コメディ・ライト小説(新)
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.6 )
- 日時: 2016/12/22 18:39
- 名前: SAKUYA (ID: 5YaOdPeQ)
〜第6話 第一歩〜
私にはもう友達なんてできない。
私は帰ってきてから家にいた妹に何も話しかけず部屋にこもった。妹が何か話そうとしていたが、無視して部屋に入った。
それから30分は経っただろうか。相変わらず私はベッドに寝転がっている。
明日、やよいちゃんには謝らなければいけないな…。
そう思いながら、ベッドから起き上がりお茶を飲もうと歩き出した。
何でだろう。さっきから、頭の中に須原の姿が思い浮かぶんだ。
私の事を必要だと言ってくれた、あいつの姿が。
あいつは、『友達』なんだろうか?
いや、違う。『友達』では無いと思う。
そもそも、『友達』ってなんだろう?もう私には、そんな事を考えても意味は無くなってしまったのだけど。
お茶をコップに汲み飲み干してまた部屋へ行こうとしたその時、インターホンが鳴り響いた。誰かが、家に来たようだ。
私は、玄関へと行きドアを開けた。そこには、須原とやよいちゃんの姿があった。
「須原?それにやよいちゃん?どうしてここに…。」
私が質問すると、須原は答えた。
「俺はお前が筆箱学校に忘れていったから届けに来たんだよ。ほい、筆箱。」
そう言って須原はカバンの中から筆箱を取り出し私に手渡した。私は、ありがと、と言って受け取った。
「でも、なんでやよいちゃんまで?」
「ああ、こいつはお前に話があるんだとよ。俺の役割はここで終わりだ。またな。」
須原はそう言って立ち去っていった。
やよいちゃんが、私に用がある。
やっぱり、怒っているのだろうか?謝った方が良いのだろうか?
私が考えていると、やよいちゃんは口を開いた。
「あのね、さぐりん。私、レイ君から全て聞いたよ。やよいちゃんが、不登校だった事。それが、友達関係の事なんだって。ごめんね、無理矢理友達になろうとして。」
やよいちゃんは頭を下げて謝った。そんな、私の方が謝らなければいけないのに。
そうか、全て知られちゃったか。でも、不登校になった理由は知られていないようだ。
「でもね、さぐりん。それでも、私はあなたと友達になりたい。あなたの境遇を知った今でも、あなたと友達になりたい!」
やよいちゃんは、なぜ私なんかと友達になりたいんだろうか?
断られる可能性が高いこの状況でも、なぜこんなに恐れも無く私を友達にしようとしてくるのだろうか?
理由は、わからない。
やよいちゃんが私と友達になりたいと思ってくれていることは、本当に嬉しい。
でも、私には友達をつくる資格がない。
ごめんね、と言おうとしたその時、やよいちゃんは話し出した。
「実は私もですね、いじめにあってた時期があったんです。それで、何度か挫けそうになりました。」
やよいちゃんが、いじめられていた?
こんなに明るい子がいじめられている場面なんて、想像もつかない。一体どうして…。
「当時、仲が良かった子がいました。ある日、その子に遊ぼうと誘われたのですが、その時は急いでいたので返事をせずに帰ってしまいました。その以来です。私が、いじめられるようになったのは。」
…。
私は、言葉も出なかった。
「本当に酷い事をされ続けました。もう不登校になろうか…。そう思った時に救ってくれたのが、レイ君でした。」
…須原が、やよいちゃんを救った。
なんと無く、予想はつく。あいつは、そういう人を見かけたら動いてしまうような人だから。
中学の時、そうだったから。
「レイ君のおかげで、私に対するいじめは無くなりました。それ以降、彼は私の支えになってくれました。さぐりんには今、支えとなっている人がいないんだと思います。」
確かに、そうだ。
昔から、私の支えとなってくれる人はいなかった。唯一私の支えとなった人も、私を裏切った。
私を支えてくれる人なんて、今までいなかった…。
「なら!私があなたの支えとなります。」
私の支えとなる人。そんな人ができたら、嬉しい。
やよいちゃんが今、私の支えになってくれると言っている。でも、どうしてそこまでやよいちゃんはするの?
こんな私に、どうして?
「そして、さぐりんにも私の支えになってもらおうと思います。」
「え?」
想定外の発言にびっくりしてしまった。
私が、やよいちゃんの支えとなる?
そんな事ができるの?
そもそも、なんで私がやよいちゃんの支えに?
「共に支え合い、生きていける存在が友達だと私は思うんです。今、あなたには支えとなる人がいない。そして、私には支えとなる人はレイ君しかいない。そのレイ君に、私は支えになってあげる事ができない。私とレイ君は友達じゃなくて、ただの幼馴染です。だから、本当の友達が欲しい。」
やよいちゃんも、友達が欲しいと願っていたんだ。
私と一緒で。
「さぐりん!わがままなのは分かっています!でも、お願いします!私と、友達になってください!」
やよいちゃんの中での『友達』は、『共に支え合っていける存在』だ。
私が、やよいちゃんを支えていける自信なんてない。
私の中の『友達』がどういう存在なのかも、分からない。
でも、友達になろうと言ってくれている人が今いる。
あれだつくる資格がないと嘆いておいたくせに、今はなぜだか喜んでいる自分がいる。
これからどうなるかなんて分からない。
また、『裏切られる』かもしれない。
でも、やよいちゃんは私を裏切ったりしないと思う。
こんなに、明るくて、前向きなやよいちゃんだから。
そんなやよいちゃんが、私と友達になりたいと願っている。
私は、なんて贅沢な人間なのだろう。
『あんたが友達を持つ資格なんて無かったのよ。』
ううん、そんな事ない。
過去の事に未だに取り憑かれている私。
一度忘れはずの、過去。
今、完璧に忘れてしまおう。
そして、新たな一歩を踏み出そう。
少しずつだけど、これから変わっていこう。
あの楽しかった日常を、もう一度体感できるように、私自身が変わっていこう。
これはその、第一歩だ。
「よろしくね、やよいちゃん!」
「ただいまぁ。」
俺は今家に帰ってきた。
扉を開けると、妹のみなみが出迎えてくれた。
「おかえり、お兄ちゃん!ところで、今日のご飯は何?私、ハンバーグが食べたいな!」
ハンバーグ、か。そういえば最近全然食べてなかったな。
「よし、じゃあ今日の夕飯はハンバーグだ!」
「わーい!お兄ちゃんありがとう!じゃあ、買い物行こ!」
みなみは準備を始めた。まあ、準備と言っても着替えるくらいなのだが。
俺、須原レイは妹と二人暮らしをしている。
俺が小学五年生の時からだ。
「そういえば、やよいちゃんと須原はどういう関係なの?」
私はやよいちゃんが帰る前に一つだけ質問をした。
やよいちゃんは、笑顔のまま答えた。
「レイ君とは幼馴染なんです。小学校から今まで、ずっと。さぐりんとも、同じ中学だったんですよ?」
「え!?そうだったの!?」
恐らく、一年生の時同じクラスでは無かったはずだ。そうか、やよいちゃんと中学一緒だったのか。
「レイ君とは家が隣なんですけど、ある時から多く接するようになったんです。」
「ある時?」
私が尋ねると、やよいちゃんは突然暗いような顔をして答えた。」
「レイ君は、小学五年生の時、両親を亡くしているんです。」
「え…。」
「それから私が家事を手伝うようになったんですけどね。最近はレイ君家事を一人でこなせるようになって、家に行くことは少なくなりました。たまに、妹のみなみちゃんと一緒に遊んだりするんですけどね。」
今まで、私は苦しい思いをしてきた。
けど、多分須原は、その苦しみを、超えるほどの、苦労をしてきたと思う。
あいつが、両親を、失っている…。
「レイ君のお父さんは作家でした。最後に書いた本は、爆発的な人気を起こしました。本来、その本は続編がある予定でしたが、作者が亡くなってしまったため、続編は無いままです。」
「作家…。」
「その本、さぐりんも読んでみたらどうですか?いい本ですよ。多分図書室に置いてあると思います。確か、本の名前は…。」
妹が準備できたので、出発する事にした。
玄関を出ようとした時、何かが落ちたような音がした。どうやら、妹が何かを落としたらしい。
「ああ、落としちゃった。友達から貰ってた本なのに…。」
「どうして貰った本持っているんだ?」
「面白かったから、暇な時いつでも読みたいんだ〜!ほら、この本だよ。」
人間のシルエットが書かれていて、題名が赤い字で書いてある。
間違いない。その本は…。
「この本の作者、私のお父さんなんだって!いやあ、私のお父さんは面白い本書ける人だったんだね!」
本の名前は…。
【ある少女は、成長する事を拒むのです。】