コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.38 )
日時: 2017/10/23 20:27
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YA8nu/PY)

 第333次元 創造の化身Ⅰ

 大げさに首を後ろへやってみても、それの頭部を伺うことは不可能だった。というのも、胴と手足とが天々たかだかと創り上げられ、上半身は灰色の雲に呑みこまれてしまっているからだ。
 ゴッドの手によって創られたこれが、新元魔の形状と酷似していることからレトヴェールとロクアンズの二人は確認し合うまでもなく固唾を飲んだ。

 「――……元魔か」
 「核はどこだろう」
 「さあな。この大きさじゃ、視認できなくて当然な気もするけど」
 「……」
 「でもまあ、好都合だ」

 そう言ってレトは、羽織っている灰色のコートのポケットから、手の内に収まるくらいの小さな器具を取り出した。ロクが覗きこむとそれは、白く丸い形状をしていた。

 「改良済みの通信機だ。前のより、ある程度の距離まで通信域が伸びてる」
 「これをあたしに?」
 「……予備でもらっておいた」
 「……。ありがとう」
 「今日は変に素直だな」
 「変ってなんだ変ってー!」
 「はいはい」
 「……一人じゃないんだ」
 「は?」
 「なんでもない!」

 レトの手元から通信機を受け取ると、片耳に装着する。簡易に取り付けただけのそれが外れないかと心配になり多少頭を揺らしてみたが、ものの見事に微動にしない。

 「相手の身体は大きいがチャンスだ。俺のは飛び道具じゃないから不利だが、お前の場合圧倒的に有利だ」
 「うん。あたしが核を狙うよ。レトは援護をお願いっ」
 「ああ」
 「――それじゃあ、いってきます!」

 ロクはにっと白い歯を見せて跳び上がった。自宅のドアに手をかけて、どこかへお出かけをするみたいな晴れやかな調子とともに。
 数秒も経たないうちに、レトの耳元でノイズが奔った。

 『レト、聞こえる? 真正面からは核の位置が確認できなかった。胴体周りにはないみたい』
 「背中へ回れるか?」
 『やってみる。――あ、腕が動くよ、気をつけて!』
 「ああ!」

 都市部内で一番を競い合う大きな建造物を、二つか三つひとまとめにしているかのような分厚い腕が、ぐぐぐと持ち上がる。重力に引っ張られ、落下すると思われたロクは持ち上がりかかった腕を踏み台にし、もう一度飛び跳ねる。
 同時に動き出した巨大な脚で、空に翳りが挿す。レトは月光の遮断に気がつくと、すぐに足と思われるドーム状のなにかから飛び退いた。
 風圧。砂上を駆ける強い余波に、レトは顔を覆った。

 『レト。背中にもなさそう。いま肩に乗ってるんだけど、首回りでもない』
 「そうか」
 『あとは足元か……』
 「いいや、足元付近にもなさそうだ」
 『! ……――見つけた』
 「本当か? 核はどこだ」
 『なんだ……ゴッドもシャレたことするなあ』
 「は?」
 『ひたいだよ。今までといっしょだ』

 従来の元魔たちは、姿かたちは大きく違えども、その心臓は同じ場所に位置していた。それが、額。黒ずんだ目と目の間のすこし上に、血の滾るような赤色の石が埋め込まれているその姿には、見慣れたものだ。

 「額か。この巨体だと肩回りは動きが鈍いだろう。その位置から狙えそうか?」
 『任せて!』
 「よし。腕には注意しろよ。まだ左腕が上がってる。……? ロク、おい。どうしたロク」
 『……』
 「ロク!」

 ブツリ。通信の切れる音だ。レトは通信機に指を添えて、ダイヤルをロクの通信機に合わせる。電波を飛ばし続けるも、応答する気配はない。
 気を取られていた矢先のこと。頭上に迫っていた暗闇に、レトは気がつけなかった。

 「――っ!」

 元魔の足裏が砂と密着する。と、この広大な大地に、グキリと鈍い音がささやいた。免れた上半身は必死にもがくも、捕らえられた下半身はびくとも動かせない。

 「ぐッ、うああっ!」

 バキバキッ、と内側でなにかが鈍く響いた。痛みと重みに圧し潰され、息もままならない彼の両腕が、光る。

 「第七次元発動――真騎斬!!」

 可能な限りひねり返った上半身。次元技、“真斬”を覚醒させたその術は一度の斬撃に重圧を籠めて、放たれる。
 大地の一部だった元魔の構成要素が砕け散ると、レトの下半身を圧迫していた足が浮いた。隙を逃さず飛び出すとすぐに、その反動で足が縺れた。大地に手足をつく。

 「はあ……はっ、……ぐッ……くそ――っ……ロク」

 返事はなかった。通信機に添えた腕をぶらりと提げる。

 ただ耳を抜けていく受信音。応答のしない間に義兄の身に危機が迫っていたとも知らずに、彼女は空を見つめていた。その視線の先には、黒い髪が靡いていたのだ。

 「ここまで来るのが早いね。さすがだ。人間業じゃないな」
 「いいや、これは人間の力だよ。『雷皇』も『風皇』も、マザーが人間に与えた力なんだ」
 「数奇だな。人間が授かるべき力を、君が二つも宿しているのか?」
 「……」
 「一つは、作為的にマザーが君に渡したものだ。【心情】だけでは無力に等しい。千年前の戦争で証明済みだ」
 「フェアリーさんは無力じゃない」
 「無力だったさ。だからマザーは君に次元の力を与えたのだろう。……神族である、君にね。しかし面白いのはそこじゃない」
 「……」
 「【FERRY】は現存している。生きているんだ。千年前からずっと。――――なのにどうして生まれてきた、外れ者の妖精よ」

 ドッペルゲンガー。そう呼ばれる者が人間界にはあるだろう。まったくちがう人間同士が、まったく同じ外見をしているという現象だ。しかし、同時期に同じ人間が生まれてくることもなければ、一度命を落とした人間が再び現世に還るなどということもないのは世の理とされている。

 それが、神族とはまるで異なる点だ。人間と神とを分かつ項目の一つなのだ。
 神族は核を破壊されても、転生という機能によって復活を遂げる。神族同士の核は互いにリンクし合い、六体の神族のうち一体でも現世で核を作動させていればほかの神族は何度でも生まれてくることができる。マザーの意志とは関係のないところで。

 しかし、【FERRY】の名を背負う神族――フェアリー・ロックがまだこの世に生き留まっているというのに、新たに生まれてきたかの少女はその身に神の印を刻み、二人目の【FERRY】として世に君臨したのだ。
 それが、ロクアンズ・エポールと呼ばれる一人の少女だった。

 「あまりに多くの不確定要素を含んだ君を、果たして僕らの仲間と呼んでいいものか。まあ、もちろん人間の部類ではないことはたしかなんだけれどね? 可哀想に」
 「――……次元の力、『雷皇』」
 「……」
 「これはあたしが、神族だと自覚する前からこの身に持っていたものだよ。偶然か必然か、神族を倒すという目的ができて、強くなろうと、必死であなたたちを追ってきた。人間みたいに」
 「君は人間じゃないよ、フェリー」
 「……じゃあ、どうやって人間の授かるべき力を得たと思う? あたしはどうして次元の力を、『雷皇』という神を穿つ力を持っていたんだろう」
 「……なぜ、それを僕に聞くんだい」
 「知りたい?」

 含みのある笑みをこぼすと、向けられた鋭利な眼光をロクの視界が捉えた。
 その瞬間、迫る殺気を感知した肌に、微弱な電気が這った。

 「――ぐはァッ!」

 反対側からぐるりと大きく回った大地の巨腕が、その何百倍も小さなロクの身体を苛烈に殴り飛ばした。なにもない空へ放り出された妖精の姿を、破壊神は冷ややかに見送る。

 「知りたくもない」

 小さくなっていくロクの姿を認めながらそう吐き捨てた――、そのとき。
 暗闇に、なにかが光を放った。

 「――――雷神砲!!」
 「!」

 放つたび、上書きされていく地上最速の電光。それは神を穿つ力。彼女が当然のように自身を人間だと認識していた頃に得た力の塊。
 その力は奇しくも神の身に宿り――――神の肢体を斬り裂いた。