コメディ・ライト小説(新)
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.7 )
- 日時: 2017/01/01 18:04
- 名前: SAKUYA (ID: 5YaOdPeQ)
〜第7話 竜胆 たつき〜
「おはようございます、さぐりん!」
「あ、おはよー。やよいちゃん。」
登校している途中に、やよいちゃんと信号の前で会った。いや、ここで待ち合わせをしているから当たり前の事なのだが。
やよいちゃんと友達になってから1週間が経った。あれから私達は一緒に登校している。
家は近くなかったけど、お互いの通学路の途中で合流できるのがこの信号の前なのだ。
やよいちゃんとは、友達として上手くやっていけてるとは思っている。
色々楽しく喋れているし、休日に大型ショッピングモールで遊んだりもした。
このまま、友達として末長くやっていけたらいいなぁ。
こんな感じで、やよいちゃんとの関係は上手くいっている。じゃあ、その他の関係は上手くいっているのか?という疑問が出てくるだろう。
まず、他の関係というものがまだ私にはない。
何故なら。
「今日も須原は休みだから、学級員の仕事また一人で頼むぞ、水原。」
あの男、須原レイはあの日以来学校を休んでいる!
やよいちゃん曰く、
「レイ君は体調崩しやすい子なんですよ。」
らしいが、何も1週間も休むほど体調を崩すわけがないだろう!?まったく、何したらそんなに体調崩したんだか。
そんなこんなで、私はここ1週間学級委員の仕事をほぼ一人でやっている。そのせいで、クラスの人と喋ったりすることが出来ないのだ。そりゃあ、やよいちゃん以外の友達なんて出来ないよ。
さて、ほぼ一人でやっていると言ったのだが、実は学級委員の仕事を手伝って来やがる厄介な男が約1名いるのだ。
「今日も大変そうだねぇ、水原さん?手伝おうか?」
…噂をすればだ。放課後学校に残って書類をまとめていた私のもとに、ある男が現れた。
「…一人でできるから。だから手伝わなくていいよ、葉山君。」
葉山トオル。今、私の隣の席の男。
別に、何回も話したわけではないのだが、私はこの男が苦手だ。
何故なら、ナルシスト臭が漂って仕方がないからだ。
カッコつけようとして行動しているのが、丸見えなのだ。そんな男が隣の席だったら、誰でもうんざりするだろう。
「もう、その量一人でやるのは大変だよ、手伝ってあげるよ。」
そう言って、葉山は書類の半分を取った。
「だから良いって。あんたの力なんか借りなくてもこれくらい平気だから。」
私は、これ以上ないくらいの冷たい目で葉山を見て言ったが、葉山はそんな事を気にもせず作業を開始した。
「困っている女の子を見つけたら、手伝いたくなっちゃうでしょ?放っておくなんて、出来ないなぁ。」
うわ、クサイ!これ以上なくクサイ!
やはり、だめだ。この男はどうも好きになれない。こんな男がこれから先も隣の席だなんて、とても耐えられそうにはない。
けど、私は安心している。明日には、アレが行われる。
『席替え』だ。
「ほーい、席座れお前ら。さて、さっそくだが今日は席替えしちゃうからな。」
えー!?なんでいきなり!?
俺あの席がいいな〜。
私このままでいい〜。
教室中が、ざわめいた。驚きの声や、願望など、様々な声が行き交っている。
私か?私は当然、感動している。
あの、あの葉山と!遂にオサラバできる!ああ、ありがとう、神様!!いや、先生!!
「席はクジ引きで決めるぞ〜。はい、さっさと出席番号で引いていけ。」
クジ引きで決めるということに反論した生徒もいたが、無理矢理先生は意見を押し通しクジ引きで決めることに決定した。
私は、早く自分の順番が来る事を願っていた。
さあ、記念すべき席はどこだ!?
「はい、これで決定な〜。」
席が、決まった。
決まってしまった。
「隣じゃないけど、今度は斜めだね。またよろしく、水原さん!」
何でだ〜〜〜〜!?
神様、いや、先生!!どうしてあなたは私をこんな男とまた近づけた!?いや、隣ではない。確かに隣ではなくなった。でも、こんなの隣の席にいるのと同然だ。ああ、最悪だ。また、あの男のクサイ台詞を毎日耐えて行けなければいけないのか…。
そういえば、隣の席はどんな人なんだろう?葉山に気をとられ過ぎて気づいていなかった。
隣を見ると、ちょうど隣の席の男子と目があった。
瞬間顔を背けられた。
…は?
突然顔を背けられたら誰だって困惑するだろう。いや、悲しくなるだろう。
なんで、初対面の人にいきなり嫌がられなければいけないのか。私の心は、深い暗闇に沈んでいった…。
「ってか、お前まだ女子苦手なの?加納。」
私が暗闇に現在進行形で沈んでいる間に、葉山と私の隣の加納と呼ばれている男が会話を始めた。
「と、当然だ。僕の女性恐怖症は、多分一生かかっても治らないさ。」
…女性恐怖症?噂には聞いていたが、まさか本当に実在したとは。
私は少し安心した。私が嫌で顔を背けたわけじゃないんだな…。
暗闇のどん底から這い上がって来ようとしている私の事なんか知らないだろうが、二人は会話を進めた。
「まったく、せっかくの高校生活、そんなんじゃ楽しめないぞ、加納!?」
「うう、僕だって治したいとは思っているさ。でも、どうしても無理なんだ。女性を見ただけで、吐き気に襲われめまいがしてきて頭痛も激しくなるんだ。それなのに、目なんか合わせてしまったら、この世の終わりだ…。」
この世の終わりだ。
その言葉が私が暗闇から戻って来られる光を全て断ち切った。
そんな事を男子に言われたのは初めてだ。ショックを通り越して、いや、やっぱりショックだ。
暗闇に完全に堕ちてしまった私に、私の前の女子が急に話しかけてきた。
「ごめんね、この二人大変でしょ?葉山トオルと加納オサム。昔からの付き合いの私でも耐えられないわ。私、竜胆たつき!よろしくね、水原さん。」
ああ、普通に喋れる女子だ。よかった、こういう子が近くにいてくれて。
暗闇が少し晴れた私に、竜胆さんはさらに話を進めた。
「そういえば、水原さん。趣味ってなんかある?例えば、読書とか!あと、読書とか!」
やけに読書を推してくるな。多分、読書が好きなんだろう。
ああ、読書か。不登校の間はやる事がなかったから本を結構読んでいたな。好きといえば、好きか。
「私、読書結構好きだよ。」
そう答えると、満面の笑みで竜胆さんは私に語り始めた。
「おお、私も好きなんだ!ねえ、水原さんはどの小説家が好きなの?ちなみに私は言わずと知れた有名作家、南川シロウさん!あの人の書く小説はどれもすてき!シンプルな文章に、色んな意味を込めて書いてらっしゃる。あの人の本は、想像力を豊かにしてくれる!あ、ちなみにシロウさんのオススメの本は『南を向いて』だよ!この本は、ものすごい売れたんだよ。この本でシロウさんを好きになったっていう人がめちゃくちゃいるくらい!是非、読んで見たほうがいいよ!それとね、他にもオススメの小説があるんだ。えーっとね、いっぱいあるからどれをオススメしようか迷うな〜。『水色のガラス破片』とかどうかな!?あとは…」
だめだ。話が頭に入って来ない。多分一度話したら止まらない性格なんだろう。
このまま聞いてても頭に入って来ないし、疲れてしまう。
最近は、読書なんてしてなかったな。今日、放課後図書室に寄ってみようかな?気になる本もあるし。
学級委員の仕事は、昨日全部終わらせたからいいや。まったく、須原のやろう。今日も休んで。いつになったら来るんだろう?
「…っていう感じで、どれもこれもいい作品ばっかなんだよ〜。どう?読んでみる気にはなった!?」
…まだ話してたんだ。めっちゃ汗かいてる。必死だなぁ。
「ま、まあ。読んでみたいかな?とは思った、かな…。」
「本当?じゃあ、今日放課後一緒に図書室に行こうよ!」
というわけで、私は今図書室にいる。竜胆さんも一緒だ。どうやら南川シロウという小説家の小説がまとめられているコーナーにいるようだ。
私は、ある本を探し出した。ある本の題名は、
『 ある少女は、成長する事を拒むのです。』
須原のお父さんが書いたという作品。やよいちゃんが、是非読んでおいたほうが良いと進めてきたので、探している。
私は、図書室中を回ったが、なかなか見つからなかった。
「広すぎ、図書室…。」
なぜかこの学校、図書室だけは相当広いのだ。こんなに図書室にお金をかけるなら、もっと他の場所にお金をかけたほうが良いのに…。
ブツブツ言いながら本を探していたら、竜胆さんが本を数冊持ってこちらへ寄ってきた。
「オススメの本、いっぱい持ってきたよ!是非、読んでみて!」
「う、うん。分かった。」
本を受け取ったが、相当重かった。
よくこんなに本を持って私のところまで来れたな、竜胆さんは。
私は一旦竜胆さんからもらった本を机の上に置き、再び本を探し始めた。
しかし、いつになっても本は見つからない。本当に、そんな本図書室に置いてあるのだろうか?
その時、チャイムが鳴った。
「あ、水原さん。もう学校から出ないといけない時間みたいだよ。もう帰るね。じゃあ、明日感想聞かせてね!」
そう言って竜胆さんは図書室から出て行った。
この量を、一晩で読めってか。なかなか無茶を仰いますな、あの人も。
しかし、目的の本は見つからなかった。また、明日探すか。
明日須原が来たら、須原に直接聞いてみよう。
その本が、どんな本なのか。
私は本を抱えて図書室から出た。
「重っ!!」
…とりあえず、今はこの本達を運ぶ事に集中しよう。