コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.24 )
日時: 2017/05/21 23:06
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: csh0v7TN)
参照: ※修正しました。(5/21)

 第321次元 寄り添い合う

 視界の奥深くでは、ハイタッチを交わすチームの姿がある。低い背丈は三つ並んで、そのうち二つが白い髪色をしていた。
 彼らが第十班のメンバーたちであるとは判断がつかない距離で、不気味な白さを誇る巨神兵と対峙しているのはファイとムシェル・レーナイン。
 かつての仲間同士である二人はレトヴェールによって再び背中を預け合うこととなったのだった。

 「はあ、なによぉ……っあいつ……! 核がどこにもないじゃない!」
 「……」
 「こっちはどんどん元力が削れてくってのにぃ……っ! ちょっとファイ! ちゃんと確かめてきたんでしょうねぇ!?」
 「……間違い……ありません……表面の、どこにも……」
 「あんな白い体に、赤い核がいくら小さくたって見つけられないわけないじゃないの! どうなってんのよ、もう~~!」
 「――っ、来ます」

 鉄槌が下される。間一髪といったところで躱した。
 次元の力、“紫翼”で空へと羽ばたくファイは機械じみた瞳で元魔を見下ろした。
 そのとき。

 「!! ――ムシェルさん!」

 息衝く間もなく、元魔のもう片方の腕が大地へと伸びた。ムシェルの次元の力、“鞭洗”は飛び道具ではない。手に掴んだ鞭は瞬間、意義を失った。
 ――“牙に似た岩石”が、かの巨体の脇に喰らいつくまでは。

 「え……っ!?」

 人間ではない唸り声。小さなものから大きなもの、丸いものから鋭いものまで様々な形の岩によって形成されたそれは、竜だった。
 巨体が傾く。地面と平行になっていく。しかし、産み落とされたばかりの竜は楼が如し。崩れ落ちていく頭、胸、翼――竜の主は、竜だけの主ではない。

 「――ルルネ!!」
 「はいです! ――“現出”!!」

 林檎色の頭が、ぴょこんと揺れる。可愛らしい仕草に似合わず、少女の口から飛び出した合図は、元魔の足元に“箱”を出現させた。
 傾きに追い打ちをかける。石に躓く子どものように、元魔は不格好に地に伏した。
 大地に横たわり、激しい土煙が辺りに広がる。

 「……! り、リフォル……さん……」
 「ファイ! ムシェル! 何をぼうっとしている! ――ここは戦場だ。遅れをとるな!!」
 「「――っ……!」」
 「ムシェル、お前の鞭洗でヤツの動きを封じろ! 一瞬でいい!」
 「はっ――任せといて!」
 「ファイ!」
 「!」
 「――核を、叩け」

 無機質な瞳に、奔る閃光。ムシェルが鞭を振り上げると、ファイは飛び上がった。
 リフォル・アーミストの次元技――“岩柱”によって、彼とルルネ・ファーストは空中を昇る。
 ムシェルの鞭が、大地を奮わせる。

 「第七次元発動――厳撃!!」

 起き上がらんと、浮かせたはずの腰が、くだけた。
 大地に震動に動きを止める元魔の、足元。
 ――通りで見つからないはずだ。そう、ファイの目元が嗤う。

 「第九次元、発動」

 冷ややかに放たれる詠唱。
 かつて、現英雄の2人がそれを目前にしてひれ伏した。
 彼女の翼は――折りたたまれやしない。

 「――――紫踊大裂星!!」

 白い足先は天を仰ぐ。その眼に、闇色の結晶が降り注ぐとも知らずに。
 直接狙ったわけではないが、足の裏に張り付いていた血の色の核が、幾千もの刃から逃れられるはずもなく。
 やがて心臓は貫かれた。嘘みたいに巨大な肢体が、巻き起こる爆発によって夜の藻屑と消えていく様は、果たして嘘だっただろうかと疑うほどに、呆気ない。
 第十一、十二班の計4名の背中は見慣れた風に並んで、歩み始める。



 元魔の数は確実に減ってきていると見てとれる。その頭部が天上を貫くほどの巨体を持つ元魔の姿を、まさか見つけるのに困難だということはない。ただしある程度の距離内にいる必要はある。
 第七班の2人は、十数という人の極力傍でしゃんと立っている。囲われた人たちは皆膝を折り、2人を見上げるようにして身を寄せ合っていた。

 「さてっと……」
 「あ、あのぅ……」
 「はい?」
 「本当に私たちは、戦わなくても大丈夫なんでしょうか……?」

 がっしりとした体に似合わず、口からこぼれた言葉は弱々しく砂上で失せる。
 男性の声につられてか、問いかけられたシェル・デルトールに視線が集まる。

 「えっ、と……。はい、大丈夫です。奴らの討伐は蛇梅隊の隊員たちと、僕らのように有志で元魔討伐に経験のある者たちにお任せ下さい」
 「でも……なんだか気が引けるわ。いえ、今まで元魔を討伐したことがなくてお力添えができないから、何も言う資格なんてないのだけれど……何か力になれることがあったら、遠慮なく言って下さいね。微力ながらお手伝いがしたいの」
 「……お心遣い、ありがとうございます。微力だなんて、卑下なさらないで下さい。我々は同じ次元師です。……それと」
 「?」
 「今大戦の、人族代表方から使命を授かっています。『次元師たちの命を最優先に考えてくれ』……と。なので怯える必要もありません。あなた方は必ず、僕らが守り抜いてみせます」
 「……!」

 曇っていた表情に笑みが差した。自分の言葉に、少しでも不安を取り除く力があればいいけれど。
 次元師というのは、必ずしも戦闘経験を持つばかりではない。例え力の開放が行われてから数十年の月日が経っていたとしても、元魔という神の産物を前に怯まずにはいられない。恐怖とは、誰しもが持つ感情の一つだ。
 元魔を恐れたまま、戦闘から身を引いてきた名ばかりの次元師に、この第二次神人世界大戦で兵を務めろと放り出されては、怯えるのも無理はない。
 力を持たない次元師たちの身の危険を、シェル自身も危惧していた。だが。

 (……レトヴェールの親父さん、どうしてこの命を下したんだ。人の命を守りたい気持ちは当然俺も一緒だけど、『最優先』っていうところが妙に引っかかるな……。残酷な話だが、戦争に死人は付き物。万が一は大いにあり得る。次元師全員の命を最優先にしたところで、果たして終戦時に人類側が勝鬨を上げられているかどうかは――イコールじゃない)

 「んあ? おいシェル! なにぼーっとしてんだよ! レトに確認しなくていいのかぁ?」
 「え? ああ、そうだった。今連絡入れる」
 「ったく。何だぁ? あいつ……」
 「――こちら第七班。シェル・デルトールだ。現時刻での元魔の討伐総数および、残りの数を教えてほしい」
 『こちら司令部。レトヴェールだ。現時刻22時03分において、元魔の討伐総数は12。残りは8体だ。今しがた特攻部班から報告が入ったと思うが、元魔に遭遇したそうだ。それを除くと――残り7体』
 「7体……了解した。あと聞きたいことが――」
 『なんだ?』
 「……いや、何でもない。以上だ」
 『? ……ああ』

 ブツリ、切れる回線。問いかけた言葉を呑みこんだのには訳がある。
 大幅なメンバー編成で、通信機同士の個別通信機能は失われた。取り付けられたダイヤルを固有番号に合わせて回すことで、他の通信機と個別に連絡が取れる仕様となっていたが、今となっては通信機一つ一つがバラバラに組み替えられたチームの代表者の手に渡っている。どの番号を持つ通信機を誰が所有しているかを全体で把握できなくなってしまったのだ。
 
 そのため、現在は戦闘班と司令部間の連絡には全体連絡機能を用いている。余談だが、司令塔のレトヴェールが持つ親機の通信機に戦闘班が個々で連絡を入れることは可能だが、どの番号を誰が使用しているかを現時点で把握できていない彼には、彼から個々の通信機に連絡を飛ばすことができなくなっている。
 したがって、今のシェルとレトの会話は全体に音声として流れている。シェルの持つ通信機から個人連絡に切り替えても成立はするのだが――シェルは、やめた。

 司令部に送る情報の全てが、戦闘班の持つ通信機にも同時に共有されてしまうこと。
 そして、信用。
 シェルはそこに思い至って、口を噤んでしまった。

 (レトなら何か知ってると思って、聞こうとしてしまったけど……今、俺がレトの親父さんの命に対する疑問を全体に流してしまったら、皆の不安を変に煽ることになってしまう。蛇梅隊の全体会議で誰も疑問を抱かなかったから、この命が実行され、今主に俺に託されている。――信じよう。例えどんな目的でも……レトの、親父さんだもんな)

 迷いが失せたのだろうか。シェルは晴れ晴れしく顔を上げると、同時に空を仰ぎ見た。
 満天の星空。掴めそうなほど近くにある。そんな錯覚。
 闇に呑まれぬようにと寄り添い合って、星一つ一つが強く瞬いているせいだからだろうか、夜空がこんなにも美しい。

 ――それなのに。これほどまでに夜明けを待ち焦がれた夜が。あっただろうか。