コメディ・ライト小説(新)
- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.40 )
- 日時: 2017/10/29 18:42
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: JZOkdH3f)
第335次元 創造の化身Ⅲ
「開くぞ、両次元の扉」
義兄妹は、お互いの元力量をおおよそ把握している。これまでの消費具合から、両者とも余裕の色を失ってきていることが容易に推察できる。いまはより慎重を期すべきだと、レトヴェールの発信した案はそう告げているのだ。
「で、も……っ、待って! レト、それじゃあレトの負担が大きすぎるよ! 元力量はあたしの方が……!」
「だから言ってるんだ」
「……え……?」
「お前は言ったよな。手足のように使え、って。だったら従ってくれ」
「……」
「俺に託してくれ、頼むから。――俺もお前と同じだ。守るためにここにいる」
全人類の命を失うか、人類から最大の脅威を取り払えるか。二つに一つ。英雄の背に託された命の重みを、彼は片時も忘れてはいない。
肋骨が砕け散ろうが身を滅ぼそうが、僅かな元力を削ろうが、レトにとっては些細な問題だ。
代表として、最大の敵を討つために、壊れた脚で走ろうと告げるのだ。
「……レト、変わったね」
「は?」
「無鉄砲になった」
「あー。お前に似たのかもな」
「ははっ。それはひどいや」
「力を貸してくれるな?」
「――いいよ。でもあとであたしの言うことも聞いてよ?」
「ああ」
手を伸ばしても触れ合える距離ではなかった。しかし、掌と掌の隙間には温度が流れていた。
電流が奔る。神より授かった力が交差する。お互いの心音と心音とが、重なり合ったそのとき。
二つの歯車が動き出す。
「「両次元の扉――――発動!!」」
二つの扉は解き放たれる。交えた道の先に――新たな世界を生んだ。
「「――――雷斬!!」」
――途端。巨大な泥の拳から眩い光が漏れる。レトの両腕に雷が奔ったかと思うと、彼は両の手に双剣を握りしめ、元魔の手首らしき部分の上に佇んでいた。両次元の発動による衝撃で、元魔の手は砕け散ってしまったらしい。
レトはその場から飛び出すと、元魔の巨腕をぐんぐん駆け上っていく。
(! レト、脚……っ、――そうか。あたしの雷皇の力で、無理やり動かしてるんだ)
レトは両脚を突き動かし、雷を纏う剣を振るう。元魔が狼狽えていると、彼はあっという間に元魔の肩にまで到達してしまった。
天を仰ぐと、額の上で赤い心臓が息衝いていた。
マントを翻し、ゴッドは音も立てずに颯爽と君臨した。
「作品を壊されてはたまったものじゃない」
「どけよ、邪魔だ!」
剣を振り下ろすと、雷が唸った。しかし、神の身を引き裂かんとしたそれの一太刀は、寸前でなにかに阻まれる。
「……!」
それは、鉄の剣だった。砂鉄を固めて創造した剣。ただの小さな刃物だったときとは大きさも硬度も格別だった。漆黒の刃が、雷の剣と鬩ぎ合う。
「ッ……は!!」
ふっと力を抜くと、鉄の刃が揺らいだ。その一瞬の隙に一陣薙ぐ。風を切るのに紛れて血が舞うと、レトは間髪入れずに左の手でもう一太刀振るった。
ゴッドは半歩引く。間もなく上から振り下ろされた剣を、鉄の剣で庇う。
「――全知全能、か」
「……」
「そんな拙い剣筋でよく言えたもんだ――本物の剣の振り方、教えてやるよ!!」
ゴッドが身を引くと、浮いた双剣の力を横へ払う。元魔の肩の上を駆け、ふたたび彼に斬りかかった。
剣先は恐れを知らず猛威となって振るわれる。両の手の内で操られる双剣はもはや身体の一部と化し、素手素足で舞い踊っているかのような剣筋が、神を襲う。
一つ薙げば、もう一つがすでに振るわれている。ゴッドは元いた位置から、やや後方に下がりつつあった。
(この男、身体は限界を迎えているはずだ……――死が、終焉が、怖くはないのか)
元魔によって踏み潰された下半身が、両脚が、ロクの次元の力『雷皇』を手綱に動いている。電流を利用し、脚の感覚を麻痺させているのだ。それをゴッドは一目見ただけで理解した。
元力が底を尽かんとしている。肋骨の痛みはどこへいった。二度と立てぬ身体を苛みながら、その切っ先が一瞬も躊躇しないことに、神族のブレインである彼の思考にエラーが走った。
その眼が、金の瞬きが、天上で輝く月をも凌ぐと――彼の核は逆撫でされたように錯覚を覚えた。
「――ッ、見るな!!」
「!?」
暗闇から零れた水が――大きな結晶と化した。
「ぐあァッ!」
鋭利な部分がレトの腹部を貫くと、彼の身体は大きく傾いた。突き刺された箇所に熱が奔るも、独特の冷気がそこに交じる。
垣間見えたゴッドの口から、執拗に息が漏れていた。
「……っ! ――雷真斬!!」
その肢体が倒れる、直前。ぐっと後ろへ追いやっていた左の腕を大きく回した。弧を描くと、それに雷が伴いゴッドが咄嗟に振り上げた鉄の剣と衝突する。体勢を崩す両者はそのまま身体を傾かせ、――転落する。
標高にして1000mを悠に超えるその体長から、小さな身体が二つ投げ出された。地面へと真っ逆さまなレトは双剣を両手にしたまま、同じ境遇に立つゴッドの胸倉を掴み上げる。
「ッ……君は、実に執念深い男だな」
「怪物の相手するより、てめえの心臓斬り崩したほうが早いからな」
「利口な選択だ。――だが、義妹を置いてきたのは誤算だったね」
レトの顔を横切り、ゴッドは腕を伸ばす。元魔の頭部に向けて掲げられた指先が、巨大な人形へ命令を下す。
人形の巨腕が動き出した、その途端。
――猛々しい轟音が、二人の耳を劈いた。
「ああ。義妹を置いてきたのは誤算だったな、ゴッド」
闇夜に灯る光。小さな英雄は駆けだしていた。ぐんぐん速度を上げながら、その四肢に雷を纏う彼女は。
――心臓の、仄かな灯に、拳を振り上げていたのだ。
「――ッ!?」
「いけ――――ロク!!」
まるで大輪の花火だ。拳に籠めた雷光が暗夜を照らし――ロクアンズは、心の臓を討つ。
「――――はあッ!!」
小さな拳と広大な額とが激突する、と――――エルフヴィアの大地が、流る空気一帯が、震動した。
元魔の頭部は後方へ弾け飛び、瞬間、天上を貫くほどの巨体を誇るその身が、大きく反れた。
遥かに広がる地上に堕ちてくるかと危険を匂わせたが、核が壊されると元魔は重力に身を任せながらだんだんと風に紛れ、巨大な砂嵐となって大地の鎧を失っていく。
その一部始終を、作品の死んでいく様を、ゴッドはレトとともに眺めていた。
「っ……――両次元の発動中に、魔法型が次元技を使うだと……!?」
「両次元の発動中、力を貸す魔法型次元師の方は元力の所有権が武器型の人間に移行するため元力を消費できない。故に、次元技の発動が不可能となる。――だが、例外が存在する」
「例外……だと」
「それが、“十大魔次元師”による――“魔装”と呼ばれる次元技だ。この次元技は発動する際に元力を一切消費しない唯一の次元技。両次元の発動中でも、次元技の発動権を有する技なんだよ」
初めは手足の先だった。そこから身体の中心部に向けて身体がなくなっていく。砂となって大地に還っていく。
「――ああ、そうかい。それはおめでたいね。しかし君も頭が悪い。わざわざ元力量の多いフェリーにその役を担わせ、自分は少ない元力で僕の命を狙ってきたのか?」
「そうだ」
「ならば役割は逆の方がいい。人族の代表も、大したことないな」
「ああ。だから、役割は逆にしたんだよ」
残り僅かの距離。地表に迫る身体。このまま墜落すれば、人間の肢体など粉々に散ってしまう。しかしレトは悠長にも、口元を緩ませた。
すると、レトの身体は不自然に――浮遊した。
「――――残り少ない元力すべてを、懸けるためにな!!」
双剣を振り翳すレトに、ゴッドは息吐く暇も与えず指先に、元力を滾らせた。
「――堕ちろ!!」
レトの頭上で氷結音が唸ると、槍のように鋭利な雨が牙を剥いた。
降り注がんとレトへ向けて放たれた、――そのとき。
炎熱を帯びた一矢が、宵闇を駆ける。
「「――――螺炎閃!!!!」」
炎と弓。熱血と冷徹。極端に違う彼らが紡ぐ次元の糸が、創造の力を撃ち溶かした。
次いで、遥か頭上。
――雷をその手に、ロクは銃口を向けていた。
「第九次元発動――!!」
「――ッ!?」
「――――雷神砲!!」
――――神の胸元を、撃ち破る。
円に繰り抜かれた心部に目を奪われていると。
人類代表の次元師が、神より天高く、その手に双剣を携えていた。
「第九次元発動――――」
血管に流れる血液と元力とを練り上げる。搔き集めた必死の原動力が、双剣に注がれていく。
重ねたそれらは、天を仰いだ。
「――――堕陣必悪撃ィ!!」
神を道連れに彼らは地上に墜落した。――瞬間、元魔の身体だったものの煙が厚く立ち籠り、辺り一帯は激しい嵐に見舞われる。
はっきりとした姿は確認できないが、力の余波に後ずさるキールアは一人だけ目を閉ざすことなく、不安げに砂煙の向こう側を見つめていた。