コメディ・ライト小説(新)

Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.11 )
日時: 2017/01/15 22:00
名前: SAKUYA (ID: 5YaOdPeQ)

「おはようございます、さぐりん!」

「あ、うん。おはよ。」

朝。空は雲一つない快晴だ。まるで昨日の出来事を知らなかったかの様に。

今は朝の9時。私は、8時に家を出てきた。お母さんは、まだ寝ていた。一刻も早く、あの空間から抜け出したかった。

それから待ち合わせに指定していた公園まで足を運び、着いてからはやよいちゃんを待った。

45分も待ったからだろうか。私はベンチで眠りについていた。

「さぐりん、よだれ出てますよ〜。」

やよいちゃんのその一言で目が覚めた。

私は急いで周りを見渡したが、どうやら誰も人はいないらしい。

よだれを垂らしながら寝ている姿をやよいちゃん以外に見られたら恥ずかしい極まりない。

起きたすぐでまだ視点が安定せず見えている風景がぼやけている状態でも、やよいちゃんは可愛く見えた。

やよいちゃんの服のセンスはズバ抜けている。本当に可愛い。可愛い以外に彼女を表す言葉が無いくらいだ。

どちらかと言えば地味な格好。白色の服に黒色の上着。スカートは少し短め。普通と言えば普通だ。だが、やよいちゃんの雰囲気にとても合っている。こんなにも自分の雰囲気に合った服を着れるなんて、本当にやよいちゃんはセンスがある。

それに比べて私は、自分の雰囲気に合っていない服を着ていると思う。

普通の顔で地味なのに、服は割と派手。赤色と白色の有名ブランドの服。ひらひらとしたスカート。自分でも恥ずかしくなってくる。

じゃあ何で着ているかって?

そういう服しか家に無いんだ。

まあ、この派手な服で街を歩くのも慣れた。

とりあえず今は竜胆さん達の元へ向かおう。



今日は私とやよいちゃんと竜胆さんとその他二人で遊ぶ予定なのだ。

みんなと落ち合う予定の場所は、大型ショッピングモール『neon』。

一回やよいちゃんと遊びに行った事がある場所だ。

neonは、市内で一番大きい大型ショッピングモール。相当大きいところだ。

当然待ち合わせ場所が曖昧だと一日中会えないままバイバーイなんて事もあり得る。だから、待ち合わせ場所はもう決めてある。

neonの前にあるこれまた大型な駅、北梟駅だ。

私達は電車に乗り、北梟駅まで行く事にした。

そして今北梟駅に着いた。

やはり休日という事だけあってかなり混んでいる。neonもかなり混んでるんだろうなぁ。

「これ、その竜胆って子達と再会できるんですか?少し混みすぎていると思うんですが…。」

やよいちゃんも不安らしい。だが、大丈夫だ。

「おーーーーい、水原さーーーーん!!!!こっちだよーーーー!!!!」

あの竜胆さんの事だから原始的に自分の場所を知らせるだろうと思っていたが、思った通りだ。凄いうるさい。

私達は彼女の元へ向かった。

「おっはよ、水原さん。あと、七原さん!」

彼女は元気な声で挨拶をしてきた。聞いてるこっちも清々しくなる様な気分だ。

「あ、私の名前知ってるんですね〜。うるさいですけど。」

ちょ、やよいちゃん!それ言っちゃう?それ言っちゃう!?多分この空間内にいる人全てがそう思っているけどそれをはっきり口にして言えるのはあなただけだよやよいちゃん!

「あはは、うるさいでしょ私〜?よく言われるんだ!」

竜胆さんも竜胆さん!それで喜んじゃダメだよ。今までどんだけ言われて来たらそんな対応ができる様になっちゃうの!?ある意味尊敬しちゃうよ…。

「あ、水原さん。葉山と加納は遅れるって。だから私達で行っちゃおうよ!」

葉山と加納が遅れる。そうかそうか。どこか心の中で喜んでいる自分がいる様な気もするが多分気のせいだ。気のせいだ。

「いいよ。じゃ、行こっか。」

「行きましょ〜。さぐりん、ツッキー!」

よし、行こうか、ってツッキー!?

「ツッキーってもしかして私?」

「そうですよ〜。たつきちゃんでしょ?だからツッキー。」

たつき=ツッキーか。そんな事思い付くのはやよいちゃんくらいなんだろうなぁ。でも、竜胆さんはそのあだ名で良いんだろうか…。

恐る恐る竜胆さんの方を向くと、そこには今まで見たことの無いくらいの笑顔をしている竜胆さんがいた。

「ツッキー…!そんな可愛いあだ名初めてつけてもらえた!ありがと七原さん!!」

「やよいで良いですよ〜。喜んでもらえて何よりです!」

もう仲良くなってしまった。出会って数分くらいなのに。

良いなぁ。こうやって、すぐ初めての人と仲良くなれるって。

楽しいんだろうな。仲良い人が増えるって。

…羨ましいな。私は、初めてあった人と仲良くなるなんて、出来そうにもない。

「水原さん?行くよ!!」

「さぐりん、早く行きましょうよ〜!」

…今は、この二人と遊べる事を、嬉しく思うべきなのかもしれない。



「お前のせいだぞ加納!まったく、何が『人の多いところは当然女性も大勢いるわけで、だとしたら必然的に僕はその空間には存在出来ないわけで…』だ!おかげで普段使わない様な道を自転車でくる羽目になったんだぞ!」

「別にそこまで怒らなくても…。僕が女性が大勢いる空間に存在するのは宝くじに当たる確率より低いよ…。」

大袈裟に表現しすぎだな、こいつはまったく。

今日朝せっかく二時間かけて髪の毛セットしたっていうのに、台無しじゃないか…。

ナルシストではないからね。決してナルシストではないからね。

「大体、お前今日大丈夫なのか?」

「え、大丈夫って何が?」

こいつ…。まさか竜胆のやつから聞かされていないのか?

「今日竜胆含めて女子三人いるぞ。」

「…帰る。」

だろうね。

女性恐怖症のこいつがおとなしくついてくるなんておかしいと思ったんだ。

竜胆のやつ、黙ってたな。まったく面倒な事してくれた…。

「今更帰るって方向音痴のお前が一人で帰れるわけないだろ!おとなしく観念してついて来い!」

『うう…。世界の終わりだ…。」



「シロウさんの新刊発売!?やばいやばい、早く買わなきゃ!でも、どうして急に…。そんなの関係ない!早く買わないと!」

「シロウさんって南川シロウですか!?私あの人の本好きですよ〜。」

「んな!?まさかの趣味合う人発見!!」

二人は共通の趣味まで見つけてさらに盛り上がっている模様です。

私は、会話に入れず本屋の外でサイダーを飲んでいた。

サイダーは今日も美味しいな、そんなくだらない事を思いながら二人の会話が終わるのを待っていた。

二人は本当に楽しそうに話している。私も買おうかな?って思ったが、やめておいた。そう言えば家に大量にあった。まだ読みきれていない大量の本が。

一人でサイダーを飲みながら椅子に座っている。それもneonで。

客観的に見れば相当悲しい奴というイメージだろう。

慣れている。不登校になる前も、クラスではいつもこんな感じだった。

一人で、寂しくポツンと座っている。

慣れている。慣れているはずだ。私はなぜか、そう頭の中で復唱していた。まるで、自分を言い聞かせる様に。

何故だろう?慣れているはずなのに、何でこんなにも…。

何故こんなに、寂しいんだろう?悲しいんだろう?

理由は、わかってる。友達のやよいちゃんが、私よりも会ったばかりの竜胆さんと仲良くしている姿を見ているからだ。

竜胆さんの方が明るいし、人付き合いもいいだろう。私なんかより、一緒に居て楽しいと思えるだろう。

分かってる。分かってるのに…。



友達の私より、会ったばかりの竜胆さんの方が良いんだ…。



「ああ、買った買った。いやあ、さすがシロウさん!発売されたばかりの新刊も売り切れ寸前!」

「買えてよかったですね〜。」

「ホントホント。じゃあ、次行こっか。おーい、水原さん?」

「あれ?あそこに座って居たはずなのに…。」

「トイレかな?」

「だと良いですけど…。」

…さぐりん…。



私は気付くと、電車の中にいた。


〜第9話 彼女は元来た道を引き返す〜