コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.36 )
日時: 2017/09/01 22:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: 8sjNuoVL)

 第331次元 繰る人形

 ――加速する彼女の脚はレトヴェールの目に留まることなく、瞬く間に触手の一体を蹴り散らした。

 「……っ――は、や……」

 (! ――もしかして、あの技)

 レトは自身の腹部に目をやった。キールアの『慰楽』によって、そこは多少なりとも打撲痕が薄まっている。しかし、受けた衝撃と痛みの記憶はまだ新しい。

 ロクアンズは幼い頃から身体能力が高かったため前線で戦うことが多かったが、それは決して体術に秀でていたという話ではない。元力量が平均を上回っていたことと、彼女の心身のタフさを兼ね備えてのことだった。
 まして彼女の持つ『雷皇』は、筋肉の増強を促す次元の力ではないのだ。
 それでも、レトの腹部に鈍い衝撃を与えたのは、紛うことなく、――ロクの脚だった。

 (電気で筋肉を刺激して、飛躍的に筋力を強化させてるのか……――相変わらずだな、ロクも)

 謀らずも畏怖の念を抱いてしまう。ロクは強化した四肢で舞い踊るように、次々に触手を蹴り崩していく。
 それも第二覚醒を開放させた次元の力だ。目新しい光景に、胸が躍った。

 (――さて)

 約束の一分が過ぎてしまう前にと、レトは顎に手を持っていく。

 これまでの流れから、推測できる項目がいくつかある。
 ゴッドの持つ能力『創造』で創り上げたものは、今のところ地面の土と砂とを使用した土の塔や大蛇のみだ。しかしそれだけを寄せ集めても空中では風や重力によってすぐに自然分解してしまうだろう。
 ゆえに、おそらくゴッドは土の大蛇に、さらに空気中に含まれる水分を練り込むことで蛇のような形状を保っていたのだ。レトやロクが大蛇を破壊するたび、それが泥となって大地に還るのはそのせいだろう。
 つまり『創造』という能力は、その名の通り無から有を生み出す力ではなく、有るものを別の何かに作り替えて操るという、――“再構成”の力。

 (そうでなければ、やつは隕石でもなんでも作って、地球に大量のそれらを落とせばとうの昔にでも人類を滅ぼせたはずだ。――そうしてこなかったのは)

 ――しなかったのではなく、“できなかった”。
 単純に導き出せる答えではこれが一番正解に近いのだろう。ゴッドに課せられた“制限”というものがどの程度なのかは計り知れないが、間違いなく彼の能力には制限がかけられていて、『創造』の及ぶ範囲にも限界がある。
 それがどういう理由であるかは考察の対象外だが、これが現状に齎す効果としては――優秀の部類だ。

 (まずはやつがどの程度『創造』できるのか、把握する必要が)

 「うああ!」
 「!」

 義妹の呻き声が思考を遮った。見上げると彼女の首元にぶ厚い土の塊が喰らいついていて、細い両脚をばたつかせながら抵抗している。
 こみあげる笑いを堪えきれずに、ゴッドがくくくと喉を躍らせていた。

 「大口を叩くわりには小さいんだ君は。やることもね」
 「うっあ……ぐうッ!」
 「細い身体だ。どうやら君は人間と同じ造りをしているらしい。――で、なければ君の吐き出す液体はそんなに赤くならないはずだから」
 「うあああッ!」
 「気味の悪い傷だ」

 締めつける痛みが、ふっと、緩みを生んだ。

 「!」
 「ロク! こっちだ!」

 一太刀が大蛇を斬り落とすと、ロクはすばやく声のする方へ跳んだ。

 「ありがと、レト!」
 「礼はあとだ。まずはやつがどの程度『創造』できるのかを知りたい。それで隙があればコアの位置を探る。お前が大蛇を壊して道をつくれ」
 「今のままでもいい? 雷皇は、ほかの技だと力が散漫する」
 「ああ。そっちの方が適任だ」
 「適任?」
 「大蛇に含まれる水に電流を流せ。うまくいけば、指一本で倒していける」
 「!」

 足並みはずれる。飛び出したレトに続いて、ロクは彼の頭上をいく。

 「八斬乱舞――!」
 「はああ――ッ!」

 ロクが一陣、風を嬲る。両端から迫り来る大蛇たちの頭部に、添える指先。電流を流すと大蛇の身体は大きく反り返り、息絶えた。
 延々と蔓延る大蛇たち。きりがないとは、よく言ったものだ。

 「どうしたどうした! そんな悠長に遊んでいると、夜明けなどすぐだぞ!」

 地上を蠢く大蛇たちは、投じられた餌から目を離さんとする。――ロクはそれらを睨み返すと、立ち止まった。

 「レト! ――、風撃!」

 レトが髪を巻くと――彼の体は宙へ飛んだ。

 「おいロク!?」
 「――?」

 彼女は身を屈める。膝を折る。伸ばした両手が大地にかぶさった。
 遠目に置かれた神へ捧ぐ、つり上がった口角の告げる挑戦。

 「――――雷神撃ィ!!」

 何重にも犇めいていた大蛇のあちこちから光が漏れると――単純な血肉が裂けて散った。
 創り上げた有象無象の下僕しもべたちの死体が、主の目の前で無造作に転がった。

 「こんなお人形遊びであたしたちをどうにかしようだって? 笑わせないでよ」
 「……わお」
 「あたしとあなたは同じ――神族だってこと忘れないで!」

 足の裏に痺れを纏う――脱兎のごとく飛び出して、ロクの脚はゴッドに迫った。

 「ッ!」

 ――泥の壁が、衝撃を吸収した。

 「堕陣――必悪撃!!」

 流星は堕ちる。前方は自身の産み出した土壌の壁に行く手を阻まれている。崩れれば刹那、雷の猛攻が出迎えるだろうと推測は容易だった。
 して、頭上には英雄の切っ先。――ゴッドの足はたんと跳ねて、仰ぐ指先が大地と平行になった。

 「――――落ちろ」

 空気中の水分が震動する。突如、空中に出現した――――“氷の槍”。

 「「――!?」」

 鋭利に伸びる氷の塊が牙を剥いた。宙より降り注ぐと、独特の氷結音が大地を叩く。
 次元の力を掲げ損傷の軽減の図る二人だったが、――レトの足元には、大地が沸騰していた。

 「! レト!!」
 「――っ!」

 形成された剛腕が、レトの顎を砕く。鮮血を噛むと身体は空へ投げ出されて、ぐしゃりと大地に還る。
 しかしすぐに上体を起こし、砂を蹴った。

 (水から氷への“凝固”……『創造』は、温度操作も可能なのか)

 低姿勢。悠と佇む痩身と距離を縮めていく。立ち尽くす彼は緩慢に首を回した。
 手を、翳す。

 「――ッうあ!?」

 凝固した空気中の水分たちが、レトの前に立ちはだかる。尖ったそれが視界を刺す。
 すると、雷光が頬を掠め去った。それが氷の山と衝突し破片が拡散する。
 ゴッドは眉を顰めると、肩で息を搗いた。

 「どうやら休ませてはくれないみたいだ」
 「休みたいならぜひそうしてくれよ」
 「それは、無理な相談だな」

 向けられた指先は、ゆると曲げられている。口元もへらっとしていた。
 ――しかし義兄妹は気づけずにいた。尖鋭なものたちがこちらへ向ける視線に。

 「まだまだ、目の前の玩具に期待している」

 先に気がついたのは、ロクだった。

 「!! ――レト、上だ!!」
 「――ッ!」

 深い闇に浮かぶ、満天の星。美しく瞬いているうちは壮観の一言に尽きていた、――が、それらは虚勢をはがされると途端に、黒光りした。
 幾千と降り注ぐ彗星。天地を縫う鋭い豪雨が――――義兄妹を襲う。