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コメディ・ライト小説(新)
- Re: 初恋デッドライン ( No.1 )
- 日時: 2021/03/22 03:05
- 名前: わらび餅 (ID: DIefjyru)
それは、彼女が世界で一番好きな音だった。
空気を、鼓膜を、心を。彼女の全てを震わせたその音は今、夕暮れで赤く染まった教室を震わせていた。
観客は二人。何も言わず、ただその音に耳を傾けている。一人は音を発している張本人の目の前で、椅子に跨りながら。もう一人__彼女は、教室の外、ドアを背に。
(ああ、終わっちゃう......)
まるでこの世の終わりのように、その顔を絶望に染めた。そんな彼女を無情にも置いて、音は幕を閉じた。ぱち、ぱち。やる気のない乾いた拍手が響く。
「......まあ、いいんじゃねーの」
「ぱっとしない感想をどうも。お前のために歌ってやったのに。俺は悲しいよ」
「はぁ? お前が練習したいっつーからつきあってやったんだろうが!」
聞こえてきた会話に、思わず拳をぎゅっと握る。
(ああもう......たえきれない!)
意を決してぐるりと後ろを振り向き、そのままの勢いでドアに手をかけた。
そして__
「たのもーーーーーっ!」
スパァァンッ!、と、音を立てながらそれを開いた。大声で叫びながら。
「田中くん!」
音を発していた張本人__田中と呼ばれた黒髪の少年は、机の上に腰を下ろしていた。そんな彼は、突然入ってきた彼女にぎょっとしたような顔を向けた。
「......俺?」
彼女は肩を上下に揺らし、ぜーはーと息を切らしながら、実に美しく斜め四十五度に腰を曲げた。
「好きです! 私とお友達になってくれませんか!」
「......は?」
これが、彼らのはじまり。
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