コメディ・ライト小説(新)

Re: 最強次元師!!【最終章】※2スレ目 ( No.49 )
日時: 2017/11/13 23:53
名前: 瑚雲 ◆6leuycUnLw (ID: Fa1GbuJU)
参照: ※エピローグに続きます。

 
 
 第344次元(最終)  雪の降る朝

 
 
 胴と頭部を取りつけた神の心臓が、どこかで息を潜めている。なにをするでもなく彼は日の出を待ち焦がれている。

 「来たね、フェリー」
 「……」
 「じきに、雨が降るよ。傘を用意した方がいい。といってもこの星にある物理的質量ではしのげないほどの、強い雨だ」
 「あたしが、ひとつぶも残さずに吹き飛ばしたら?」
 「笑止」

 丹田の代わりに胸部が踊った。胸から下のない胴の斬り口から気味の悪いものを吐き出していた。

 「君は、僕に抗えるほど力が残っているのか?」
 「……」
 「なにを思い立ったのかは知らないが、こんな姿になっても計算くらいはできる。いままでの君の行動すべてから推測できるのさ。元力に、余裕があるかどうかくらいはね。手足を壊される程度、何の障害でもない。その証拠にほら、もう、すぐそこだ」

 ゴッドの視線の先には、濁った白い空が広がっている。同じように仰げば、そこに粒のようななにかが点在していると理解できる。それらは少しずつ、少しずつ――輪郭を明確にしていく。拡大していく。
 進路に狂いもなく真っ逆さまに、砕け散った星の欠片たちが――――迫り来る。



 「あなたに虚勢を張っても無駄だね」
 「ようやく、諦め方を覚えたのかい」
 「いいや」



 ロクは鼻を鳴らした。



 「まだ、使ってないんだよ」
 「は」
 「こっちの力」





 ――――――ロクアンズは、右眼を開く。





 「ッ!? ――――まさか!!」

 「次元の扉、発動――――」


 ――――赤い眼。
 そこに刻まれた月、星、太陽。空にあるすべてがゴッドの視界に翳りを差す。
 次の瞬間。


 「――――――雷皇!! 風皇!!!!」


 鈍い衝撃が内側に喰いこんだときには、ゴッドは地上からいなくなっていた。


 「――――ッぐはァ!!?」


 酷い眩暈、眩暈。浮遊感、浮遊感、浮遊感――――地上が遠ざかる。破裂したはずの胃袋が機能したのか、胃酸が管の中を激しく上り下りするかのような感覚に襲われる。全神経が引き千切れそうになる。
 弾丸の如く蹴り飛ばされた部分から電流が捻じ込まれていた。神経という神経に伝うと、ゴッドの脳波と衝突した。

 「……――!!」
 「空気抵抗の破壊。重力の一時的破壊。酸素の破壊。左脳の一部破損を促し、思考・理解・構築力の低下」
 「あ……ッ、ぐ、ぅ……うっ!」
 「あなたの身体が人間と同じでよかった」

 速度を増していく。宇宙へ向けて、落下する。空に浮かんでいた、ただの点だったものたちは無遠慮にも主へと牙を剥けた。意思のないそれらは容赦なく地上を目指す。


 「こ……な、ぉと……意味、な! ――はっはッ、ぁっは!」


 そのとき。
 雲を突き抜けていく――――ロクとゴッドの身体を、ついに宇宙の使者たちが横切った。

 第一陣の大軍が急降下する。二陣め、三陣めの使者たちが次々と攻め入ってくる。


 ――――次の瞬間。



 「お願い――――――お義父さん!!!!」



 彼は、名を呼ばれると明らかにする。――ああ、と小さく零したそれをキールアは聞き取れなかった。
 息子の首元を掴み上げたその手で、唱える。



 「――――――、第十二次元発動」



 この世で最も早く前人未踏を叶えたのは、彼だ。



 「絶絶ノ――――――――禁忌・異鎧閣」


 
 エルフヴィアの、――――そして隣国も王国も大国も、祖国のメルギース、ドルギース、すべてを繋ぐ。
 
 大空。

 地球の裏側に至るまで――――大気圏を"封鎖"する。目に視えない『絶壁』が、青の球体を覆う。



 「もうなにも地上には落ちない――!!」

 「ッ、ぁ――――!?」
 
 「両次元の扉、発動――――――、"風雷皇ふうらいこう"!!」



 人間として手にした力。神として授かった力。
 相反するはずのそれらが――――、手を取り合った。



 「――――――第二覚醒!!」



 彼女の描いた最高傑作。
 息衝く間もなく鍵をこじ開け、扉の奥へ。無限大のそらへ往く。



 「――――――"天神皇てんじんこう"!!!!」



 ――――轟雷と暴風を従え、ロクアンズは猛々しく宇宙そらへ哭いた。




 「これで終焉さいごだ――――【GOD】!!!!」


 「ぁ……ッああアっあ、――――――ッくそおおお【FERRY】いいいい!!!!」



 






 「――――――――ロク!!!!」



 心音が聴こえる。
 心地よくて、よく知っていて、――――大好きな彼の声がした。



 「ロク、俺は、お前と」
 

 《――ねえ。お兄ちゃん。聴いて》



 どこからともなく詩が聴こえてくる。
 心弾むような、よく知っていて、――――大好きな彼女の声がする。



 《あたしたちはまた逢えるよ》

 「また……逢える?」

 《だってそうでしょ? ねえ覚えてる?》

 「なにを」

 《――千年前にもあたしたち、運命的な出会いをした》

 「……」

 《王子と神様だった。……結ばれなかった。でも、こうして、また逢えた》

 「……運命的、か。皮肉なもんだな」

 《また運命を背負い生まれて》

 「また運命に抗えばいい」

 《……だからきっと、大丈夫!》



 不思議だ。
 彼女が「大丈夫」と詠うのだから、きっと、大丈夫。





 「――――――またね、レト。今度は」










 壁の向こう。天空を覆い尽くす惑星の欠片たちが、ずっと壁の向こうで――――激しい衝撃を繰り広げた。
 空と衝突する。壁を隔てて浮かぶ雲に隠れていたのに、視界を焼くような壮絶な光の塊が、太陽の光をも喰らい潰した。
 このとき。だれもが目を閉じた。エルフヴィアの大地が、太古の砂や塔が、その余波に呑まれていく。



 「……――」



 永久のようにも、錯覚した。瞼から熱が引かない。
 輝かしい光に包まれ、次第に、――――それは、あたたかくなっていった。


 「……え……」
 「……こ、れ……」
 「――――ゆ……雪……?」


 肌に触れると、じんわりと溶けた。仰げばそれらは視界に飛びこんでくる。

 蕭々と降り注ぐのは、雨ではなく、雪だったのだ。


 レトヴェールの背中から、ざっと砂を蹴る音がした。


 「……レト……」
 「……」
 「これ……もしかして、ろ、ロクが……――っ」


 滴に雪が交じると、それが頬をすべった。顎のあたりからぽたぽたと、雨が落ちる。キールアの金の瞳が揺らいでいた。


 「ほんと、に……っ本当に、ロク、ねえレト! ロクは、ロクには……っ――もう、会えないの……!?」


 キールアは膝から崩れ落ちた。言葉にならない叫びが、悲涙が、地面を叩く。雨は止まない。
 空から降り注ぐ雪が、あまりにも温かくて、――親友の、無邪気な笑顔を思い出してしまう。

 号哭が、空へ捧ぐ。彼女の姿はどこにもなくて、彼女の声はどこからも聴こえなくて。彼女を想う人間たちは謳う。空の彼方へ、届け届けと。初めて、神様に祈りを捧げた。愛しい神様の名を呼んだ。


 「いやだよ、レト! 私ロクに、なにっも、ぁにもわたし……っ!」
 「キールア」
 「……え?」
 「ロクに、まだ言ってないことがあるだろ」


 レトは顔を上げる。金色の瞳はしっかりとキールアを見据えていた。
 耳元に手を当てると、通信機にスイッチを入れた。



 レトは立ち上がる。脚は震えても、足は揺らがぬように。
 果てしない青空を仰ぐ。



 「ロクアンズ――――――――!!」



 ――――届け。ノイズの先へ。同志の心を焚きつけるように。
 彼女のいるところまで、聴こえるように。



 「――――――――誕生日、おめでとう!!!!」



 キールアの頬に、一筋の涙が伝った。
 響け、響け。届け。どうか。神様へ祈りが届けばいい。
 人間たちはみな、天へ哭いた。




 「っ……おめで、っと――――誕生日、おめでとうロク……っ!」




 ――――生まれてきてくれてありがとうと、伝えたくて。

 彼女がしてくれたように、そう、声に想いをかけた。










 1022年12月25日。
 十年前のこの日も、おなじような雪景色だった。

 レイチェル村に訪れた――――優しい雪の名を。
 覚えているだろうか。


 その名はロクアンズ・エポール。


 人間を愛し愛された、この世でただ一人の神様であり。
 ――――――最愛の妹の名前。








 メルギース歴1032年12月25日。本日未明。
 第二次神人世界大戦は、人類側が勝鬨を上げ、終戦を迎えた。