コメディ・ライト小説(新)

Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.20 )
日時: 2017/03/02 20:12
名前: ラッテ(SAKUYA) (ID: 5YaOdPeQ)

〜第14話 地獄の始まり〜

「これで良し、と。」

私は今日日直である。

今は朝。今日の日付と曜日を書いていたところだ。

日直の仕事は、点呼をする、授業後に黒板を消すなどの仕事があり、めんどくさいと思っている人がほとんどだ。

私もその1人である。

元々不登校だった私にとっては日直なんてほとんど初めての経験に等しい。

そう。日直は戦いなのである!



などというくだらない妄想はここまでにしておこう。私がおかしくなってしまう。

今日は4月27日、水曜日。学校が始まってから約3週間が経った。

この3週間は、本当に色々あったと思う。

やよいちゃんと友達になって、竜胆さん達と何やかんやあったけどneonで遊んで…。

本当に私は成長したなぁ、と我ながら思う。

そんな成長した私に、とびっきりの試練が待ち受けていた…。

****

「ざーぐりーん。勉強おじえでぐだざい〜。」

そう。中間テスト!

さっき言った通り私は不登校だったから、テストなど経験があるはずもない。

普通ならば焦ると思う。

しかし、私は焦ってはいない。

不登校のせいで余るほどあった時間を、勉強に費やしてきたから、勉強には自信があるのだ。

じゃあ何が試練かって?



…やよいちゃんに勉強を教えることだ。

「さぐりん、ここはどういうふうに解くんですか?」

「え?この式はXを移項して…。」

「え?いこうって何ですか?」

「え?」

「え?」

もうわかったと思うけど、やよいちゃんは恐ろしいほど勉強ができない。

私も初めてやよいちゃんの勉強に付き合った時は、驚いた。まさか分数のかけ算わり算ができない人が高校生にいたなんて…。

まあ、そんなわけで私はやよいちゃんと図書室で勉強会をしている。正式に言うと私がやよいちゃんに勉強を教えているだけなのだが。

はっきり言おう。今まで私はいろんな問題を乗り越えてきた。

でも、今回はさすがにきつい。中学校の時の最高点数が200を行かなかった子をいきなり400以上取らせるなんて、無理がある。

「…CO2って何ですか?COが2つでCOCOですか?COCO何ですか?」

「…二酸化炭素だよ、やよいちゃん。」

「…本能寺の変?あ、あれですよね。聖徳太子がペリーを裏切ったっていう…。」

「…どうしたらそんな本能寺の変になるの?」

「…一石二鳥?いちいしいにとり?ひとつせきふたどり?」

「…小学生でも普通に読めば分かるよ…。」

「…自分の好きな事を主語と述語のある英文で書きなさい?ミー ラブ ドーナツってどうやって書くんですか?さぐりん。」

「…なにミーラブドーナツって!?ミ○タードーナツのパクリ!?」

私はついに我慢ができなくなってしまった。

今までこらえてきたが、こらえてきた分言葉がポンポン出てきてしまった。

「大体磁石なんて小学校で習うよ!?なんでN極とN極がぶつかりあったらM極になるのよ!?なんでS極とS極がぶつかりあったら消滅するのよ!?肖像画を見て答える問題だって、これ野口英世だよ!?1000円札に乗ってるよ!?なんで『私のお母さん』って答えてるの!?やよいちゃんのお母さんこんな顔なの!?せめてお父さんだよ!!せめてお父さんだよ!!」

「あ、確かに〜。お父さんそんな顔してます。さぐりん、あったま良い〜!」

…もうやだ。

なんでこんなことになったんだっけ?

思い返してみよう…。

****

「お、久しぶり。水原。」

「本当に久しぶりだね。須原。」

竜胆さん達とneonで遊んだ日から2日後の月曜日。須原は久々に学校に来た。

みんなからどうして休んでいたのか、などというひどい質問攻めにあい、ようやくみんなの熱が冷めた頃にはもう須原は元気が無くなっていた。

そんな須原に溜まりに溜まっていた学級委員の仕事が目の前に突きつけられたら、気を失ってもおかしくない。

須原はブツブツ文句を言いながらも仕方なく仕事を消化し始めた。

私も手伝ってあげようとして須原に近づいた時、教室のドアを思いっきり開ける音がした。

ビクッとして後ろを振り返ると、汗だくのやよいちゃんの姿があった。

「レイぐーん。勉強おじえでぐだざい〜!」

汗だと思ったら涙だったらしい。

涙と汗を間違えるなんて、やよいちゃんどれだけ泣いてるんだろう。

須原は手に持っていたシャーペンの動きを止め、やよいちゃんの元へ寄っていった。

「まーたおばさんに怒られたのか?」

須原が質問するとやよいちゃんは少し落ち着いて答えた。

「はい…。あんた今度のテストで400点超えられなかったらもう外出禁止にするからね!?って。私が400点取れる可能性なんて宝くじが当たった瞬間家が爆発して駆けつけた消防車がトランス○ォームして飛行機になって飛んでいく可能性くらい低いのに…。」

どんだけ低いの!?やよいちゃんってそんなに頭悪かったの!?

いやあ、でもそんなに可能性が低いわけないだろう。

誰だって頑張れば400点は取れるはず。

「マジか…!おばさんもなかなかひどい事をしたな。しかし、そこまで落ち込むことはないだろ?」

お、須原がやよいちゃんを慰めてる。

あんな須原でも、他人を慰めるくらいはできるんだな…。

「外の空気が吸えなくなるくらいだろ?問題は。」

そこ!?問題!?

なに?もうやよいちゃんが400点を取れない前程で話は進んでるの!?

しかも須原、その言い方はちょっと…。せっかく勉強を教えてもらうために来たのに、そんな言い方をされたらやよいちゃんがちょっとかわいそう…。

「…学校の空気は吸えていられんですよね?」

やよいちゃんも諦めちゃったよ!!

え?そこまでやよいちゃんって頭悪かったの!?

「…安心しろ。学校の空気が吸えなくなる日は絶対に来ないよ。だからそんなに泣くな、やよい。」

「レイ君…!」

いや、卒業したらもう空気吸えなくなるんですけどね。

それにしても、意外だ。

まさかそこまでやよいちゃんの頭が悪かったなんて…。

まあ、人には得意不得意があるからなぁ。

でも、やよいちゃんが外出禁止になったら一緒に遊べなくなっちゃう?

嫌だ!そんなのは絶対に嫌だ!

…私は勉強に自信があるし、やよいちゃんにつきっきりで教えてあげればなんとかなるかな?

そう思い私はやよいちゃんに声をかけようとした。

「ねえ、やよいちゃ…。」

「そういえば、レイ君は勉強しなくて大丈夫なんですか?」

それ。それ知りたい。めっちゃ興味ある。

あの須原が、果たしてどれだけ勉強できるのか、実に興味がある。

須原はやれやれ、とため息をつき答えた。

「大丈夫だって。俺は中学の時テストで480下回ったことないんだぞ?」

…!?

「ああ、そうでしたね。でも私が言いたいのはそこじゃないんですよ。だってレイ君ずっと体調悪かったから勉強してないですよね?」

「大丈夫大丈夫。俺中学2年の時に入院して全然勉強できなかった時の点数が480だから。」

!?!?

「だから私はレイ君に勉強教えてもらいたかったんですけどね〜。」

「うーん。別にいいんだけど、休んでた分溜まった仕事を早く終わらせないと…。あ、そうだ。水原、お前どうだ?やよいに勉強教えるの。」

…………………。

今までの人生の中で一番驚いた日は恐らくこの日になるだろう。

私は脳の中で情報が整理し切れていなかったため、須原の話は頭に入って来なかった。

ただ、なんとなく反射的に頭を縦に振ったことだけは覚えている。

ここから、私の地獄は始まったんだった。