コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.39 )
日時: 2017/10/27 00:32
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: YA8nu/PY)

 第334次元 創造の化身Ⅱ

 「くッ……――!」

 反射的に左肩を掴んだその手に、青筋が浮かんだ。身を包む布地のコートに血が這う。頬を切ったくらいの出血量ではなかった。

 大地へ向かって急落下するロクアンズは、辛々ながら左腕を伸ばした。すると、彼女の背中を撫ぜる風の動きが変動した。地面に叩きつけられる、ということはなく、彼女はやわらかく着地する。
 ぼふっと砂に背中を埋めると、巨大な拳が降り注いでいた。

 「雷神装――!!」

 血管の中にまで電流が駆け抜けたかのように、ロクの全身は一気に沸点に達した。暇もなく、元魔の拳とロクとが衝突をする。遠方から見ればその拳が大地についているようにも伺えるが、拳と大地の間では痩身の少女が大地を踏みつけ、両腕で拳を支えているのだった。

 「さきほどまでのガラクタどもと一緒にするな! これは、君たちの想像の範疇を悠に超えるように創造しているのだからな!」
 「ぐ、うぅ……!」
 「神を穿つ力だと? ははは! 笑わせるな! ――この世に神を超えられる力などない!」

 力と力によって保たれていた均衡が、崩される。神の鉄槌はエルフヴィアの大地に下された。

 「うああッ!」

 砂の荒波が立つ。少女は叫び声とともに呑みこまれた。その光景はレトヴェールの視界にも映り、途端に込みあげた焦りに彼の喉が焼けた。

 「ロク――!!」

 思うように動かぬ脚を引きずりながら一歩ずつ進んでいく。歩みを止めずに。――彼の頭上には、また、迫る巨塊。

 「――ッ邪魔だ!!」

 瞬くは、醒めた八太刀の閃光。

 「第八次元発動――――八斬乱舞ッ!!」

 腕と思しき、長く巨大なそれが下半分――消し飛んだ。平たい指先諸とも、肘から下の建造物は跡形もなくなってしまう。現れた腕の斬り口からぼとぼとと泥製の肉塊が降っている。
 一間息を吸うのを忘れていたゴッドは、くっ、と喉を鳴らした。

 「こうでなくては」

 しかし途端に、強い痺れが脚の内部を駆け巡った。レトはがくんと膝から崩れ落ちる。双斬を地面に突き刺し、なんとか保っている体勢だったが、腰から下はほとんど応答していなかった。

 「はあっ、あ……は……ッ! くそっ……――ロク!!」

 レトの視界、遠方に控える巨大な拳はいまだ大地と接触している。考えたくはないが、ロクがそこにいるのではと呼びかけた。しかしそれは虚しくも砂上に失せる。
 が、そのとき。

 「!」

 目の錯覚だろうか。大きな塊が左右に振れたように思えた。しかしその錯覚は、だんだん確信へと成り代わっていく。
 大地から構成された拳が震動している。それは微弱な風となって、レトの足元を心地よくすり抜けた。
 一閃の雷が、暗夜を縫った。

 「はああ――ッ!!」

 それは太陽光にも負けず劣らない強い光を放つ。激しい閃光に包まれた巨大な拳は、先端からぼろぼろと崩壊していくのだった。
 まさに怒涛の勢い。ゴッドは顔色一つ変えずに飛び退き、指先で空を弄ると、遥か眼下に控える大地が隆起した。まっすぐゴッドのもとまで伸びる大地の塔に、ゴッドは着地する。
 やがて全身を崩してしまうのではないかと期待するほどの勢力であったが、肩を目前にしてその勢いは死んでしまった。

 「へえ。両腕がやられてしまったわけだ。ははは。だけど、いつまでもつかな」

 次の瞬間。レトやロクの周囲に広がる砂や土などの自然物が、浮遊し始めた。それはまっすぐ夜空へ吸い寄せられていく。目で追うと、その先には――右腕の、泥が垂れていた丸い斬り口があった。
 そして崩れ去ったはずの左腕が、肩からはみ出した部分から徐々に元の姿を形成していく。
 戻っていく。直っていく。――創られていく光景に、目を瞠った。

 「忘れたのかい? これは“創造”の力だ。創り直すことなど造作もないんだよ」
 「っ……!」
 「……くそ……ッ!」
 「人間ごときの微々たる……ああ、言葉が悪いね。貴重な元力を、無駄にしてしまったね」
 「無駄じゃない!」
 「! ロク」
 「人間を、次元師を……――バカにしないで!!」

 ロクは力任せに身体を回転させた。拍子に身体がぐらつくも、その目はしっかりと創造された大地の塔を見据えていた。
 捧ぐ指先が、熱を帯びる。

 「雷神砲――ッ!!」

 雷の砲弾が砂を攫い、風を纏い、地上を駆け抜ける。衝突の一寸手前、ゴッドは塔から身を投げ出した。
 振り上げた双剣が紅く瞬きだす。

 「双天魔斬――!!」

 一陣の風は赤々と燃え滾り、ゴッドを目がけて飛んでいく。彼は布を被っただけのようなコートの袖から腕を露にした。

 「――!」

 赤い衝撃波は彼の手に触れると、インクが零れたように空中で分散した。いや、“破壊”された。

 「こっちが僕の本業さ。次元技の原理くらいは把握している。君たち一人ひとりの元力の性質もね」
 「そうかよ」

 耳元。囁いた声色に吐き気がした。それが自分のものと酷似しているからだ。
 振り向くゴッドにレトは振り抜いていた。

 「はァッ!!」

 庇う右腕に赤い閃が伸びた。斬り裂かれた傷口から鮮血が散る。

 「その傷で動けるとは……――大したものだな」
 「驚くのが早いんじゃねえか」
 「!」
 「――はあッ!」

 振り切った右脚がゴッドの首元に入ると、彼の身体は遥か遠方まで弾け飛んだ。電流を纏う風が大地の上を切っていく。
 雷を装ったロクは、肩で息をしていた。

 「こ、れで……すこし……はっ……」
 「はっ、はあ……はぁ……、――! ロク!」
 「――っ!」

 視界が転じる。ぐらりと脳から思考と血液が引いた。油断をしていたロクの脳天は、鈍い衝撃音を連れて後方へ吹き飛んだ。
 元魔の腕には遠く及ばないまでも、それは大地から生まれた剛腕だった。猛々しい産声とともにロクの四肢を殴打すると、役目を終えたようにその場で綻んでいく。
 口内を侵す泥水を吐き出す。どうやら距離は離されていないらしい。すぐ前方にはレトの姿があった。
 しかし、その背中は、宙に浮いているようにも見えた。

 「レト――!」

 ロクが身を乗り出すと、その途端、彼女を囲う自然物が浮遊した。土が浮き、水と結合すると彼女の手足に巻きついた。
 そして、砂鉄が形を成していく。生成されるそれは、鋭く尖った鉄塊となって、ロクの腹部を突き刺した。

 「ぐ、ァあッ!」

 意識は正常に機能しなくなった。視界も霞み、不安定なものとなる。振り絞った力で顔を持ち上げる――と、レトの、脇腹に。
 大きな穴が開いた。

 「――!!」
 「うっ、ぁ……ッ」
 「外れたか。まあいい。何本かひび割れていたね、肋骨。でもぜんぶ壊してやった。これでもう苦しむこともないだろう」
 「……ッて、め……!」
 「まだおしゃべりできる気力があるのか。案外図太いな、人間っていうのは」
 「っ……――れ、と……!」

 ――大地が胎動する。その震動は次第に高まっていく。すると、義兄妹の頭上に翳りが挿した。
 巨塊だった。泥がひとつ、ぼたりと落ちる。二人は抵抗する術もなく、巨大な拳に容易く捕らえられると、天高く持ち上げられた。薄い酸素。締めつけられた身体に、呼吸は乱れたまま整えられずにいる。
 ぐぐ、と、二人を握る力に圧力がかかる。

 「「うあああッ!!」」

 身体の内側から嫌な音がした。すでに痛覚が麻痺しているのか、鈍いそれの痛みを自覚することまではできなかった。

 (だめだ、このままじゃ……なんとかしなくちゃ)

 「れ、レト……! レトっ、大丈、夫?」
 「……」
 「レト……っ!?」
 「……大丈夫だ。心配すんな」
 「……」
 「くそっ……力が入らねえ。すげえ握力だな」
 「――……レト、」
 「ロク、力を貸せ」

 掴まれた泥の掌に血液が伝う。泥水と同化して、レトの身から泥を介して血が滴り落ちた。
 しかしレトの瞳からは、その闘志に滲んだ金色が落ちていない。

 「お前としかできないことだ」
 「え?」
 「――――開くぞ、“両次元の扉”」