コメディ・ライト小説(新)

Re: ハツコイ【コメント募集中……|´-`)チラッ】 ( No.796 )
日時: 2017/04/14 21:43
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

~夏海サイド~

「結構いい感じだったと思うけど、自分的にはどう?」
ピアノのレッスン中、先生の言葉に私はホッとした……がそれもつかの間で言葉について考えてみる。

「モチベーションは上がってきてます。後は細かいところのミスを直せれば本番に向けてしっかり練習出来るかなと思っています」
先生は私の言葉を聞いて満足げに頷いた。

自分の中でも最近はまっすぐに曲と向かい合えてる気がするのだ。
──ただ向かい合うだけではダメだけれど、そこが出来なかったら何も出来ないままだ。

「そっか、本番期待してるから夏海のいい演奏聴かせてね!」
昔はすごく苦手だったちょっとしたハードルを上げるような言葉も、今は「まだ期待されてるんだな」と思えて、好きになってきた。

そんなことで好きになるなんて、と思うかもしれない。
……けれど私からすれば、「そんなこと」ではない──そう思っている。

「楽譜は親切過ぎず、突き放し過ぎずでほどよい距離感を私達……奏者と保っているわよね」
いまいちピンとこないなぁという表情を浮かべる私を先生は少しだけ笑った。

「最終的にいつも、1音1音楽譜通りに弾いている?……テンポも最初から最後まで全く同じ?──気持ちの込め方で変わってくるわよね」
「……もうこの時期から暗譜あんぷを始める、ということですか?」
私の言葉に先生は深く頷く。

「そういうこと! 楽譜に載ってる悲愴、じゃなくて夏海自身の悲愴にしてみて。……もしかしたらちょっと大変かもしれないけれど、これは次のレッスンまでの宿題ね」
次の時に忘れないように確認するからね、と先生は私に念を押した。

──私自身の悲愴。……ただ弾くだけじゃダメなんだな。

そう思いながら、私は自分の手を握りしめた。
ピアノを弾く前や弾いた後にいつもこれをしている。──すっかり体に馴染んだ癖だ。

「1週間で見つけるのは難しいと思うから、自分なりに近づけてみて。夏海自身のことは夏海が1番分かっているはずだからね」
先生の言葉に私は不安を覚えた。

本当に自分のことを分かっているんだろうか。

──知っているようで何も知らない……そんな気がする。


*


電車に乗った後も私は、先生の言葉の意味を窓から流れる景色を見ながら考えていた。

私が思っている事も、流れて見えるこの景色のようにすぐになくなってしまいそうだ──。

まだ分からないけれど、帰ったらピアノを弾こう……私はそう決めて吊り革に捕まり直した。


まだ未熟な音を立派と言えるまでに仕上げたい──。

【続く】

お久しぶりです(((;°▽°))←
少しだけ他の方の小説にもお邪魔させて頂きますねm(*_ _)m

byてるてる522