コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.28 )
日時: 2017/08/16 12:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7TIkZQxU)

 第323次元 拒絶

 「第七次元発動――、一閃!!」
 「おっと! ――第六次元発動、衝砕!」
 「ああっ!」
 「「第七次元発動――傷消止血!」」

 大人びた叫びと、怯えながらに必死に紡ぐそれとはこうして交じり合う。
 消耗戦だ。両者互いに技を繰り出し刃を交えては、キールアは自身の抱える『慰楽』で傷を修復し、デスニーは自身が作り上げた“鏡のキールア”の『慰楽』によって同じく傷口を塞ぐ。
 この一連の流れが繰り返されてきた時間は、かれこれ数十分にも及ぶ。
 ただし、両者の体力の消耗度合いは、キールアの方が圧倒的に著しく顕れていた。
 金の長い髪が、汗でべっとりと頬にまとわりつく。あまりの気持ちの悪さに爪で払った。その際頬をわずかに引っ掻いた。

 「人間の弱点はそこだよ。神族とは、圧倒的に体力に差がある。それもそうさ。ボクら神族は余計な器官を一切持たない。そして筋力も統一さ。ああ、でもボクは肉弾戦はそんなに得意じゃない」
 「……まだそんなにしゃべれる余裕があるのね」
 「まーね。それに楽しくなっちゃって。キミはちがうの? ねえ、まだまだやれそ?」
 「――ええ!」

 銀槍、『百槍』の切っ先が空を裂く。切り裂いていく。疲れの生じを匂わせないキールアの足元が、強く大地を踏みつけた。
 跳び上がると、デスニーの頭を目がけて急降下する。

 「はは。受けて立つよ――戯旋風!」

 激しい旋回が、生み出す風が眼前に迫る。空中で槍を構えるキールアの眉間にしわが寄り合う。

 「く……っ――戯旋風!!」

 風の塊が衝突する。地上の砂をはがしていく。天上に泳ぐ暗雲が掻き消えた。
 ――刹那、拮抗していた風力は相殺し合い、キールアの持つ百槍が穂先を輝かせた。

 「はああ――!」

 眼下を睨む。――しかし、晴れた視界に、標的の姿はなかった。

 「――!」
 「猪突猛進、視界も狭い。――キミはもっと、冷静で穏便な子だと思ってたよ」

 キールアの、頭上から声が降ってきた。
 ――デスニーは百槍を模した銀槍を振り翳す。荒廃した大地は目前だった。

 「うああ――ッ!」

 白銀の穂先がキールアの背中を突き抜け、地面に深く深く、血液を挿す。
 抉り抜かれた腹部が振動する。新調した隊服が、血液を呑んで重たくなっていくのを実感するには――自分の身体が、相対的に重くなりすぎていた。
 重圧。信頼。英雄としての名を、栄華を得る以前に授かったその責任がこんなにも近くで息衝いているのに。
 左の手で覆っていた百槍の柄を、掴みとる。

 「おや? まだやる気あるみたいだねえ。感心感心」
 「……ッ」
 「でもこの傷じゃあ……傷消止血を使ったところで回復が間に合わない。君はまだ不完全だ」
 「……わ、私、……は……まだ……っ!」
 「……ねえ、キミたしか――“第二覚醒”、使えるんじゃないの?」
 「!」
 「どうして使わないの? 次元の力の強化でしょ? ボクに勝てるかもしれないのに?」

 神族の棲むもう一つの別世界――人呼んで“有次元の世界”で、キールアが手にした力の名は“第二覚醒”。
 通常の次元の力の、その先にある力。史上初、第二覚醒を成功させたその人物はキールアの幼馴染でもある、レトヴェールだった。
 彼を追うようにキールアは同等の扉を開くことをに成功した。しかし、彼女は初めて第二覚醒を成功させた有次元での戦闘を最後に、以来一度もその扉を開いていない。
 彼女の体内に蔓延る――“理由”が、力の扉をがんじがらめに封じこんで、開かぬようにとしてきた証拠だ。

 「……」
 「ボクはべつにいーけど。キミがそれを使わなくてもなんでも。――でも」

 銀槍に、宿る元力。元力という不思議な力の源をその身に宿した者は――次元師のみに留まらない。
 デスニーは虚偽そのもので構成された百槍に、血を通わせる。

 「――――衝砕」

 背中を突き貫いたままの、銀槍が――大地に激しく震動を齎す。
 隕石が落ちたあとみたいな円形が、古の大地を抉り広げた。
 キールアの腹部から、溢れてやまない鮮血が彼女の口からも放り出される。

 「ぐあぁッ!」
 「ほらほら英雄! これじゃ出血多量で死んじゃうよ? ……人間の血じゃあ、ないけど」
 「ぐ……ァッ……」

 (キールア! 第二覚醒を使いなさい! キールア!!)

 「み、リア……っ……で、も……わた、し……私は……!」

 (――っキールア……! このままだとあなたが!!)

 「私は――――“悪魔”にはならない!!」

 百槍を掴んだ。全身が大地の底に突っ伏したまま体勢を変えることなく――背に乗るデスニーの、視界を突いた。

 「――!」
 「一閃――ッ!!」

 次の瞬間――デスニーの左肩を、銀の刃が喰らう。
 彼はキールアから身を離し、彼女と距離をとったのち肩にかかる重さの元凶を引き抜いた。
 キールアもデスニーに倣って、腹部に奔る痛みを取り除かんとした。

 「ぐ、ぅッ――……っ傷消止血!」
 「はは……やられちゃった。ほんと、医者志望?」
 「……なに、よ」
 「……なるほどね、わかったよ。キミが第二覚醒を使わない理由」
 「……」
 「――正式名称は“魔血嚇”。人間はみなその力を恐れ“悪魔の血”と称するのだそうだね。してその力は、元力を消耗すればするほど色濃く、瞳に顕れ、元力の使用値の許容を超えると――――“悪魔”になる」
 「――ッ!」

 悪魔の血――それは、人類の中でもアディダス・シーホリーの血を継ぐ者たちの体内にだけ宿り、千年間他人類を脅かしてきた、神族とは別の脅威。
 魔血嚇という正式名称があるが、人はその力を恐れるあまり“悪魔の血”と呼ぶことが多くなってきている。

 元力に強く反応するという性質を持つ魔血嚇は、血液の性質そのものであり、血管に同時に流れている元力粒子とは相容れないものだ。
 それ故に魔血嚇と元力とは完全に引き離され、魔血嚇の数値が元力量を上回れば、シーホリーの人間の眼球が紫色に保たれる。
 ――そして、逆に元力量が魔血嚇の数値を上回っている場合、シーホリーの人間の瞳は“金色”に変色した状態になる。

 つまり、元力量がまだ魔血嚇の数値を下回っていない今、キールアは悪魔に――人類が恐怖する存在になりえない、ということになる。

 「“第二覚醒”の使用を避けるのは、もしかして元力の消費量が大きいからじゃない? だからキミは使いたくないんだ。ちがう?」
 「……だ、まって……!」
 「“化学反応”、だね。魔血嚇と元力は不結合対象。――その理由、知ってる?」
 「――!」
 「魔血嚇は元力を使用すれば使用するほど、その回数に応じて――――元力を殺していくからだよ」
 「だまってってば!」
 「少しずつ、キミが次元師であり続ける限り。少しずつ――キミは、悪魔に近づいていくんだ」
 「――ちがう!! ……私は……っ悪魔になんかならない!!」
 
 地上を滑る。血の雫を置き去りにして、月下に月が瞬く。
 銀槍を地面に突き刺した衝撃で跳ね伸びた。

 「攻撃が単調だよキールアちゃ――、っ!」
 「これ――返すわ!」

 (――! そうか今ボクらの百槍は入れ替わって)

 デスニーは百槍を頭上に掲げ、防衛の姿勢に入るも――キールアの握る銀槍が、その柄を天上へやった。
 百槍が宙を掻く。キールアは――デスニーの喉元を銀槍で貫いた。

 「ぐあっ!」
 「――借りるわよ!」

 土踏まずが穂先を踏み台にして跳び上がる。手元にようやく帰ってきた百槍を――英雄ミリアの矛先を、運命へと導く。

 「堕陣――――必撃ィッ!!」

 衝撃波があたり一帯を覆う。広がる波に砂が巻き起こされた。
 ――切っ先は、わずか遠く。嗤うデスニーはキールアを視界に掴んだ。

 「ザンネンでしたー! もっと冷静になりなよ、キールアちゃん!」

 脳裏で描く【鏡謳】が、幼いキールアの大脳に指示を捧ぐ。彼はふたたび、喉元にぽっかり空いた穴を間髪入れずに塞ごうとした。

 ――が、しかし。
 それは、彼の視た運命が――叶うことを許さなかった。

 「残念でした」

 脳天。球状の肉塊を、穂先が抉り抜く。
 運命の眼に映る彼女のはまだ、己が人間であると叫んでいた。