コメディ・ライト小説(新)

Re: 【短編集】この一杯を貴方と。【開店中】 ( No.14 )
日時: 2017/02/02 18:24
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

#5 「新作」

無愛想だった、「chestnut」の猫──こんぶは愛想を覚えた。
常連の1人である降谷や、緋音はそれを強く感じている。

……圭介や秋乃も感じている。──大あくびをしてウトウトしているこんぶだけがその事に気づいていないらしい……。

「こんぶもすっかり人気者になったよね」
緋音がこんぶの頭を撫でてそう言った。

「なんていうかさ、こうしてると辛いこととかも一緒に消えていきそうな気がするんだよね。秋乃に話を聞いてもらうと落ち着く、っていうのと似てて……こんぶの頭撫でててると、重い気持ちが軽くなってくの」
緋音の言葉に返事するかのように、こんぶは「にゃあ」と鳴いた。

「緋音ちゃん、まだ若いのにそんなこと思ってたのかい」
いつの間にかよく会う常連同士ということで、降谷と緋音は言葉を交わすようになっていた。

「chestnut」を通してたくさんの人との繋がりを感じられるのは幸せなことだ、と秋乃は感じている……。

「でも私達だけじゃなくて、結構撫でる人多いですし皆そう感じてるんですよ──」
「そうだよなぁ……」
降谷もこんぶの頭を撫でたが、伸ばされた手を払い除けるようにこんぶが強く頭を振り、仕方なく手を戻していた。


「お待たせしました、ホットコーヒーと抹茶オレ……それから」
サッと2人の前に秋乃は小さいケーキを差し出した。

「新作の味見をお願いしたいとのことで」
秋乃は圭介の方を見て、2人にそう伝える。

「楽しみ!」
「いただきまーす」
ほぼ同時に2人は味見のケーキを口にした。

「ん……! ケーキじゃない! スコーンかな? サクサクしてて美味しい」
「これは新しいな……圭ちゃんの手作りか?」
降谷も美味しそうに食べて、圭介にたずねる──。

「あぁ、好みで……」
圭介は調理場から顔を出して、再び中に入ると……

「メープルシロップや、ジャムをつけてもいい」

「なるほど!」
「食べた味は、その客によって変わるってことか」
緋音も降谷も納得した様子で、残りのスコーンも食べ進めた。


「新作として、どうでしょう?」
秋乃がそう2人に尋ねる。

「いいと思う!」
「注文出来るようになったら注文してやるさ」
緋音と降谷──2人の常連の言葉を聞いて、ずっと固い表情だった圭介の顔が緩んだ。


和んだ雰囲気の中でまた、こんぶはあくびをして「にゃあ」……と鳴いた。

「chestnut」に新作メニューが追加されそうです──……。


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