コメディ・ライト小説(新)
- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.32 )
- 日時: 2017/08/21 19:56
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 7TIkZQxU)
- 参照: ※内容を一部変更しました(17.8.21)
第327次元 斬撃と雷光
「「――――次元の扉、発動」」
皮膚を走る電流は、世界と世界を繋ぐ鍵となる。
幼い日々より、墓前で母への想いに暮れてから、復讐を胸に夢見た舞台で彼らは紡ぐ。
「――――雷皇!!」
「――――双斬!!」
十年の月日を経た。義兄妹は――――敵を討てと、誓いを捧げる。
「おーい! キールア!」
「!」
鐘が鳴り止んだのとほぼ同時刻。名前を呼ばれたキールアは、声のする方へ振り返った。立ち上がると、輪郭がはっきりして手を振っているのだとわかった。
いつもは頭に巻いているはずの白いバンダナを首に施して、サボコロが駆けてきた。
「無事だったか! デスニーは?」
「たった今、倒したところだよ。全体に連絡入れるの忘れてた」
「おお! マジかよすげー!!」
「……騒がしくするなバカ者め。傷口に響く」
「なにィ!?」
サボコロの後に続き、深い紺色の髪が顔を出した。
通信機越しではない、エンの低温な口調が健在であるところを窺うと、どうやらこの二人も無事らしいとキールアは安堵した。
そんな彼女とは裏腹に、エンは表情を険しくした。キールアの肢体が、何か鋭いもので無差別に貫かれたような痕に一瞬たじろぐ。
「なにが無事だ。貴様のその目は飾りか? ……見たところかなりの損傷を負っている。早急に手当をせねば、危険だ」
「……エン、ありがとう。でもそれより」
「ありゃ? キールア、目ぇどーした?」
「!」
「なんかちょっと黒ずんでね?」
変色しているであろう左の目を、キールアは咄嗟に覆った。金色を保ったままの右目で振り返ると、わざとらしく笑みを作った。
「なんでもないよ。疲れちゃったのかな。はは」
「……」
「そーかぁ?」
「そ、そんなことより――」
――途端のことだった。円となる三人の胸に、重圧がかかる。
鈍器で心臓を殴られたかと錯覚したが違った。縺れた足が砂を攫う。
空気が、変わった。
「……い、まの……」
「すっげえ……一瞬、胸んとこ殴られたかと、思ったぜ」
「……――さっき、鐘が鳴ったな。もしや……レトと、神族の代表がすでに」
「――! 戦って、る……!?」
暗夜を仰ぐ。三人は頷き合い、足並み揃えて月下に往く。
遥か遠くの方では、間髪を入れずに空間が震動している。近づくたび、それをいやに実感していく。
厚い砂地に捕われる、両者の脚。もはや言葉は必要としない。
「第七次元発動――十字斬り!!」
「――――雷撃!!」
真空波が、少女の髪を巻き上げる。ロクアンズが左の手で軌跡を描くと、雷光が暗夜を強く照らした。
少年――レトヴェールは砂を踏みつけて、跳ぶ。振り上げた剣の切っ先を月に翳した。
「――八斬切りィ!!」
ロクは、その場から動くことをしなかった。右の手をレトの顔面へ捧ぐ。
「――雷砲」
史上最速を誇る電光は――レトの頬を切った。
「……」
「打ち消しついでにこの威力か。相変わらずえげつない速さだな――、よっと」
地に足がつく。腕を覆う厚い布で頬を拭った。
視界の端が――熱気を捉えた。
「――雷撃!」
「く――ッ! はあ!!」
雷を晴らすと、刹那――ロクの細い脚が視界を覆う。
「……ッ! 近いんだよバカ――、真斬!!」
命中力に富んだ一撃が、ロクを襲う。間一髪といったところで、彼女のしなやかな四肢が跳び上がった。
低姿勢での着地。砂中に手を埋めた。――レトの体を中心に、雷が円を描く。
「――!」
「捕まえた――――雷柱!!」
天上を突く巨体だった新元魔の腕を彷彿とさせる。その柱の太さが、小さくなるレトの全身に雷の鉄槌を下した。
激しい光は、次元師たちの視線に釘を打つ。
――背後。金の髪が、振れた。
「どこ見てんだよ――十字斬りィ!!」
放つ一撃に、ロクは反応こそ遅れたが大した傷を負うことなく華麗に避けた。肩から多少の血が跳ねるも、彼女は構いことなく指先をレトへ向けた。
「――雷砲!」
刹那、瞬き。一瞬にして辺り一帯が、激しい雷光に包まれる。
しかし、形状を砲撃とするその次元技は、距離を短くして息絶えた。
「……!」
「だから――どこ見てんだ!!」
雷は――刀身によって弾かれていた。次元唱を唱えずとも技の発動が可能である両者の技の力量は計りかねるが、とても等級が低いとは考えられない出力で殴り合っていることは確かだった。
双剣は空を薙ぐ。ロクは俊敏な剣の動きにたじろぐことなく、綽々といった様子で丁寧に躱していく。
代わって、ロクが反撃に出んと雷を唸らせると、レトの双剣は真向から受け止めても傷一つつかずに積極的にカウンターを狙っていく。
「第八次元発動――」
「第七次元発動――」
両者は腕を引く。砂上を滑りながら後退すると、彼らの腕に力が宿っていく。
「双天――――魔斬!!」
「――――雷撃ィ!!」
幾度となく暗夜を照らす光。力の塊は衝突し――大気の流れを捻じ曲げた。二人を中心に大地が剥がれていくのに、代表者たちの元へ寄ってきていた次元師たちは足を止めた。いや、止めさせられた。腕で顔を覆い、風力が収まると、この壮絶な光景に目を瞠った。
(……! レト――、ロク……っ)
お互い一度も息をついていない。気を緩ませたとき、片方は雷に肌を焦がされ片方は身を切り刻まれる。
力の差が開いているようには思えなかった。幼い頃から共に背を預け合って戦ってきた義兄妹はお互いの動きの癖を知っている。この一年で新たに得た部分を除けば、腹の内は明かされているのだ。続く力の拮抗に、キールアはただただ胸のあたりで手を握って、見守っていた。
「くそ……っ、やっぱ一筋縄ではいかねえな」
「あたしがそんな簡単に屈すると思ってたんだ。心外だよ、ずっと一緒に戦ってきたのに」
「ああ。にしては、昔よりだいぶぬるくやってるみたいだな」
「……」
「もっとえげつなかっただろ。お前のやり方は。――俺の首捕りてえなら、心臓、狙ってこいよ」
「……は」
右の掌が、発した雷の余韻にビリビリと電流を纏っている。
妖精と謳われた彼女の若草色の左目が、ハイライトを失ったままレトを射抜く。
「――あんまり神様を、怒らせないでよ」
次の瞬間。
レトの腹部に――鈍い衝撃が入ったかと思うと、気持ちの悪い浮遊感がついてきた。
「――ッ!」
視界が荒れる。数秒後、数百メートルは超えただろうと推測できる位置で、レトの背中が何かと激しく衝突した。その拍子に、彼は意識を取り戻す。
と同時に、口内から赤い塊を産み出した。内臓が破裂したのではと疑うほど液量は多く、砂の上にぶち撒ける。
背中にはごつごつした感触が伝う。恐らく岩か何かだろう。自分の中から吐き出された血液を眺めながら、視界はふらふらと左右に揺れる。
眼前。妖精が髪を躍らせたかと思うと、己の頭蓋を掴んで持ち上げた。
「心臓じゃなくてがっかりした?」
「……」
「なにか言いなよ、お義兄ちゃん」
そのときだった。
ロクの右半身。胸から肩にかけて一線――鮮血に交じって、斬撃音が奔る。
「――ッ!」
「はっ……気色わりい呼び方」
血の滴る左腕が、緩慢に双斬を持ち上げる。五本の指に制圧されたままの頭部は後ろへ向いた。
「――そのまま離すなよ」
双斬の刀が、紅みを帯びていく。彼の血潮を取り込んでいるようにも見えた。
ロクは肩身引いて指を浮かせたが――遅かった。
「第二覚醒――――双天斬!!」
一太刀。極至近距離で薙ぎ払うと向かい風は、追い風となって彼女を砂地もろとも弾き飛ばした。
レトは立ち上がって――間もなく、深い土煙の中から禍々しいほどの元力を身に受ける。
「第二覚醒」
土埃が立ち上る。凛と響く音色だけが聴こえてきた。
彼女は、浮世でもっとも麗しい声音で唄う。
「――――雷神皇」
突如――大地を殴打した落雷が、義兄妹の間で烈に瞬くと煙が散った。
暗雲の中を駆ける雷撃は、ゴロゴロと不穏に音を響かせている。
――それはまるで、宵に並行して深まる軋轢を、匂わせているようだった。
「お前も持ってんじゃねえか」
「……」
返事の代わりに、くいと指を躍らせると――再び落雷が、レトを襲った。
形状の変化を遂げた双剣を両手に、駆けだす義兄を、天上に潜む雷を自在に操り阻む義妹。
斬撃と雷光は休む隙もなく牙を剥き――止むことを知らずに、古の大地に轟音を齎していく。