コメディ・ライト小説(新)
- Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.44 )
- 日時: 2017/11/06 14:27
- 名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: s26dq553)
第339次元 騎士在りて王なり
エルフヴィアの荒れ果てた大地に、突如、大きな震動が齎された。それがたった一本の細い槍によって災いしたと、この瞬間にはだれも信じることができなかった。
銀槍の石突は、大地からまっすぐ天を仰いでいる。親友のそれを両の手で握るロクアンズは、地上に降り立っていた。
「――……百槍……」
「どう、なってんだ……!? ロクのやつ、さっきは炎皇も使ってたぜ!?」
――大剣の矛先は鉄の刃を弾き、轟雷がその塊と氷の結晶そして土の大蛇を撃ち壊し、絶えず襲い掛かってくる鉄の塊を焼いたのは超高熱を誇る獄炎であり、立ちはだかる大蛇の身を、光の矢が難なく貫いた。
黄金色に光瞬くと、“それ”は姿を変え、術を変える。
少女が胸に願うと、“それら”は彼女の矛となり、盾となるのだ。
「“元王”は、百あるすべての次元の力を開放し、新しい武器になるんじゃなくて……――百あるすべての次元の力を開放し、次元を繋げる。そういう次元の力なんだ」
「それじゃあよレト! いまのロクには、――俺たちの次元の力ぜんぶ使えるってことか!?」
「……そういうことになるな」
閑静な大地に還る。暇なく放たれていた創造の使者たちは、倒れ伏す主を見つめていた。
黒髪が大きく靡くと、その姿がロクの視界から外れる。顔を上げれば、彼のコートの右側が強くはためいていた。
突き刺したそれから穂先を抜くと、縦に長い肉塊は散ることなく赤い海に沈んでいった。
「……ッ」
「強いでしょ、この槍。百槍っていうんだけど、親友のものなんだ」
「……」
「炎皇も、光節も百槍も。あたしの大好きな仲間たちの武器で、力なんだ。千年前、あなたたちに抗おうとした、英雄の器」
「黙れ」
「ちゃんと繋がってるんだ。今も昔も。これは、そういう魂を象にするための力!」
神に抗うためにと、マザーは人間に『次元の力』というものを与えた。それは百の扉であり、マザーの創った次元の扉を開かせるために、“元力”と呼ばれる鍵をも渡した。
そしてその鍵は、二つ三つと同時に開き、扉の向こうにある力を繋げることができる。
人間の心が繋がれば繋がるほど、マザーの創った広い世界を見ることができるのだ。
そして、百あるすべての扉を繋げたそのとき。
唯一絶対の創造神である【MOTHER】の力そのもので、神を討つ器を手に入れる。
神の子が堕ちようと尚愛し、人間を守りたいマザーが人間に与えた使命と、背負った罪の器だった。
「人間の心が、百人の心が繋がるということは、ほぼ不可能に近い。生まれた国も育った街も環境も、覚えた言葉もバラバラな次元師たちの心を一つにしなければならなかった。……――そのために、心の神様が必要だった」
百人の人間の心を重ねるのではなく――【心情】によって前を向かせ、【心情】によってお互いの心を近づかせ、【心情】によって、その心の隙間を埋める。
それが【心情】を司る、妖精の歌声に秘めた――――“母の祈り”。
「……勝手な思考だ。やつもあの女も。母だ愛だと抜かしながら、結局は犯した罪を僕らに償わせるという話だろう。涙が出るね。くだらなすぎる」
「人と神とが手を取り合えたらいいって、その願いがなんでわからないの?」
「自己満足のために、僕らを利用するのか? ――反吐が出る! 手を取り合うのに、どうしてその手に武器を握らせる? 神を討つ力だと? 殺し合いが、やつの愛情表現なのか?」
「あなたが初めに武器を取った! マザーは言ったよ。暴走した我が子を止めてくれって。殺してなんて言ってない!」
「いっそ殺せばよかったと言ったはずだ! 愛など芽生える前にな!!」
「――それが無理だから言ってるんだよ! 愛がどうのじゃない! あたしとあなたは……人間から生まれた。だからマザーの創る人格設定になってないんだ! シエラ・エポールという、この世にたった一人の人間だから!」
「ちがう……ッ人間じゃない! 僕も君も!!」
「あなたを殺してしまえば、“あなた”という人格は二度と生まれてこない。完全なマザーの子ではないから! そうしたらなんの意味もない!!」
「そうだな! きっと清く正しい心を持った神が生まれるだろう! それのなにが気に障る!?」
「そうしたら――――あなたの産まれた、意味がない」
この世に命を受けた、破壊神のもう一つの名は――シエラ・エポール。千年前にその名を授かった彼の身分は、思慮せずとも容易に想像できた。
「――――メルギース国の王子として産まれた、あなたの意味が」
「黙れ!! ……産まれた意味などなかった。初めから! 棄てられ、恐れられ、拒まれ続けた! だから壊すしかなかった! それが僕にある唯一の力だった!!」
大人しかった大地に突如、亀裂が走った。激しく枝分かれする地面の上で、人間たちは体勢を崩し、悲鳴を上げる。
土を呑みこみ、渦巻き、空気中にあるすべての要素を、大地に蔓延るすべての要素を――吸収し、それらは何度でも胎動する。
幾十幾百にも、ゴッドという王を守るように大地の兵士たちが軍を成した。その手に鉄の剣を握り、身体の至る箇所から氷の刃が剥き出しになっている。
「そうやって、言葉が通じないのだから――拳で語り合うしかないでしょうが!!」
創造を前にして、人間に与えた力は高揚する。黄金の大剣は宙に融けだし、浮かぶ。
それは風に交じると――――大気の流れを、捻じ曲げた。
「風撃ィ――ッ!!」
先陣を切っていた兵士たちが台風に呑まれる。宙に舞い、跳び上がり、ぐしゃりと地面に身体を叩きつける。要素たちが分解されようとしたそのとき、破壊神の【創造】が、それを許さなかった。
息つく間もなく、兵士たちは命を吹き返す。
「手を取り合う気がないのは、君ら人間側の方だろう!」
「あなたが拳を振り上げるから! それを止めるために、抗うために力を振るうの!」
暴走する台風の傍らで、ロクの掌が発光する。その手に握られた――銀の鎖が、大空を覆った。
11歳だった自分と義兄の面倒を同時に見てくれていた。何度も見上げた、蛇梅隊戦闘部班副班長の広い背中を思い出す。
鎖は兵士たちの配置の隙間を縫い、一繋ぎにしてしまうと――捕縛された者たちへ、一斉に断罪を下す。
「初めは僕じゃないと言っている! 人間だ!」
「人間を守るために生まれてきたんでしょう!」
移らう色彩が、銀を経て金を介し、そうして独特な木目へと辿り着く。しっかりした枝の先に飴を模した水晶を飾るそれが、桃色の髪をした、一国の王女とは思えないあどけなさを物語る。
念力によって兵士たちの視線が持ち上がる。もっとも目など持たないガラクタたちだが、目のような土の窪みがロクを見下ろしていた。
ロクはすでに、その手元に王女を支えるべく二本の蒼い銃を携えて、――引き金を引いていた。
「それが勝手な思考だとも言ったはずだ! なぜやつの意を継がねばならない!!」
弾丸が空を突き抜ける。一発も狂うことなく、弾の放たれた数だけ土人形が地上を目指し降ってくる。
「継ぐんじゃない! なんで理解しようと努力もしないで、拒むばっかりなの! ――それじゃあまるで、駄々をこねてるだけの小さな子どもだ!!」
土の塊が降る景気に、ロクは駆けた。両の手は光り輝き、兵の群れる中へ飛びこむと。
時刻は正午ではないが、無数の剣を翳すとここは処刑場となる。幾千本の刃が、兵士たちを通しその創造主へと罪を問うように――刺殺刑に処せと命を遂行する。
「――子ども、だと」
大水は主の意図によって氾濫する。この地に眠る嘗ての国民が亡き命のまま嘆き、強化された肉体が一騎当千を叶える。配置した火薬の塊が爆裂音を招き、兵士たちの血肉が地に伏した。
あるときは鋭い刃先で身を捌き、またあるときは自然物が厄災を呼び起こし、あるときは命ある生物たちが主を変えようとも忠誠心を損なわず。――次元の力は戦場に溢れ返る。一つも欠けることなく、妖精は歌い続ける。
「はっきり言わねば、わからないかフェリー」
嘗て国の王となるはずだった彼は、失った右腕の代わりに左の拳を震わせた。
「僕は、“母”と呼ばれる生き物が――――浮世で最も嫌いだッ!!」
舞い踊っていた歌姫の足元が、疼きだす。剣を振り上げたそのとき、ロクは顎に鈍い衝撃を受け、細い四肢が宙に投げ出された。大地から柱が伸びていた。
平らな地面を転がると、頬の内側が鉄の味で満たされる。左の肩から脇腹にかけて斬り裂かれた大きな傷跡は、まだ、癒えていない。患部からも血が滴り落ちる。
「母などいない――――千年前からずっと! 家族など、いないんだ!!」
妖精の、赤い赤い、人間によく似た液体が。色を散らすと凝固した。
――美しいそれは檻となって、妖精を、深紅の世界に閉じ込める。