コメディ・ライト小説(新)
- Re: ある少女は、成長する事を拒むのです。 ( No.8 )
- 日時: 2017/01/08 17:23
- 名前: SAKUYA (ID: 5YaOdPeQ)
〜第8話 母親〜
「どうだった?シロウさんの本は?面白かったでしょ?絶対面白かったに違いないでしょ!?」
朝、教室へ入るといきなり竜胆さんが話しかけてきた。私は、適当に流して鞄を片付け始めた。
私は今、圧倒的寝不足なのである。
竜胆さんから昨日貰った本を読んでいたのだが、量が多いんだ、量が。本自体はそんなに長くなく、むしろ短編集と言った方がいい本が多かった。
問題なのは本の量!まったく竜胆さんめ、あんな量を読みきるには、24時間読み通しても時間が足りないって。まあ、じゃあ読まずに寝れば良かったじゃないか、と。意外に面白かったんだな、これが。
今まで読んだ中でも、一位の称号を与えてもいい程の本ばかりだった。まさか、あそこまで面白いとは思っていなかった…。
と、そんなこんなで一晩中本を読んでいたため、一睡もしていない!
こりゃあ、今日は授業中は寝てしまうな…。
そう考えながら、私は鞄をロッカーに片付けに行った。
さあ、場所は変わってここは図書室。昨日に引き続き図書館である。
竜胆さんから貰った本はまだ全部は読み終わっていないのだが、半分は読み終わったので返しにきたのだ。
今は昼休み。今まで昼休みは学級委員会だの何だので潰れていたのだが、今日からは昼休みも自由時間になった。ああ、良かった。このまま昼休みが無かったらとんでも無いことになっていた。
昨日は放課後だったからあまり、というか私と竜胆さん以外誰もいなかったけど、今日は賑わっている。図書室の中は人だらけだ。
本を返してさっさとこの暑苦しい空間から出よう、と返却本スペースへ行こうとしたその時、後ろから突然肩を叩かれた。
「さーぐりーん!奇遇ですね、こんな所で会うなんて!」
「や、やよいちゃん!」
肩を叩いてきたのはやよいちゃんだった。
やよいちゃんも借りていた本を返しにきたらしい。私達は本を返して、図書室内に設置されている机へ向かった。
やよいちゃんとは毎朝登校しているが、今日は一緒に登校できなかった。私が時間を気にせず本を読み続けていたせいで、待ち合わせの時間に間に合わなかったのだ。申し訳ない。
そういえば、やよいちゃんに聞きたいことがあったんだった。
「そういえばさ、須原ってまだ学校来れないの?」
須原はまだ学校に来ていない。今日で10日目だ。
「あ、レイ君は大分体調回復したみたいですよ〜。明日には来れそうだって言ってました。」
「ふーん。1週間以上もかかるほど重病なのかね?あいつは。」
「良くあることですよ、レイ君は病弱ですから。」
あいつが病弱ねー。なんか信じられない話だ。
とりあえず、明日来るならあの本の事も明日聞いてみよう。
あ、あの本を探そうと思っていたんだった!すっかり忘れていた…。
でも今は図書室混んでるし、放課後でいいかな?あ!今日は放課後学級委員会だったんだ…。やけに学級委員会多くない?この学年…。
じゃあ探すのも明日でいっか。ん?そういえば明日って…。
「あ、さぐりん。明日土曜日でした!レイ君来るのは月曜日ですね。」
そうだった。明日は土曜日か。何しよっかなー?何にもする事ないしな。竜胆さんから貰った本を読みまくるか。
「明日空いてる?水原さん!」
教室へ戻るといきなり竜胆さんが話しかけて来た。朝も教室入ったらいきなり話しかけられたな…。
「あ、うん。空いてるけど。」
「良かった!じゃあ、一緒に遊ばない?」
「え?」
遊ぶという言葉を久しぶりに聞いた。ずっと不登校だったから、誰とも遊ばずにいたから。
それよりも、どうして私と?何で私を誘ったんだろう?
遊ぶという事自体に抵抗はないが、同級生と一緒に遊ぶという事は長らくしていなかったので、緊張してしまった。
「え?べ、別にいいけど…。ど、どうして?」
噛みながらも竜胆さんに理由を聞くと、竜胆さんは私の肩を掴んで理由を答えた。なんかすごい形相で。
「同じ読書好きという事で、仲を深めておきたいの!図書室においていないシロウさんの本も紹介したいし!」
同じ読書好きとしてか。どうやら私は竜胆さんの中で相当の本好きというランクに格付けされてしまったようだ。
竜胆さんと遊ぶ事はいいのだが、友達のやよいちゃんとも遊びたいな。
そう思っていたら、チャンスがいきなりやって来た。
「それで私ね、他の子も呼びたいの。だから、水原さんも誰か呼んで来ていいよ!」
こんなに物事が上手く進んで良いのだろうか?まあ、せっかくのチャンスだ。無駄にはしない。
やよいちゃんを誘っておこう。
そういえば、竜胆さんの連れて来る人って誰なんだろう?
「竜胆さんって誰を呼ぶの?」
「ん?ああ、加納と葉山だよ。」
「へ!?」
加納と葉山?女と目が合っただけで世界が終わる加納と女にカッコよく見せようとしているナルシスト葉山!?
…今更断るわけにもいかないし、はあ…。
私はため息をつきながら、竜胆さんと集合場所などを決め始めた。
「じゃあ、明日の正午、北梟駅前集合で!」
明日は何だか荒れそうな気分だ…。
「ふー、三冊目読破!この本も面白かったなー。」
独り言を呟きながら、時計を見た。
夜の11時30分。明日に備えてもう寝ておいたほうがいいだろうか?
やよいちゃんは快くオーケーしてくれた。
「さぐりんと一緒に遊べるなら、他の人がいても結構ですよ!」
先週の休日遊んだばっかだけどなぁ、やよいちゃんと。まあ、いっか。
お風呂に入ろうと部屋のドアを開けたら、ちょうどお母さんが仕事から帰って来て玄関で靴を脱いでいた時だった。
「…おかえり。」
そう言って私は早々と風呂へ向かった。いつもならこれだけで済んだのだろうが、今日はお母さんが私を止めて話しかけて来た。
「…ちょっと話があるわ。リビングまで来てちょうだい。」
お母さんと面向かって話すのは何週間ぶりだろうか。もともと父親がいないためお母さんが働いているから家にはあまりいないのだが、家にいる時でもあまり話さない。私が不登校になってからは、お母さんとは上手くやっていけていないのだ。
「…どう?今の学校は。」
「…普通。」
楽しくないわけではないが、適当に返事をした。
私が素っ気もなく返したせいか、お母さんは少し怒り気味で喋って来た。
「もう不登校にはならないでちょうだい。もう嫌よ、あんたが部屋に引きこもっているのは。」
いちいちこういう言い方をするから、この人を好きになれない。
「ほっといてよ。私がどうなったって関係ないじゃん。」
「関係ないって何よ!?」
すぐこうやって叫びだす。だから嫌なんだ、この人と話すのは。
「関係ないじゃん。お母さんだって私の事どうとも思ってないでしょ?」
「そんな訳ないじゃない!」
「じゃあ何で私に声をかけなかったの?」
この人は、不登校になった私に何も聞かなかった。どうして不登校になったのか、何が学校であったのか…。聞いてくれなかった。
あの頃の私は、やよいちゃんのいう支えとなる人が欲しかった。悩みを聞いてくれて、相談に乗ってくれる人が。
でも、そんな人はいなかった。学校はおろか、家族すらも。
「それは…。」
「言い訳なんて聞きたくない。どうせお父さんも私の事なんか興味なかったんだろうね。家出てっちゃったんだから。」
「お父さんの事は悪く言わないで!!」
急に声を荒げて叫んで来た。お父さんの悪口を言うと、すぐこうなる。
何よ、お母さんだってお父さんに捨てられたじゃない。こんなに庇う必要、ないはずなのに。
「お父さんはね、あんたの事を思っていたのよ。家族の事を第一に考えていたのよ。そんなお父さんのことを、悪く言わないで。」
家族を第一に考えていた?家族を捨てて家を出て行った人が、か。呆れて物も言えない。
こんな家族が、私は大嫌いだ。
「もういいでしょ?桜も起きちゃうし、もう話はやめよ。」
「…。そうね。話しかけてごめんなさいね。おやすみなさい。」
そう言ってリビングから離れていった。
学校は、上手くいっている、と思う。
でも、家族は、もうどう頑張っても、上手くいかないと思っている。
それでいい。学校のことさえ上手くいっていれば、家族なんてどうでもいい。
家族なんて、血の繋がっているだけの、ただの他人だ。
「あの子とも、うまく接する事は出来ない。私、もう限界よ…。」
『大丈夫だ。お前なら大丈夫。俺がいなくても。それより、桜は元気か?』
「桜桜って、ちょっとはさぐりの事も見なさいよ!あなたがそんなんだから、あの子はああなってしまったのよ…。」
『あいつがああなったのは俺のせいじゃない。何でもかんでも人のせいにするな。』
「やっぱりあなたは変わらないわね、出て行ったあの日から…。」
『…桜の事を教えてくれないんならもういい。切るぞ。』
「っちょっと待っ…。」
「…ごめんね…。さぐり…。」