コメディ・ライト小説(新)
- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.35 )
- 日時: 2017/09/01 00:16
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 8sjNuoVL)
第330次元 創造
「レト――来るよ!!」
「ああ!」
――神族の中で唯一、千年間一度も命を落とすことなく永らえてきた者がいる。
その名は、【GOD】。彼は掌を大地に向け、緩慢に腕を伸ばすと、大地に亀裂が走った。
突如――それが手足であるかのように、隆起した大地がレトヴェールの眼前に迫る。
「十架斬りィ――!」
第二覚醒によって強化された衝撃波が、形成された腕を打ち砕く。ぼろぼろに崩れていく血肉に目を奪われていると、すでに第二派が放たれたあとだった。
「く――っ!」
「――第六次元、発動」
それはまるで、大蛇だ。八岐大蛇の連想させる、腕とも首ともとれる生物じみた大地の塊は、幾重になって古の地上を這う。
ロクアンズは、そのうち一体の首を蹴って跳ねた。ぐんと距離を縮めると、ゴッドの顔面に手を翳す。
「雷神撃ィ――!!」
避けたような動作は、見受けられなかった。
レトの目には、そして地上の少し離れたところではキールアが、ロクの攻撃がゴッドに命中したと感じた。
しかし。
雷光が晴れると、爛れた土の向こうから、ゴッドが顔を覗かせた。
「――君には、僕に傷一つつけることも叶わないよ」
光る、切っ先。――ゴッドの背後から彼は跳び上がる。
「――じゃあ、これならどうだ!!」
振り下ろした双剣が――神の首を刎ね飛ばした。
感触が遺る。重量も捉えた。――はずだった。
「それは人形だよ」
「――!」
「本物の僕は、こっちだ」
首を飛ばした、感触だけを与えてゴッドはまったく見当もつかない空間に移動していた。宙に浮く彼の指先が、空をなぞる。
――その途端。向かい合っていた義兄妹の後頭部が、壮絶な力の塊によって殴り飛ばされた。
流れるように額同士をぶつけ合うレトとロクの表情が、苦痛に歪んだ。
「か……っ!」
「ぐあ!」
二人の様子を伺うばかりだったキールアが、傷で膿んだ身体を傾ける。
「っ! レト、ロク……! わ、私も――っ!」
「バカなにしてんだ、キールア!!」
「サボコロ、だって私! あの二人に加勢しなきゃ! じゃないと……っ」
「でもお前そんなこといえ――、っ!? おい、キールア!!」
掴まれていた手を無理やり引きはがす。サボコロの声が遠のいていった。
勝手に動いた身体が、もう動けぬと哭く身体が、神に目通りを請う。
「レト!! ロクーっ!!」
「!」
「キールア!?」
「――……あれは、悪魔の。デスニーのやつ、とどめは刺しておけよ」
「私もいっしょに戦――」
キールアの、膝が折れる。それは暗に限界を匂わせた。
重力に従順な膝は震えていた。そして、前方の大地、盛り上がるのを実感したら血の気が引いた。
蛇のような形状の、その頭部がキールアに牙を剥いた――そのとき。
「――ぐッ!」
「っ!」
ふわりとなにかに抱きかかえられる。すると重力に抗って、遥かな空を泳いだ。
ロクの腕に抱えられたまま、眼前にはレトが、キールアに迫っていた土人形と対峙していた。
軽やかな動きで着地するロクの腕からそっと離される。
「危ない危ないっ、間一髪」
「……ご、ごめんなさいロク。でも、私も――っ」
「キールア、どうか今だけは、その命を最優先に考えて」
「……!」
「そして、――あたしたち義兄妹のこと、キールアだけは、信じていて」
『次元師の命を最優先にしてほしい』――フィードラス・エポールの、義兄妹の父親の言葉がふと蘇った。
神族に抗い続けるために、希望を失わないために――次元の力がこの世にある限り、人間が神様に屈服することはない。
神族【MOTHER】が、人が神に抗えるようにと与えたこの力が神族にとって脅威であることは間違いないのだから。
――ずっと引っかかっていたのだけれど、今になってキールアはそう感じた。そして、ロクに応えるように、笑った。
「……うん。信じてる。だれよりもあなたたちのこと」
つられてロクの頬も緩んだ。キールアの背中に声がかかる。
「キールア!」
「! サボコロ!」
「ここは危険だ、離れるぞ!」
「……ごめんね、サボコロ」
「――謝んなよ、キールア。それに……あの二人の力になりたいなんて、ここにいるヤツらはみんな同じこと思ってんだぜ」
「……――うん」
ゴッドの『創造』によって、この戦争のためにと改造された新元魔との戦闘が、大半の次元師たちの心身に大打撃を与えたことは事実だった。
疲弊している者はどこかの岩陰で息を整えている頃だろう。重傷の者はキャンプに運び込まれ、治療を施されている頃だろう。――次元師として経験の浅い者、女性子どもは、身を寄せ合って息を潜めているのだろう。
サボコロもエンも、英雄大四天の一員といえど例外ではない。
サボコロは一度元魔の殴打を直接身に受けている。無事そうにへらへら笑ってはいるが、彼の肋骨は何本か折れてしまっている。遠距離戦であっても、核の破壊を主としていたエンの疲労はピークをとうに超えているだろう。
――それでも。ロクの心に触れレトに支えられながら、蛇梅隊の隊服に身を包む自身に誇りを持っているこの二人が、キールアと同じくらい義兄妹の力になりたいと、思わないはずがないのだ。
(……お願い――どうか、どうか無事でいて……)
神に祈る――わけにはいかないが、捧げた祈りがどこかへ届けばいい。
だれにとも曖昧な、絶対のない願いでも、どうか。
キールアは後ろ髪を引かれながら、義兄妹から少しずつ、距離を離していった。
「――ぐああ!」
「! レ――っ、!!」
猛烈な殴打に、レトの肢体が飛んだ。自分の身の丈ほどはある拳を持つ格闘家に、暇なく殴り飛ばされているような感覚を呑んだ。
ロクも、レトを心配する猶予もないことを悟っていた。ようやく千年という長い時刻を経て、有り余る力を振るうゴッドは悠長になど待ってくれないのだろう。
その証拠に彼の表情は至極、愉しそうに歪んでいる。
「もっとだ。もっと見せてくれよ。――人類を代表する君たちがこの程度じゃ、暇潰しにもならないだろう」
指揮者気取りのただ細い指先が、僅かに胎動するだけで、地形が歪む。災厄を生み兼ねない偉大な力を、玩具を与えられたばかりの子どものような無邪気さで彼は振り回す。
「くそ……! あの触手みたいなのをどうにかしなきゃ、本体に手も届かねえな」
「――レト、作戦は?」
「は?」
「いつもみたいに、指示してよ。あたしを手足のように使ってさ」
「……お前なあ」
「信じてるよ、お義兄様♪」
「――……ったく」
二人の間を分かつように、大地を叩く触手を跳んで回避する。
――レトの瞳が、冷ややかにそれを見つめた。
「三分くれ」
冷淡な口ぶりに、身震いする。くれと言いながら、もう思考を張り巡らせている声色だ。
「――長いよっ、一分で!」
「注文が多いな! わかったから、一分の間に死んだら殺すぞ!」
「あはは! らじゃーっ!」
半ば返事を連れて、ロクは地上に降り立つ。
すると、頭の天辺から足のつま先まで、余すことなく――電流が奔る。
「第八次元発動――――雷神装!!」
這い呻く雷光が、全身の筋肉を刺激して――ロクは烈火の如く、大地を踏み抜けた。