コメディ・ライト小説(新)
- 序章 ( No.4 )
- 日時: 2016/11/17 01:33
- 名前: だらく ◆nI0A1IA1oU (ID: 1CRawldg)
.
月明かりがない森は夜目の利かない生き物には真っ暗でしかないが、雪と云う白い絨毯 が真っ暗な獣道を微かに明るくさせる。それだけで、少女にとっては冥界と同じような薄暗いだけの森になり、安心して動物を捜せる環境になっていた
尤も冥界で雪が降ったら大事になっしまうほどに降らない。そのため、本でしか見た事がなく実際に見るのは初めてだった少女は森に入ったことで余裕が生まれたのか、少し拓けた場所で歩みを止め、改めて雪で積もっている地面をまじまじと見て僅かに口を開き
「おぉ」
"わぁ"でも"うわぁ"でもなく嬉しいや驚き、感動も不思議ですら、似たような感じになっているのを少女は知る余地もなく、今のもその中の一つで感動する時の無意識に零れるため息にも似た感嘆の声を発して、何処となく目をキラキラと輝かせて、嬉しそうに薄く笑みを浮かべていた
森の中には見る限りでは少女しか居なく人の気配もないが、眠りについている静かな森と云う事が少女にとって何よりも声を抑える理由になり、控えめに約3分間積もった雪を見たり、後ろを何度も振り返り自分がつけた足跡を見ては何処か楽しそうに薄笑いをして未だに降り続けている雪をほーっと興味深く眺めてから小さなガッツポーズをして
「よしっ」
満足したのかのように小さくそう呟いたのを最後にやっと少女はきょろきょろと辺りを見回し捜すのを再開すると、契約印の準備も時折手元を見ながら進めていく
少女が契約印を準備している最中、勢いよく森の中を走り回る一羽の兎が居た
木々を巧みに掻き分けて、雪の上を死に物狂いで何かから逃げるようにその兎はジグザグに止まることをせずに追い掛けてくる何かが追うことを諦めてくれるまで走り続ける、それはもう命懸けで
ーー兎を追う何かは......梟だ
兎は梟に餌としてかは分からないが執拗に追い掛けれていたのだ
白兎ならば、雪に紛れてやり過ごすことも出来たが......あろうことか、この兎は黒兎。例え今が黒兎にとって他の動物よりも狙われにくくなる夜だとしても......この雪で真っ白な地面ではかえって目立つ、目立つ
(何で、追われなきゃならねえんだっ!オレは物っ凄く不味いんだっ!理由を言え、今すぐにっ!)
自分のことを、自分で不味いなんて台詞を何故言わなきゃいけないと内心では物凄く不服そうにするも、喰われるのは御免だと走りながら背後、上空に居る梟を顧みて
この言葉を何度この梟に言ったのか分からないがいい加減にしてくれと訴えるような眼差しを送りつつ、黒兎は梟に意を決して目を合わせる
- 序章 ( No.5 )
- 日時: 2016/11/14 02:28
- 名前: だらく ◆nI0A1IA1oU (ID: 1CRawldg)
.
(ムフッ....ンフフフー らんららーららーらっ)
目を合わせた瞬間に、黒兎に対して今にもハートが飛んで来そうな...いや、ガチでハートが飛んでいるウィンクをして、空を裂くように音もなく優雅に羽ばたいて飛んでいた梟は黒兎の背後にある木の枝に止まると追われていた時も同じように鼻歌を歌っていたが黒兎の必死な訴えを余所に上機嫌で今度は口ずさみ始める
ハートが付きとも云えるウィンクを梟と対峙するように向き合っていた黒兎は前足でハートを律儀にすぱっと叩き落とし、歌を口ずさむ梟を言い寄れぬ苛立ちが募り
(だーかーらっ、オレの話を聞けって!それはわざとか!いい加減にしろよ、てめえ!)
すくっと四足歩行から二足歩行になり、前足でびしっと梟を差しながら、囀ずりをかき消すように声を荒上げる
立ち止まっても喰われない、襲って来ないのが分かったのは良いとして問題なのは何故追い掛けてきたのかだった
餌としてならまだ百歩譲って追い掛けてきた理由は分かるがと内心で呟きつつもキツく睨みを利かせて見上げるが慣れぬ姿勢のため首が痛くなってきたのか時折"降りてこいっ"と梟に言い始めていると
(あらあらまあまあ、無理しなくても良いのよ...野うさぎちゃん?)
必死になっちゃってやねー、まあそこも可愛いのだけどと付け足して、口ずさむのを止めると羽音もなく黒兎が言った通りにすんなりと地上へ降り立った梟だったが、直に来る雪の冷たさに足が冷えちゃうじゃないのよと自分の額を左翼の先で触って不服そうに顔を歪めるものの
黒兎に目を向けるとさっきとはうって変わって左翼を口元へ持って来るとムフッと怪しく笑みを薄く浮かべた後に、勿体振るような閉口を繰り返してから口を再び開いて
(で、野うさぎちゃんが聞きたいのは追い掛けた理由だったかしら そんなの決まってるじゃないのよ、アタイの家で春まで休みなさい?って話よ それなのにあんたって子は本気で逃げるからついつい、楽しくてねえ?)
ねっとりと絡みつくような口調で女性を意識しているのかやや高めの声音で楽しそうに理由を言うと口許を吊り上げてムフフッと怪しく笑うのは女ではなくれっきとした男で人びとが謂う梟と云う奴だ
そんな彼の種類は樺太梟白に黒い斑模様がある体に、黄色に真ん中が黒の鋭い目付きをしカッコ良くも美しい外見からは想像もつかないおネエ口調で話す
そして、その梟に追い掛けられていた黒兎はミニレッキスという種類で、毛並みは黒に近い灰色をし琥珀色の猫目、見た目だけは非常に愛くるしいと云えるほど可愛い姿しているが、聞いて分かる通り口が悪く口調はまさに男そのもので性別も男だ
本来ならば喰われる側、喰う側の関係で喰う以外に追い掛け回す理由は何処にもないはずが、そんな常識を覆す理由と追い回した経緯に黒兎は口を開けたまま絶句し何とも言い難い感情にわなわなと体を震わせ、どう対処すれば良いか分からず、ただただ閉口を数回繰り返して
(うがあああっ)
言葉にし難い声を意味もなく発すると梟を見ては項垂れるように頭を下げ、前足で頭を抱えるように毛繕いを何度も何度も繰り返してやっとのことで状況を飲み込ーー....、...まなかったようで
(は...ははっ、まあちょっとその...無理だ オレは安全で快適な住み家を嗚呼、そうだ!喰われる心配がねえ安心出来る区域を探す旅をしているんだ、オレは!だから、今物凄く急がしくてよ、実は!一秒さえも惜しいぐらいに!ほら、雪もまだ降ってるし!という訳でアディオス!)
最早笑うしかない状態の黒兎は全てを聞き流すようにひたすら乾いた笑みを張り付けて混乱しているせいか、そんな理由を自分に言い聞かせる口振りでつらつらと言い、右前足を高く上げてんじゃと云うような仕草をした後、くるりと梟から背を向けると逸早く離れるため跳躍し喰われる以外の恐怖対象になった梟から脱兎の如く逃げ出した
- 序章 ( No.6 )
- 日時: 2016/11/23 05:52
- 名前: だらく ◆nI0A1IA1oU (ID: 1CRawldg)
.
あの梟を上手く撒いて着いた先には森の真ん中に位置する泉。今は雪に隠れていて初めて訪れた人ならば見ただけでは分からないが黒兎は野生化して2年は過ぎていたため、この森のことは今頃冬眠している動物よりも熟知している
泉の傍らでふううっと大袈裟に息を吐き、泉へと向かい泉の上になる寸前で歩みを止めて、前足で泉は状態を確かめてから乗って、真ん中に来ると散々走り回って疲れきった体をべたりとつけて
(はああっ、生き返る......このまま寝ちまっても.......、..ん?)
雪の冷たさと冷気が丁度良くまるで至福の一時と云うような恍惚な表情をして心のままに言いながら不意に前を見れば、近くの地面が光っているのが視界に入り、一瞬にして現実に戻されたような心境になり雪からがばっと体を放す。死ぬ間際に見るっていう走馬灯じゃねえよなと心の中で呟き、訝しげな表情のまま正体を確かめるためにおそるおそる近づく
近づくにつれて、その光が何処と無く優しいと感じて直感で近寄るべきじゃないと判断するも、何処か惹き付ける光に引き寄せられるように歩みを進める
光に向かって進んでいる黒兎を視界に捉えた少女は近くの木でそのまま、そのままと口パクで黒兎に言う。声に出さないのは、前にあと少しの所で思わず声を上げ、その声に警戒した動物は去ってしまった苦々しい経験があり、少女自身はそんなに大きな声を出してなく小さな声だったが動物にとっては警戒する要因としては申し分もなく使い魔となりえる動物を惹き付ける光だからって必ずしもになる訳じゃないと思い知り、口には絶対に出さないで今か今かとどきどきしながらその瞬間を待っていた
あれほど輝いていた光は今は淡く踏みつければなくなりそうな儚く何処までも優しく放っている陣に間近まで来た黒兎は、四足歩行を止めて前足を地面から放し、右前足を光に向けて伸ばそうとし
(って、ちょっま?!)
酷く慌てるような声を上げるが最後まで言うことが叶わず吸い込まれるように陣の中へと引っ張られると同時に強い光に包まれて
「っーてえな......ってあ?....ん?......おかしい、オレの耳がない.....嗚呼、あったって、尖ってる?...手も何か、人っぽ......え、足も、か?それに...この毛...嘘だろ......こんな、まるで」
引き込まれた時に頭を打ったのか黒兎はんだよと機嫌悪そうに言いながら自身の右前足で頭を触れてそこで異変に気づく、兎特有の耳がついてない。その変わりとしてエルフのような耳が横について右前足を頭から放して見ると人の手、そして追い討ちをかけるように後ろ足を流れるように見れば人の足と.....それをいつものように動かしてみると、人の手、人の足になったものが動くため自分の体の一部だと嫌でも分かる
幸いなことに聖職者が着ているような黒いローブを身に纏っているが......それどころではない黒兎だった黒の長髪に琥珀色の猫目がちの瞳、至って健康的な肌の少年は頭では理解したが受け入れられずぱちぱちと瞬きをして、前足だった手をグーパーグーパーするも何故人間になってしまったのか、今度は自分の異変に混乱し叫ぼうとするも、此方に近づいてくる足音が聞こえ、ばっと音がした方に顔を向けて
「......だ」
誰だと言おうとしたが、見た瞬間に口から出して言うのを止めてしまう。いや、確かに言おうとしたと少年は内心で呟き、目を奪われたように近づいてきた者を見る
- 序章 ( No.7 )
- 日時: 2016/12/21 16:14
- 名前: だらく ◆nI0A1IA1oU (ID: 1CRawldg)
.
月の光に似た金色の肩まで長い絹のようにさらさらした髪、透き通るようなアイスブルーの瞳、身長は少年よりも低く年も同い年かまたは二つ下に見え、何処と無く儚い印象を持つロングコートをしっかり着ている少女は契約印を施し、先程黒兎を見ていた本人が目の前に居て
少女はぱっと花のような笑みを誰でもなく契約印の上に居る少年に向けて投げ掛ける。少年は見た瞬間にどきりと胸が高鳴り、笑みを投げ掛けてくるまで見ていたのにも関わらず、思いっきり顔を背け
「っ......み、見ず知らずの黒兎いや、男にそんな笑み向けんじゃねえ」
座った状態の片膝立ちから胡座になり肘をついて顎を手のひらに乗せ、もう片手は砂いじりならぬ、雪いじりをしながら何とか口に出した少年はほんのりと頬が紅くなっている
そんな少年の様子や言動よりも少女は自分に使い魔が出来る事がよっほど嬉しいらしくずんずんと近寄り、感情のままにむぎゅーーっと抱きつく
「!?」
近付かれただけでも、今の少年にとっては心臓に悪いことこの上ないが、少女が何で森に居るのか、何故自分に笑みを投げ掛けたか......そして何となく人間になってしまった原因を知ってそうだと思い、せめて少女が話すまで居てやろうと気持ちを落ち着かせている最中に無言で抱き付かれてしまったため、一気に顔が紅くなってしまったが少女、女に対して乱暴はしたくないため振り払うことも出来ずに
「......も、もしもーし?あの、あのよ!オレは......その、黒兎で男なんだ!今は何つーか......人間になって、なっちまってるけど、れっきとした兎だ!それで男女だし、ほら......オレ、お前の名前も知らね」
「ユキ」
「あ?」
「......私の名前、ユノン・キース......だからユキって呼ばれてるの、兎さんもユキって呼んで?」
「......お、おう オレはアレスだ......、...じゃねえ、いや、そうだけど! その......そろそろ離れ」
「嫌」
「へ?」
「嫌、まだ契約完了してないもの 完了するまで、離すものか...絶対」
首を左右に振り、再度黒兎だった少年アレスの言葉を遮る形で静かに鈴の音のような可愛いらしく凛とした声音ではっきりと拒否すると更にむぎゅうっと抱きつき、うりうりと甘えるように頭を背中に埋め、すりすりする
「すーりすり、兎さんのアレスにすーりすり」
「!」
「兎さーん、兎さん 黒兎のアレスにすーりすりする 契約完了待ってるの、してほしい、から」
「?!」
「兎さん、兎さん 時おりびくってなってるの 黒兎だったアレスにすーりす」
「だーーっ!もうっ、ユキ!分かったってだから、すりすりすんのも口に出して言うのも止めろ、恥ずい!第一オレが持たねえ!ケイヤクでも何でもやっから止めてくれ!頼む!」
ユキはすりすりする度に口にして次第に楽しくなったのか、僅かにトーンを上げてアレスの背中に向けて言う、その度にアレスの肩がびくりっと上下に動くのを見ては小さくくすりっと笑う
そんなユキの行動にアレスは必死に耐えていたものの、一々反応することを指摘されてかーぁぁっと湯気が出そうなほど耳まで真っ赤になり、狼狽しながらも声を上げた
その言葉を聞いてユキはちょっぴり物足りなそうにするもすりすりするのを止める。だが、アレスの投げ遣りな何でもやるという言葉はユキにとってとても嬉しいことだったため、アルスの顔を覗くようにして見るとまた花のように嬉しそうな笑みをして、嬉しさをアピールするようにぎゅっと抱きつき直すと
「何でもやる、か......嬉しい、凄く嬉しい 黒兎のアレス、ありがとう」