コメディ・ライト小説(新)

1-1 ( No.3 )
日時: 2016/11/23 16:21
名前: 森川智錦 ◆SWgybbCCyQ (ID: L7cEcAm0)

「今日は森川さんお休みと」

担任の先生が出欠席をとられている時に仰った事。それは私のお友達が休みという事でした。
つまり、森川さん以外大した友達がいない私はお昼を一人で食べなければならないのです。
けれでも私、平気です。一度屋上というところで食べてみたかったので。

という訳で今、屋上へ続くコンクリートの階段を登っています。
一番上に着き、青い塗装が剥がれた扉を開けると、そこには青く、そして雲がぽっかりと浮かんでいる空が見えました。太陽は容赦無く降り注いでいます。日焼け止めを塗りたいくらいです。
扉近くの壁は日陰だったので、そこに背中を寄せて座りました。

お弁当の中身は梅干し、ごはん、卵焼き、プチトマト、唐揚げ、金平牛蒡、ブロッコリー。いつもお手伝いさんが作って下さっています。
そんなお弁当を食べながら空を見上げていました。

「…………うぅ」

やっぱり、一人で食べるごはんは味気なくて。知り合いの方と食べても良かったかもしれません。

そんな事を考えていた時でした。
上からひょこりと頭が出てきたのは。

「きゃあああああ!ななな何ですか!?」

すぐに立って後ずさりをして、でも尻餅をついてしまって。
それくらい私は驚いたんです。

「ごめんなさい、まさか人がいるなんて思わなくって」

えへへと笑うその声の主は、肩より少し長い銀色の髪で、どこかおっとりとしたような目をしています。

「わ……私こそ失礼しました。あの、貴方は此処で?」
「君と一緒でお昼ごはん。一人だよね、一緒に食べようよ」

余りにも唐突なお誘いで受け入れざるを得ませんでした。
梯子を登り、トイレの広い個室くらいのスペースに腰を下ろしました。

そこには食べかけのメロンパンと他の昼食が入ってるであろう袋がありました。

「此処はいいよね、空気が澄んでて」
「そう、ですね……」

彼女は一体何者なのでしょうか。とりあえず、名前を聞く事にしました。

「あの、貴方のお名前は」
「私は一ノ瀬 沙紀(いちのせ さき)。沙紀でいいよ。君は?」
「私は飛鳥 怜(あすか れい)です。よろしくお願いします」

一ノ瀬さんはいい名前だね、と一言付けてメロンパンを齧りました。
私もお弁当を食べ始めます。

「あの、一ノ瀬さんはどうしてお一人で食べられているんですか?」
「うーん……怜ちゃんこそどうして?」
「私は森川さ……あ、お友達がお休みなので一人で食べに来たんです」
「そうなんだ」

グラウンドから野球部員らしい大勢の笑い声が聞こえました。
……会話が、続きません。

「ひょい」
「あっ」

一ノ瀬さんが私のお弁当から卵焼きを素手で取り出し、そのまま食べてしまいました!
……私の一番好きなおかずなのに。

「甘ーい!美味しいね、この卵焼き」

幸せそうな顔をする一ノ瀬さん。
えーと……可愛い、です。

「私が作った物ではありませんが褒めて頂いてうれ、むがっ!?」

なんと一ノ瀬さんは私が話してる途中に口にメロンパンを押し付けてきました!
……美味しい。ふわふわで、あの浮かんでいる雲みたい。

「どうかな?これ新発売なんだよ」
「とっても美味しいです」
「卵焼きには及ばないよ」

にこりと笑う一ノ瀬さんに、私は好意を持ち始めました。

それから、好きな食べ物の話、好きなお店の話、好きな歌の話等をしてのですが、私達はそれがまるっきり一緒で、運命というものを感じてしまいました。

そんな楽しい時間もあっという間に過ぎて、授業五分前のチャイムが鳴ります。

「そろそろ行かないと」

行こうとした私の制服の端を一ノ瀬さんは掴みました。

「ねぇ」

振り返ると照れくさそうな顔をした、一ノ瀬さんが。

「また明日も……ね、来てくれるかな」

希望を持った目で私をチラチラと見ています。

あの楽しい時間をもう一度。

そんな言葉が頭に浮かび、私は選択をするまでも無く。

「はい、また明日もご一緒しましょう」

私は微笑み、また一ノ瀬さんもパッと笑顔になりました。