コメディ・ライト小説(新)
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.21 )
- 日時: 2017/03/05 20:42
- 名前: ラッテ(SAKUYA) (ID: 5YaOdPeQ)
〜第15話 クラス〜
そんなこんなで私はやよいちゃんの教育係になってしまった。
本当に本当にやよいちゃんに勉強を教えるのは大変だった。
それでも私はやよいちゃんに勉強を教える事をやめなかった。
友達として、教えてあげるべきだと思っていたからだ。
まあ、いくらそう思おうと辛いのは変わらないけど。
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今日は テスト3日前、5月2日である。
5月になってから初めての学校。もう1ヶ月も経ったんだな、と思うとこのまま時間がどんどん進んで行ってしまいそうで寂しくなった。
学校が終わったら、いや、このクラスが解散したら、もう須原とかやよいちゃん達と話せなくなっちゃうのかな…。
いや、たとえクラスが解散しようと、関係が終わるわけじゃない。
それに、まだ時間はあるんだ。精一杯このクラスで、楽しもう!
そう思ったけど、私はこのクラスにまだあまり馴染んでいない。
私が学級委員という事で色々クラスのことで話して来る人はたくさんいる。
でも、それだけなんだ。
必要最低限の会話しか交わさない、それだけ。
私は、別にそんなに多くの人と親しい関係を築こうとは思っていない。
ただでさえあまりそういう事と関係のない生活を送って来て、友達1人だけで色々精一杯なのに、多くの人とそういう関係になったら、やよいちゃんに今まで通り接することはできなくなってしまうと思う。
だから、友達を増やそうとは思っていない。
思っていなかった。
でも、今の私にならできる。そんな気がするんだ。
私は今確実に成長している。
今なら、クラスのみんなと仲良くする、そんな事が出来そうな気がする。
だけどやっぱり今はいいや、と思ってしまう。
今は今いる友達とたくさん遊ぼう。
そんな事を考えながら私は図書室へと向かっていた。
****
今日もやよいちゃんに勉強を教える予定だ。
やよいちゃんはクラスで用事があるから少し遅れると言っていた。
私は早めに行ってやよいちゃんを待つことにした。
図書室の扉を開き、いつも使っている机の元へ向かった。
すると、図書室の奥の方から聞き覚えのある元気な声がした。
「あ、水原さん!奇遇だね〜。」
「竜胆さん!」
さて、覚えている人はいるだろうか?
私は以前、竜胆さんに南川シロウという作家の本を勧められ、大量の本を読む事を強要された。
あの本は、なんとか全部読みきって先週の金曜日にようやく返す事ができた。
この学校はどれだけ本を借りてもいいという謎システムだから、竜胆さんからオススメされた本は、かなりの量があった。
そういうシステムだからか、この図書室ではしょっちゅう本が行方不明になるらしい。
まあ、その話は置いておいて。
現在竜胆さんから再び大量の本を押しつけられている。しかも、前回より多く。
「ちょ、こんなに読めないって、竜胆さん!」
「まーまー、水原さんならいけるよ!」
笑顔で竜胆さんはそう言った。
いや、いけないから。竜胆さんくらいしかいけないから。
私と竜胆さんは本を押しつけあった。
私が根負けして全て借りるまでに、15分もかかってしまった。
ようやく借りてもらえた竜胆さんは、幸せそうな顔をしていた。
****
「それにしても、シロウさんはいっぱい本を書いてるんだね。」
ずっと思っていた事を、今ようやく言った。
これだけの量の本を書いている作家は、少ないだろう。
竜胆さんは、目を光らせて話し始めた。
「すごいでしょ!そこがシロウさんの魅力でもあるんだよ〜。これだけの量書いているというのに、中身は全く衰えない、いや、それどころか進化して行っている!素晴らしい!非常に素晴らしい!南川シロウ、万歳!!」
あー…。
こうなると竜胆さんは長い。
いつもなら聞き流していた所だろう。
でも、今日は聞き流さなかった。
竜胆さんの口から、とんでもない事を聞いてしまったから。
「そういえば、シロウさんは須原の父親の弟子でもあるんだよ!知ってた?水原さん?」
…須原のお父さんの、弟子?
そういえば、須原の父親は作家だった。
須原の父親は死んだと聞いている。
そんな須原の父親が生前書いた作品、そして、今も私が探している本、それが
【ある少女は、成長する事を拒むのです】
やよいちゃんからこの本の存在を聞かされた時から、私はずっとこの本を探している。
ネットで調べてもみたが、あまり情報はなかった。
あったのは、作家名、『北里クロウ』という作家が書いた学園を舞台にした小説、という事くらいだ。
そういえば私はまだ須原にこの本のことを聞いていない。
そうだ。今日、聞いてみよう。
竜胆さんはやっと話し終わったらしく、息切れしていた。
竜胆さんに別れを告げ、私は教室の元へ向かった。
やよいちゃんがもし来たら、竜胆さんに少し遅れると言ってもらうよう頼んでおいた。
やよいちゃんと竜胆さんは前回neonに行った時に仲良くなっているから、私が用を済ませるまで話していてくれるだろう。
須原はもう少しで溜まっていた仕事が終わる!と言っていたからもう仕事を済ませて帰っているかもしれない。
でも帰っていなかった。
私が教室に着いたちょうどその時、仕事が終わったらしい。
「やっと宿泊研修のスケジュール作り終わった〜。あー、帰ろ。」
帰ろうとしている須原を止め、私は須原に質問した。
「あんたさ、【ある少女は成長する事を拒むのです】っていう作品知らない?」
それまで笑顔だった須原の顔が、急に暗くなった。
ため息をつき、静かに須原は口を開いた。
「あのクソ親父の事に関係する事は、金輪際俺の前で口にするな。」