コメディ・ライト小説(新)
- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.18 )
- 日時: 2016/09/13 23:20
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: WwoM88bd)
第315次元 強く幼い涙
遥か遠くで、白い巨体が弾け飛ぶまでの一連の流れを確認した。スコープから目を離すと、彼はひゅうと口笛を鳴らす。
すぐ隣で佇んでいたもう一人の男性は感嘆の声を漏らした。
「ほう。君は良くもまあ、あれほど遠くまで見えるものだ、セブン班長」
「いやあまあ……次元の力によるものが大きいけどね。久々だから、ちょっとひやっとしたよ」
「流石、の一言に尽きるな」
「光栄です、ラットール総隊長殿」
セブン・コールは蛇梅隊戦闘部班の班長を務める男の名前。仕事の手際は良しと言い難い、と彼直属の部下達は常々零しているものの、人望と愛嬌に関しては人一倍秀でている人物である。
そんな彼は今日の今日まで、自身が次元師である事を周囲に伏せてきたわけだが、久方ぶりに開く別次元の扉は、容赦なく化け物の心臓に杭を打ちつけた。
「さて……我々も手は抜けぬな。フィードラス班長」
「ええ、勿論です。……家族の為にも、ね」
「ほう。それは、“どっち”なのかな?」
「はは。どっちでしょうね」
細めた視界の先は地平線。延々と続く砂の地。吹き荒れる砂嵐に歪みそうになる景色の向こう側と、ずっとずっと後ろには。
向かい合うように立っているのだろう。瞳で捉えずともお互いを意識してる。
幼い頃の面影が強いばかりに、父フィードラスはどうしても願ってしまう。
「……本当に、運命の悪戯ってのは、あるんだな」
それだけ呟いて顔を上げた。総隊長と各班班長が二人。特別防衛部班に配属された以上三名の遥か頭上には、満ちた月と星々で夜空の上を飾っている。
少女は内心に怯えを隠しながら、怪物とにらめっこをするのがやっとらしく細い身を強張らせていた。黒と灰に紅色のラインという配色の――改訂・新調された“新隊服”のジャケットを着用しているのは、この戦場で蛇梅隊戦闘部班の一員だけ。
白い帽子に施された可愛らしいピンク色のウサギも、同じく震えている。
して彼女の実態は、一国を背負う王室の一人。第二王女ルイル・ショートスだった。
「第八次元発動――」
引き金に指をかけた少年は、伸ばした腕二つに飛び道具を構えて、ルイルの前へ躍り出る。
「――連弾!!」
打ち出された無数の弾丸は――――“毒”に苦しむ元魔の身体目がけて、放たれた。
「ひゅ~っ。可愛い顔してやるねぇ、ガネスト君」
「ちょ……っ僕の事を冷やかす暇があるのでしたら、元魔の様子を見ておいて下さいよメッセル副班長」
「分かってますよーい。オレの次元技“毒皇”をナメてもらっちゃ困るねぇ。あと数分は身動きを封じれる。その隙にルイルちゃんの“悲飴”の念力技で追い打ちかけたいとこだけど――……ルイルちゃん、だいじょぶそ?」
「ひゃいっ!? うっ、が、がんばる……よ!」
「……ルイル……」
「こりゃ参ったねぇ」
細目の上でわざとらしく曲げられた眉が、やれやれと云う。
ルイルは基より王女という立場であり、それ以前に今年12歳の幼い女の子で間違いない。パートナー兼専属執事のガネスト・ピックに守られながら幾年過ごしてきたせいか、とても本人を戦闘向きとは言えない。
年も近く仲の良いティリナサ・ヴィヴィオとは別格であり、彼女は次元師としての実力も高く幼いながらに聡明で、そんなティリとの差も薄々感じていただろう。
メッセル副班長はその場から忽然と姿を消していた。
身を屈ませたガネストは片膝をつくと、ルイルの幼い顔を見上げて、笑った。
「ルイル“王女”を戦場へ連れてくるのも忍ばれました。ただ存命している次元師は全て強制的に参加というこのシステムです。科学部班の班長様も、『次元師の命を第一に』と仰られていたので……ルイルは戦わなくても良いんですよ」
「……っでも」
「大丈夫です。どうか安心して下さい。僕が必ず守りますから」
「……ちがう、の。聞いて、ガネスト――ルイ……あ、あたし!」
「――!」
――鋭い殺気。感知したガネストはルイルを軽々抱き上げて、迫り来る元魔の白い腕を回避した。
宙に浮いてから地面へ着陸する流れは慣れたものだった。腹半分から上は夜空に埋まっている元魔を仰ぎ見る首の角度は大きい。
「ルイルはここにいて下さい。あとは僕達が――、っ!」
「――っ、ガネスト……聞いて。あのね……ルイルも、ルイルも戦いたいよ!」
「!?」
ジャケットを少し摘むその指は細くて、頼りない。可愛らしい大きな瞳も伏せてしまっていた。
ルイルは今にも泣きだしそうで、それでも泣かずにいた。
「……レトちゃんたちを見て、思ったの……。レトちゃんは、大事なロクちゃんを失っても、がんばって英雄になって、キールアちゃんも次元師になってどんどん強くなって……エンちゃんやサボコロちゃんだってそう! みんな、みんなみんながんばってる、のに……っ」
「……ルイル、聞いて下さい。僕にはルイルの命が一番――」
「命とかそういうのじゃない! がんばりたいの――ルイルだ、って、みんなと同じ蛇梅隊の仲間だもん!!」
もうあの頃には戻れないのかな――――たった一人の神様が、己を神だと自覚してしまう前の。
それは健気で一途な願いだった。少女の願いは蛇梅隊戦闘部班全体の願いでもあった。
涙が零れて、零れて止まらなくて、指先はそっと目元に添えられた。
「すみません……ルイルの気持ち、分かっていなくて」
「……ご、めんなさい……ガネストは、悪くないよ」
「ルイルは優しいですね……いつもいつも。皆さんの事、ちゃんと良く見ている。……ルイルの事しか考えてない、僕とは大違いです」
「ガネスト……」
「そうでした。僕達はずっと昔から王女と執事で、でも今は――“次元師”としてのパートナーですよね」
差し出された掌に、重ねられたのは一回りも二回りも小さな手。王女と執事はどこにもいなくて、地上を駆ける二つの影は正しく次元師のパートナーだった。
ドレスや燕尾服を脱ぎ捨てた二人は今、蛇梅隊の次元師として、手を繋いでいる。
「それではメッセル副班長からの指示を申し上げます。副班長の毒皇で今元魔はひるんでいます。ルイルは今から悲飴で更に術を重ねて下さい。毒が消える前に僕が蒼銃で攻撃を仕掛けますので、その間身動きの取れない僕達のサポートを悲飴の念力術でお願いしたいのです」
「……」
「――大丈夫、ですね? ルイル」
「……うん――全然だいじょうぶだよ、ガネスト!」
全く子供は、いつまでも子供ではない。大きな者の背中を見上げて、そこへ憧れて背伸びしていつの間にか――見ている景色は同じものになっているのだから。
心を開け。心で叫べ。
次元師たる者達こそ目に見え得るが、それはどの人間にも過去日常未来に溢れている。
嘗て閉ざした心を開いたのはある少女の声だった。
嘗て隠した叫びを聞いたのはある少女の心だった。
――――王女と執事だった者達の心を変えたのは、神になる前の神様だった。
「「――――次元の扉、発動!!」」