだけ、なんて……」
 「……そういやさっきから、双斬が見当たらないんだよな」
 「! 俺も俺も! 炎皇のやつどっか行っちまってさあ!」
 「なんだ、貴様らもか。実はさきほどから、光節の姿が見えなくてな」
 「ええ!? ……百槍も、なんだけど」

 キールアの言葉を最後に、一同は口を噤む。
 普段は各々の心の中にだけ棲み、時折実体化しては主のあとについて回る――千年前、英雄だった者たちの魂。
 断りもなしに、揃ってどこかへ行くのはこれまでにない事例だ。不安は募るばかり。

 「――お。来たな、若き英雄たち。休養中のところすまないな」
 「親父。一体なにするっていうんだ」
 「話はあとだ。とりあえずついてきてほしい」

 地下への階段にまで辿り着くなり、そこで壁に寄りかかって四人の到着を待っていたフィードラスと顔を合わせる。
 文句を言ってやろうと意気込んでいたレトを慣れた調子で制圧すると、そのまま階段を降りていく。
 全く腑に落ちない。目的も分からずじまいで、四人はただその後についていった。

 地下は直線的で、長く奥へ続いている。上の階と比較してみても、廊下の幅の広さや長さ、部屋数は同等のものであった。
 ただ違うのは、全体的に明かりはぼんやりと広がっていて、薄気味の悪い印象を受けるという点。
 しばらく歩いていくと、廊下の突き当りに到着した。汚れや傷のついた古臭い壁に、後から取り付けられたのだと推測できる真っ白い扉。フィードラスが軽く押し開けると、僅かに灯りが漏れ、レトたちの瞼を刺激する。
 レトは薄らと目を開けた。

 「――!」
 「な、にここ……」

 白い、がそれは気持ちの悪い白さだった。空間はどこまでも広がっている。
 目視できたのは、視線で壁を伝うと両端に一つずつ扉が設置されていたということだけだった。
 言葉を失った四人の代わりに、フィードラスが口を開いた。

 「ここは俺が個人的に用意した部屋だ。少しでもお前たちの役に立てばと思ってな」
 「……役に立つ? ここで修行でもしろって言うのか?」
 「修行なら、べつに鍛錬場でも……」
 「ここでしかできないことがある――まあ、行けばわかるさ」
 「行く……?」
 「扉が見えるだろう。右と左に一つずつ。そして一番奥の方にも実は一つあるんだ。君たちには各々、決められた部屋に入ってもらう。まずはキールアちゃん」
 「あ、はいっ」
 「君はまっすぐ進みなさい。君の部屋は一番奥だ」
 「はあ……」

 キールアが一人だけ歩き出す。未だ疑問も晴れないまま、ただし足は止めずに往く。
 部屋の形状は円だ。キールアは不自然に白い空間を横断する。
 しばらく歩いたところで、一度だけ振り返った。レトたちの顔色を伺ってから、覚悟を決めてまた先へ、白い世界に呑まれていく。
 キールアの姿は完全に見えなくなってしまった。

 「扉の先にいったいなにが……?」
 「次はエン君。君は右の扉だ。続いてサボコロ君は、左の部屋」
 「……承知した」
 「なんかよくわっかんねーけど、行ってやらあ!」

 二人は道を分かち、右と左の扉の前まで素直に向かっていく。
 二人の背中が、扉の向こうへいくのをレトは見送っていた。
 ――しかし、扉は三つだけ。最後に取り残されたレトは、今度こそ自分から声をかける。

 「……それで、俺の部屋は?」
 「ない」
 「……はあ?」
 「お前の部屋はない――お前には、ここでやってもらう」
 「ここって……だから、いったいなにを――」

 英雄たちは、息を呑んだ。フィードラスは端に避ける。
 部屋の中央で訝し気に父親を睨むレトの名前を――“彼”は、呼んだ。


 ――――同時刻。キールア、エン、サボコロも同様の光景に、目を疑う。


 「「「「――――っ!!?」」」」


 浮世には存在し得ない――――紙上の彼らは、目の高さを同じくしていた。