コメディ・ライト小説(新)
- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.23 )
- 日時: 2017/04/02 17:49
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: aQkFNbc/)
第320次元 チーム
伸ばした両腕をくいと持ち上げる。靡く紅色。闘志にも似たその色は若干の桃色を挿して、女性らしく風に弄ばれている。
彼女は、眼前に聳える――巨大な怪物の身体を、涼しい顔つきで見上げながら。
「第、十一次元の扉――――発動」
前人未踏の扉を、開く。
「――――――荒繰灰天」
天より降り注ぐは、空の涙する小粒ではなくて。
かの巨体を悠々と貫く――無尽の刃。
――――それは、“断罪”の象。
ただ太いだけの柱とも見える足首に、赤く輝く心の臓。
己の身を突き貫く鎗の一つが、ひとりでに引き抜かれる。
浮遊するそれは、元魔の足元へ、切っ先を向けた。
「運が悪いな、お前は……――――第九次元、発動!」
ハスキーな彼女の声色が、喉奥を叩く。
細長い指先向くのは、鎗と同じ方角。
「――――心操!!」
曲げた関節を正すと、その動きにつられて鎗が飛ぶ。
痩身な彼女の何十倍もある鉄の刃は、一筋、狂いを見せずに――――元魔の足元を、突き裂いた。
と、同時に、元魔の身体が爆発を引き起こすが、その規模に巻き込まれることはなかった。
手を焼かず。身を汚さず。余裕を保つ二つの心が、並んだ。
「けっ。こんなもんかよ。あっけねえな」
「あたしが次元技を放って、ロティさんの次元技“心操”でまたそれを操る……負ける気がしないですね。レトの采配のおかげですね」
「あいつの考えってのがムシャクシャする」
「あはは」
「まあ、なんにしたって、アタシら姉妹にゃ勝てねえよ」
「……」
「おら、何ぼけっとしてんだ。行くぞ――ミル」
「……はい!」
心で繋がった姉妹の間に流れる、心地のいい温度。亡き妹を想う気持ちと、元魔を破壊するという志をともにする両者の足は、次の戦場へ赴く。
四肢の細い少女は、その身を超える大剣を大きく振り上げた。
元魔の足元で爆発音が相次ぐ最中、少女マリエッタは、黒煙へ身を投げた。
「第八次元発動――――、強加!!」
主、ヴェイン・ハーミットの掛け声にマリエッタの瞳は、緋を灯す。
刹那、建造物並みの巨体を持つ元魔の身体を、一刀両断。腰の辺りで息衝いていた元魔の核が、割れる。
パキン、と破片が哭くのを合図に引き起こる爆発は、ヴェインもマリエッタも、加えて年端もいかぬリルダ・エイテルをも巻き込まずに、ただ砂上で踊り失せた。
「……っ」
「……ふぅー。ま、順調なんじゃねぇか?」
「あらあらヴェイン? あまり息を抜きすぎると、本当に命を落としますわよ?」
「わーってますよ。……リルダ」
「あっ、は、はいっ!」
「お疲れさん。子どものクセして、よくやってくれるよ、ほんと」
「……わっ」
跳ね放題の緑髪をくしゃくしゃに撫で回す。背丈のうんと高いヴェインは少し屈みながら、幼いリルダにそう微笑みかける。
(……お父さんがいたら、こんな感じ……なのかな……)
祖父に育てられたリルダは、ふとそんなことを小さな胸に秘めながら、ヴェインの顔を見上げた。
硬くて大きな手が、浮く。
「さーて、あと何匹なのかねぇ」
「他の皆様方も、大変腕が立ちますわ。私たちは、ただ出会う元魔を……たたっ斬るまで」
「おっかねぇ言い方は控えろよ」
「あらあら? 間違ってまして?」
「イーエ」
「……ふふっ」
元魔だった砂が舞う中を駆けていく。大きな足跡を、小さな足跡が追う。第五班の2名と1体は、変わらぬ後ろ姿を引き摺って夕闇の下を往く。
「おいおい、まだくたばんじゃねーぞ、リーダー!」
「誰に向かって言ってる? お前こそぶっ倒れるなよ――、シャラル!」
背中越しに皮肉を投げ合える余裕。信頼を築き合えたきっかけは、両者ともある男に因縁があるからだという。
レトヴェール・エポールによって繋がったシェル・デルトールとシャラル・レッセルは、同時に踵を浮かせた。
「「第九次元発動――――」」
向ける矛先は、不気味な神獣へ。英雄の名こそ手に入れるのは叶わなかったが、彼らが今求めるのは誉れではなく――かの心臓たる、核の破壊。
「絶閃一華――――!!」
「氷竜――――!!」
華によく似たそれは美しく舞う、鋭刃。竜の産声は豪快で、それでいて極めて冷ややかに響き渡った。
――戦士たちの叫びは、巨人の全身を砕いた。核は額にあった。
神の生んだ塔は、月下に崩れていく。
激しい雄叫びに、耳を塞ぐ仕草も似ている。彼女らは天高く聳え立つ元魔を仰いだ。
短くきっちりカットされた白い髪は、彼女によってぶんぶんと揺らされる。
「っっったく、うるっさいですねあの怪物……!」
「言笑自若。落ち着け。確実に、目標の討伐を完遂させる」
「わかってますってば……」
「……準備は?」
「――テシルの言葉を借りるなら、“闘志満満”、です!」
セシル・マーレットは自身の身の丈を悠に超える大きな筆を抱えて、先に跳んだ。
くるりと身を振り回すと、――黒いインクは輪郭と化した。
「描空――!!」
次元唱を欠いて尚、次元の力は主の声に忠実に従う。無数の剣を模した黒い輪郭たちは、空の上に並べられる。
彼は、次いで発した。
「――加色」
左腕で支えたパレットに筆を差すと、穂先は空へ向けられた。並んだ剣の輪郭の中を、“塗る”ように鮮やかに放たれる、絵の具。
彩られた剣は、おもちゃみたく簡易な色合いと見た目で、元魔へ矛先を向けた。
元魔の腰を丸く囲う。セシルの筆は、暗夜へ翳される。
「いっきなさあい――!!」
筆を振り下ろすと、それが指示となって剣たちが動き出した。元魔の腰元へ、無数の刃が突き刺さる。
が、元魔は一瞬怯むとすぐに、腕を振り上げた。
「!」
(中途半端、な物理攻撃はかえって反撃の隙を与えてしまう――レトヴェールからの情報は、これのことか!)
地上で、迫る元魔の腕を眼前に動けずにいた双子へ――捧ぐ鉄槌。
太い柱が大地を殴る。部屋の床を叩くように大地を陥没させた元魔は、ゆっくり、腕を持ち上げる。
そこに、双子の姿はなかった。
遥か高く高く。彼女たちは刹那の間に、元魔の肩甲骨が見える位置にまで到達していた。
「あたしがいてよかったね、ほんと!」
「! ――リランさん、ナイスです!」
「危機一髪……感謝する」
「……はあ~」
兎耳をへこっと折ると、ため息。
優れた跳躍力。長い耳、厚毛の手足、小さな尾。
――“兎”に化ける彼女、リラン・ジェミニーは“兎装”という次元技を既に発動させていた。
第十班の3人は、元魔の項に、核を目にした。しかしそれは一瞬で、地上へ吸い込まれるように急降下する。
「あんなところにあったのですね……!」
「セシちゃんとテシちゃんで、元魔の動きを封じられる? そしたらあたしがぴょーんって跳んで、核を壊してくるよ!」
「言われなくても、そのつもりです。爆発にはお気をつけて」
「はいはーい! テシちゃん、ちょっと肩貸してね!」
テシルが頷くと、2人を脇に抱えていたリランは腕を離す。そうして流れるように彼の肩を足場とすると、勢いよく跳びはねた。
同時刻、セシルは既に筆を振り下ろしていた。
「第八次元発動――――描空!!」
「第八次元発動――――加色!」
描く輪郭は、初めに“碇”を大地に突き刺し、そこから二本の線を並走させる。続いて間髪入れずにテシルが絵具を投げると、〝長い薄茶色の縄の絵”が、元魔の巨身と地面とを繋げた。
言語とならない叫喚で踠くも、虚しく。
――兎はもう、怪物を狩る眼を、している。
「――――第八次元発動、強加ァ!!」
踵を、落とす。――瞬間、バキィ、と赤いガラスが割れると、リランは核の欠片を踏みつけて、さらに天空へ跳び上がった。
綺麗とは言い難い花火が夜闇を飾る。次元師たちは冬空に咲くそれに風情を感じるはずもなく、見上げては、息に交えて安堵を吐いた。