コメディ・ライト小説(新)
- Re: 最強次元師!!【2スレ目突入】 ( No.3 )
- 日時: 2017/08/17 18:10
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7TIkZQxU)
- 参照: ※修正しました(17.8.17)
第302次元 英雄
「う……ッ――!?」
「――はァ!!」
力強いかけ声と鋭い刃とに気圧される。気迫だけで、周りの空気を制圧していた。その怒号は鼓膜を刺し、心臓を穿つ。
やむをえず距離を取った。金の髪はしばらく大人しくしていたが――少年が間もなく駆けだすと、触発され僅かに揺れた。
――、一歩。低い背丈の脚がぐんと距離を縮めてくる。金属音は響いて止まない。
「――どうしたの? この程度じゃ、話にならないよ」
「う、ぐ……っ!」
「“第七次元発動”――――」
理解が追いついていない。よく頭の回る脳が、優秀な回路が図らずも戸惑っていた。
――それというのも、実際に目にある光景が、とても信じがたいものだったのだ。
「――――“十字斬り”ィ!!」
――――“双斬”が、そう叫ぶと双剣は、忠実に技を繰り出した。
(どうなってんだよ……!?)
時間は少し前に遡る。
レトは、自身の背中に声がかかったのを、その響きを不思議に思った。
「レト」
振り返ると、そこには少年がいた。
少年はまるで千年前の、彼の――――“生前”の姿を、していた。
「――!」
「……この姿じゃ、初めましてだね」
「お、前……いったい――」
「――レト。僕は君と――“戦い”に来たんだ』
「っ!?」
「勝負をしよう、レト。君が勝ったら大戦には君が参加する。――でも、僕が勝ったら」
見慣れない容姿をしていた。幼くて、少年にしては高い声も、ほんの微かに低い。
幼児ほどの体長だったはずだ。常にふよふよと宙に浮いていた、精霊だったのだ。
それなのに、視界に映る彼は人間みたいだった。
肉体を持ち、本来の声を取り戻し――そして。
「僕が勝ったら――――僕が、君に代わって神を討つ」
――――全身に、溢れ余る力を滾らせていた。
その意味はわかるだろう――と、威圧を含んだ瞳はそうとだけ告げる。
双斬本人が大戦に参戦する。それは即ち、レトの身体に憑依した状態で、レトではなく双斬が人族代表として、神族と剣を交えるという話だ。
少年は淡々と紡ぐ。衝撃のあまりレトは言葉を失った。
(……予想通りの反応だな)
広い空間の、白い壁に背をついてフィードラスは様子を伺っていた。
既に剣を交え、額に汗を滲ませたレトに対して少年は実に心地よく剣を振るう。
経験の差だろうか。潜り抜けてきた逆境の数か。踏んできた場数の違いともいえるだろう。
この奇怪な光景を実現することに成功した。それだけで、ここへ戻ってきた甲斐もあったものだと笑みをこぼす。
(“同位重次元空間システム”――――どうやら、調子は良いようだ)
英雄大四天が有次元で過ごしていた間の数ヶ月。フィードラスは徹して、この設備の研究をしていた。
蛇梅隊本部に戻ってきたのはそのためでもあり、彼自身興味を惹かれる題材だった。
これは本来人間が持つ次元の力を“具現化”するという目的に基づき、本格的な肉体に最も近い物質を次元の力そのものに与えることによって、まるで次元の力がその場で息をしているかのように、現世での存在確立を許すシステムを組みこんでいる。
一言でまとめるならば、次元の力と、同じ次元の力で戦える空間。
勿論この施設を出てしまえばその制度は適応されず、次元の力は本来の姿に戻る。
次元の力はもとより、創造神【MOTHER】が千年前に生み出した人間の心を利用することによって発動の出来る異能の力。
次元の力の構造や起源を深く理解し、研究を重ねてきた彼だからこそ成し得た業だ。
自身の研究成果に誇りを感ずると同時、自身と同じDNAを持つ息子の成長を眺めていた。
今ここには、一人の人間と三体の双斬がある。
一つは人間の手に収まり、もう一つは具現化し、最後の一つは具現化した肉体に宿る。
現実では叶えられない光景を、この空間が可能にしている。
――――人呼んで、“天才科学者”。フィードラス・エポール。
英雄の父親でありながら、蛇梅隊科学部班班長をも務める彼の名は、後世に語り継がれていくだろう。
「ぐ、ぅ……!」
「さっきから守ってばっかりだけど……少しは、反撃――しなよ!!」
「!!」
「第六次元発動――――真斬!!」
「――がはァッ!?」
弾き飛ばしたレトの懐が、大きく開いた瞬間を、双斬は見逃さなかった。
重い一太刀が、情もなくレトの脇腹を斬り裂く。
鋭く飛び散った血を眺める彼の炯眼を、薄目に捉える。
レトは膝をつく。口から垂れる血と唾液とが、激しく地面を叩く。
「あッ……が、は……ァ……!!」
「隙が多いね。それに競り合ったとき押しに弱い。よくもこの程度で代表になれたものだよ」
「……っ、ん、だと……?」
「よく聞いてレトヴェール。君は確かに人族代表に選ばれた。僕も同じ。だけど僕らは――全然違う」
「!」
「それがなんだか、分かるかい?」
傷口を押さえる腕は血を、溢れるほどの勢いを殺すことができずにいた。
赤みはだんだんと深くなる。苦しい表情で見上げた、自分より小さい、なのに逞しい立ち姿に、目が眩んだ。
「僕はこの称号を……戦争で得たんだ。代表になろうと思ったわけじゃない。英雄と賞されるも、望んだ結果じゃないよ。人間をたくさん斬り殺して、敵の大将の首を跳ね飛ばして、この名を手に入れたんだ。……なのにどうだい? 君はだれかと戦争を経験した? 殺し合った? 本気で命を狙い狙われ……死にもの狂いで――“生”を勝ち取ったことが、一度でもあるのかい?」
英雄大六師――千年も昔、神族たちと戦ってくれと押された背中の主は、まだ十代の幼い子どもたちだった。彼らが生きたのは、簡単に人が死んでいく時代だった。
その刃が、矢が、心臓を突き破る。その身で人の身体を動けなくなるまで殴り、蹴り飛ばしては叩きつけ、捻じ曲げる。それだけで人は死に至った。
なんて貧弱な生き物だろう。双斬を含む英雄たちは知っていた。
人間は弱いと云う神たちに怒りを覚えないのは、人間と神の間に大きな力の差が存在していたから。
冷たい瞳の、千年前の英雄はレトの喉元に切っ先を向ける。
「双、ざ……っ」
「答えてよ。君はこの戦争で……死なないとでも思ってるの? 僕ら英雄大六師は、たくさんの騎士が、兵士が、――仲間が死んで束になったその上を駆けて生きてきた。生きることに、勝つことにただただ必死だった! もし君が英雄という名に驕り、安住し、戦争に臨むというのなら――今、ここで君を殺すよ」
「……」
「だって一緒でしょ。今死ぬのも、一か月後に死ぬのも」
ああ、そうか。少しの間寿命が延びるだけの話。双斬は皮肉げに言い放った。
それが脅しではないことくらいレトにはわかっていた。警告にも至らないことを。
――眼差しに躊躇の色は見えない。双斬が腕を振るえば、レトの喉元を突き破るのは容易なことだ。
それをしないのは、僅かに同情を仰ぐ心が、彼の理性を塞き止めているからに過ぎなかった。
「死んででも人類に尽くすと誓え。その命はもう君だけのものじゃない。全人類のものだ。君が死ねば、人類は間違いなく滅ぶだろう。……さあ、それでもまだ君は――そんな戦い方をするの?」
「……っ、俺は――」
「余計なもんは全部棄てろ!! ――――勝ちたいなら目を覚ませ!!」
怒り昂った双斬の手元はなお震えずに、レトの首をしかと捉えている。
どれほど感情を揺さぶられようとも、目的は瞬く間にも見失わない。気を取られもしない。
人間のようで、彼は人間ではない。
――――それが、“英雄”。人々に命を授けられた者の、最大限の覚悟だ。
「次はないよ、レトヴェール。隙があれば、今度こそ本気で――」
目を覚ませ。――その一言は、英雄の心臓を駆り立てるには十分すぎる響きだった。
刃先を引いて、背を向けたのが――間違いだったのだと、気づいたのは。
「――ッ!!?」
血が飛び散ったときの、心地の悪い音を耳にしてから随分、後だった。
「そうだな。悪い――――目、冷めたみたいだ」
涼しい顔に赤い閃が浮く。ただしそれはレトのものではなかった。
体を傾かせて、仄かに笑ったのは千年前の英雄だった。
「……やればできるじゃん」
「にしてはあんまり苦しそうじゃねえな。もっと派手に斬りゃよかった」
「はは! できるならやってみなよ――半人前の英雄!!」
「上等だ!! あとで哭いても知らねえぞ――千年前の英雄!!」
開始から数十分が経過した。古代と現代を生きる英雄たちはその腹に、背に、斬り傷を背負い――ようやく、開戦を迎えた。
一人は超えるために。一人は、超えさせないために。
人類の命を背負う英雄は、それぞれ違う英雄の名に懸けて――加速する。