コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.22 )
日時: 2017/02/11 13:02
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: hAtlip/J)

 第319次元 再構成

 了解、頼む――と残して彼は、通信を切断する。長く伸ばした金色の髪が、冬空と紛れて冷えたのに絡まると、いよいよ夜も深まってくる頃。
 崩れかけた塔の屋上で、星と砂の間を滑る光はレトヴェールの視界を呑んでいる。

 (……現在の討伐総数、7体。特攻部班、前線A部班が2体の討伐に成功。1体の盗伐にかかった時間と2体目とでは討伐時間に差がある。2体目以降で慣れてくるのかもしれない。……そして、事前の情報による新元魔の総数は、――――20体)

 事前に組んだ基本的な戦闘形態としては、特攻部班2人が最前列が位置し、前線部班の後方に後援部班を配置。チーム3人で討伐に困難な場合、控えた後援部班に応戦を頼む形となっていた。最後列に位置する特防部班は、戦闘技能を持たない次元師たちの護衛、そして前線・後援部班への助力が主な仕事となる。
 そしてこの現状は、厳しいの一言に尽きるのだろう。
 午前0時が訪れるまでに2時間半を切ったが、元魔は残り13体。人族と神族の代表同士がぶつかり合う一騎打ちまでに元魔を全掃しておかなければ、追々不利となるのは人族側となる。それは明々白々だった。

 「……」

 蛇梅隊の次元師は、キールアと自分を除き総勢20名。
 レトヴェールは眉間に皺を寄せていたが、暫くするとそれは緩みをみせた。

 「――こちら司令部。蛇梅隊、全部班に告ぐ」

 彼が続けたことには、総員が、驚愕を禁じ得なかった。


 「ただいまより――――チームの“再構成”を行う。復唱はしない。よく聞いてくれ」


 討伐後、休息の間に、建造物の影に隠れて、他の次元師と遭遇した最中。
 蛇梅隊の次元師は誰もが、冷静に耳を傾ける。

 「特攻部班のサボコロとエンの2名は変更なし。最前線にいてくれ。――続いて“第一班”を、チェシア副隊長、クルディア総班代理の2名に変更。“第二班”はコールド副班長とフィラ副班長の2名。“第三班”にガネスト、ルイル、そして――――隊外の次元師だが、シェル・デルトールと3人でチームを組んでくれ」
 『――はい。了解致しました!』
 「現在負傷中のメッセル副班長が回復し次第、シェルは同じく隊外のシャラル・レッセルと2人で組んで、“第七班”に移行。それまでシャラルは俺の指示に従ってほしい」
 『おうよ! 言われた通り、蛇梅隊の奴らから通信機ってのを借りるぜッ!」
 『それは確かに妙案なのだな?』
 「ええ、副隊長。――ですが今は時間がないので、どうか従って下さい」

 第四班には、ラミア・ミコーテとティリナサ・ヴィヴィオの2名に加え、テルガ・コーティス副班長。
 第五班にヴェイン・ハーミットとリルダ・エイテルの2名。第六班がセルナ・マリーヌ、ミラル・フェッツェルを組ませた2名のチームとなった。

 それはどれも、馴染みの深い数字だった。蛇梅隊第三部班のガネストら、第四部班のラミアとティリ、第五部班だったリルダがお馴染みの副班長ヴェインと組んで第五班に、そして第六部班のセルナとその副班長ミラルも。皆の口元は、ああこれかと、自然と緩んでいることだろう。
 第七班がシェルとシャラルの組んだチームとなったことで、レトヴェールは畳みかけるように更なるチーム構成を告げる。

 「続いて“第八班”――ここからは、蛇梅隊も外部も関係ない。第八班には、ミル・アシュランと――、」
 『っ! ……れ、レト……っ、それって』
 「ミル、お前は特攻部班の後ろについてくれ。そしてどの班よりも多く、元魔を討伐してほしい。柔軟に動いてくれ。討伐隊全班の鍵を握るのは、お前だ。――頼めるな?」

 一人あたりの元力量は、平均値よりも下回る。
 しかし――総数にして“368人分”の元力を有するミル・アシュランほど、今戦争に向いた次元師は存在しない。
 無尽蔵ともとれる、元力保持者。
 人族代表であり、蛇梅隊の次元師総勢を束ねる司令官をも担う。そして自身が心惹かれる男に、頼まれては断る理由がない。

 『……了、解っ!』
 「よし――続いて“第九班”、リリエン・エールとリリアン・エールの2名。“第十班”は、セシル・マーレット、テシル・マーレットに加えてリラン・ジェミニーの3名で組む。“第十一班”はリフォル・アーミストとルルネ・ファーストの2名。――――そして最後に、“第十二班”、ムシェル・レーナイン、ファイの2名。以上だ。シャラルは、第九班以降のチームに通信機の受け渡しを頼む。編成については、双斬を通して交渉済みだ」
 『了解だ。任せとけ!』
 「行動班を増やしたため、通信機は各チームにつき一つ、二つになる。チームの中で連絡係を決めることと、通信機の所在がバラバラになるので、通信機の固有番号は今後使わないこと。応戦を頼む際や他チームの所在地を確認する場合でも、通信は全て全体連絡を用いること。――司令部からは以上! ……健闘を、祈る」

 耳元へ添える指。ピッ、という切断音が合図となって、レトは深く、長く息を吐いた。
 緊張の糸が解ける。唐突の指令で隊に混乱を招きかねないというのに。ふと我に返っても、不安が拭いきれずにいた。
 それでもレトは、これが正しくあると信じている。
 お互いのことをよく知るパートナー。聞き慣れた班番号。どのチームにも遠距離攻撃の可能な次元師を配置し、且つ交友関係の発展した者同士を組ませることで。
 次元師は驚くほどにその実力を発揮する。
 それは科学的に証明されている事項でもある以上に、互いへの信用を第一とする次元師たちの共闘で最も大事なものでもある。
 何より自分自身がそれを一番よく分かっているというのを、彼を取り巻く人間たちも皆、知っている。そのせいもあるのか、レトの指令に首を横に振る者は誰一人いなかった。

 唾だけを流し込んで、こうべを垂れるレトの鼓膜が、何かを受信した。
 ピー、ピー、と間隔正しい受信音に指を伸ばしかける。
 そのとき。



 『こちらキールア・シーホリー、――――神族【DESNY】と遭遇』



 彼の胸中に、休息は訪れないらしい。
 ――――細い喉元の告げる、平静な報告が、少年の心を搔き毟る。



 「長旅ご苦労様。メルギースからエルフヴィアって、ほぼ地球の半分移動するようなものでしょ? いやー、ボクだったらしんどくってやめちゃうよ」
 「……」
 「キミは、やめなかったんだね」
 「……」
 「もうっ、何か言ったら? もううずうずしてるんでしょ? 3、4時間待たされてさーあ」
 「――――レトとロクのお母さんを殺したのは、あなた?」
 「……」

 ――振り向くと端正な顔立ちに、美しい金の髪が身をくるりと覆う。いつも朗らかに笑みを零す彼女は、レトの母親であった。
 そして、ロクアンズ・エポールにとって義理の母でもある。キールア・シーホリーにとっては二人目のお母さんができた気分でいた。


 名は、エアリス・エポール。彼女の死に際、その枕元に立っていたのは、人でも元魔もなく――神族、デスニーと名乗る運命を司る神。
 あの日から、過ぎた月日は、指折ると5年にもなる。


 「罪もない人間を殺すはやめたら? そんなの、神様じゃないわ!」
 「――それは、言う相手を、間違ってるね」
 「何ですって?」
 「ボクは――――“剣闘族”、じゃあ、ないよ。キールアちゃん」
 「――!!」

 剽軽な彼の、最後の口ぶりが、キールアの眉を顰めさせた。
 火を焚きつけられた魂は、ゆっくり、脳に繋がれた腕を振り上げる。

 「次元の扉、発動――――百槍!!」

 奔る銀色が、槍を象った。夜闇に負けじと光を放つ銀槍と、握る指は細長く美しい女人のもの。
 鼻を鳴らすデスニーは、大地に立つ百槍をまじまじと見つめてから。

 「そうだね。無駄話はこれくらいにしよう――――、キミにも見せてあげる」

 (……――レトとロクが戦ったって言ってた、あの)



 「“鏡謳かがみうた”」



 ――――そう、詠う。奏づるは子どもみたく幼い。

 途端、デスニーの全身が明度を失っていく。泥と同化していく。足元から溶け出すと、今度は。
 荒野の底から、沸々と盛り上がる土が、次第に――形を成していった。

 「楽しいことをしようか」

 聞いていた話の通りに、造形は“自分”に寄せてあり。
 言うことを聞かぬ鏡は一人でに笑う。
 次いで一つ。

 「君は特別だから」

 背中に伝う音も、話の通りに、自分のものに類似している。

 ――鏡を用意しよう。
 目の前に一つ。後ろにもう一つ。さすれば人は、己の背をも見え得る。
 
 並んだそれらは、まさしくキールアだった。


 
 ――――片目は金色を損ない、槍を持たぬのは、頼りなく細い腕。