コメディ・ライト小説(新)
- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.37 )
- 日時: 2017/09/30 12:08
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: icsx9rvy)
第332次元 双騎当千
流星は大群をなして、大地を穿つ。衝突し、陥没する地面。義兄妹とゴッドの戦闘を比較的距離を置いて見守っていただけの次元師たちが、悲鳴に呑まれてその場から走り去っていく。
殺傷力を孕んだ雨はようやく止んだ。
「く……ッ」
「レト! レト大丈夫!?」
「ああ、なんとか。お前は無事か!」
「うん! ――……それにしても」
一面、砂に覆われた大地。砂漠とまではいかないまでも、足跡がくっきりと残る具合には立派な砂地だ。
義兄妹の身体を突き、裂いて落ちたそれを見下ろすと、――深い黒色だった。
一目で判断した程度だが、レトヴェールの脳はそれを「鉄」だと叫んでいた。
しかしここでは少なくとも砂と岩と、空気だけが情景のほとんど構成しているのだ。
ロクアンズは足元に広がる異様な黒曜を、細い指で攫った。
「……黒い、塊。だったね。でもこれは……」
「砂鉄だ。ここにある砂の中から精密に鉄だけを抽出して、鉄塊を生成した。……もっとも、現実的に考えて不可能な現象だけどな」
「さっきまでの、土と水とを固めて作った泥人形とはちがう……物質そのものの変化」
(――いったいどこまで細分化を可能とし、生成を許すんだ)
土と水を単純に組み合わせただけの泥人形。それは、可視なる物体と液体とで創り上げたものだった。しかし氷の山や鉄の塊などといったものたちは、物質の形状変化、還元といった工程を容易に可能としていることを顕していた。
「温度変化も化学変化も……そうか。やつの“創造”は――科学的工程を介さない能力なんだ」
起から、結への直結。あらゆる物事の構成上必要不可欠である過程、工程といった段階を一切必要とせず、結果のみを生み出してしまう超常現象。
それこそが、神と呼ばれる者による――、“創造の力”。
「まさしく、人間業じゃねえな」
「さあどうしよっか? 悠長にかまえてる暇は、残念ながらないみたいだよ」
「ああ。そうだろうな」
レトはロクに寄り添うように体を傾けると、自分の口元を軽く手で覆う。耳元でなにかが囁かれると、身を離しながらロクは頷いた。
「疑わないんだな」
「あたりまえじゃんっ」
「――……細かいことはいい。いまはとにかく、動け!」
同時だった。足並み揃えて駆けだすと、前方から鉄製の刃が横殴りに飛んでくる。
それらが、雷を纏うロクの身体に触れるはずもない。器用に電熱を上げると、鉄はびちゃりと地上に跳ねた。
すると、己の手腕に酔う間もなく大地が隆起した。
「ロク! 気をつけろ!」
「わかってる!」
飛び退く、と土の柱に鉄の刃が突き刺さる。軽い手足が早急に着地すると、見上げたロクははっとした。
レトの頭上には巨大な拳が待ち構えていた。
「レト!!」
「――っ!」
レトは頬に血を浴びて、急降下する。
視界が急転する。舌で絡める鉄の味を咳と吐き出した。
「か、ぁ……!」
空中で氷の粒が結晶を成す。ロクが振り返ると、刹那。
鉄と氷とが交じり合って――黒白の雨が、激しく大地を叩いた。
「うぐ――ッ!」
風に靡くと袖はまくられ、伸びた腕に、奔る鮮血。頬を、脚を、鋭い痛みが掠めていく。全身を包む雷光が強く瞬くと、雨は降りながら溶けていった。
レトは腕を振るって泥を剥いだ。矢継ぎ早に、地面から伸びる柱。
「――ぐっ!」
交差した両腕でレトは咄嗟に顔面を庇う。身体は人形のように放り出され、大きく弧を描くと、どさりと砂上に打ち上げられた。――と、感じた殺気。振り返りざまに短剣を振り抜いた。
「はあ!!」
眼前に迫っていた泥の兵は弾け飛んで、原型を見失う。しゃんと立つと、ふたたび背後から伸びる土の塊が人の腕を形容していた。双斬と衝突する。
「く……ッ! 息吸うのも躊躇うな、こんなに速えと!」
雨雲を必要としない、鋭利な雨が伸びた。それは氷の粒であり、鉄の粒であり、レトの脳天へ容赦なく降り注ぐ。
泥人形と接触している矛先が光を放つと、途端にそれは、この世で随一の双剣となる。
「八斬乱舞――!!」
一振りと見せかけた八度の斬撃が、それらを一網打尽にする。間もなく、彼は駆けだした。
共闘、というよりお互いに離れた位置で各々の行動をとっている義兄妹を、ゴッドは交互に見やっていた。
(フェリーは比較的僕から近いところにいる。そして金髪のやつは遠くか)
思考は働きながら、指先では義兄妹を弄んでいる。しかし繰り返される術の殴打を避けるレトの様子は、不自然だった。迅速で、ゴッドの繰り出す技を見透かしているような動きだ。
(術の動きに慣れたか。――いや)
だんだん。だんだんと。泥の大蛇が道を空けていく。自然にも、不自然にも。
ロクとゴッドとの距離が縮まっていく、と隠れて、レトも同様に地上を駆けていた。
ゴッドの白い歯が覗くと、彼の指先は、くいと首を垂れた。
(……? 動きが変わった?)
しかしもう遅い。土の大蛇をひとつ斬り崩すと、ゴッドの表情がくっきりと目に映った。
ロクの背中が跳び上がる。張りのある掛け声が、大地を駆け抜けた。
「レト――!」
「ああ!!」
両の剣を振り上げた、そのとき。
「――つまらないな」
伸ばしたゴッドの掌から、大地へ、信号が飛ぶ。
すると、レトの視界は突然月光を失った。
「!」
分厚い土壌の堤防が――レトの眼前のみに留まらず、長く緩い弧を描いた。天空から地上を見やればそれが大きな弓を象るように。レトの視界では、果てしなく横に広がっている。
目つきが、興に冷めたように細められる。と。
刹那。
「――――引っかかった」
地上最速の電光が、彼の頬を斬った。
「――!」
頬に電熱が奔ると、伝う血液を妙に冷たく感じた。最速且つ、固く練り上げた元力の塊が、遠くの方で創られた巨大な堤防と衝突する。たった一度の衝撃に、その建造物は瞬く間に崩壊を辿った。
「あたしとレト。どちらが迅速で、かつ遠距離攻撃に長けているのかは一目瞭然。だからあたしを警戒するのは当然の流れだけど、それを考慮した上であえてレトが攻撃をしかけてくると踏んだんでしょう」
「……」
「でもハズレ! あなたがレトを覆うように壁でもなんでも、強制的に創らせるのがこっちの目的。あとはレトのことを気にせずにバーンッて、思いきり雷砲を撃つだけ。どう?」
「……僕の心臓を壊したわけでもないのに、偉い自慢げだね」
「……」
ロクは応えずに、下ろした右手をゆらりと持ち上げた。ゴッドの右の頬。切り傷を指さして、彼女はだれの耳にも届かないように謳った。
「きれいだね」
「は?」
「血の色、だよ」
――次の瞬間。ロクは強烈な一撃に意識ごと飛ばされる感覚を覚えた。四肢が飛んで、くらりと血液が回ると、平らな大地を勢いよく転がった。
口に含んだ砂を吐くと、項垂れたゴッドが小刻みに肩を躍らせているのが目に入った。
「はは。はっはは。遊びは終わりだ」
「……」
「望むのならその眼に入れよう。その傲慢な口に教えてやろう。――この先二度と、歌えぬようにな」
――途端。砂が躍り始めた。幼い地震が、エルフヴィアの地に広がっていく。夜空に瞬く星々を、厚い暗雲が覆い隠していく。
「な、なんだ……?」
「……」
すると、地面の一部が陥没した。不規則にも、辺り一帯に隕石でも落ちたような跡が次々に出現する。陥没した地面の要素は、空の一点を目指しているようだった。
大地の逆流に、空を仰ぐと――そこには。
「!! なっ、あ――あれは……!」
とうに討伐したはずの、巨大な胴と手足を持つ身体。外装は白く彩っていたものが、すっかりと土色に染まって、レトたち人類を見下ろしていた。
神の使徒とも呼ばれてきたそれの上体は天空を貫いて――――赤い心臓は、夜空を飾るどの星よりも強く、瞬いていた。