コメディ・ライト小説(新)
- Re: 【短編集】この一杯を貴方と。【開店中】 ( No.17 )
- 日時: 2017/02/26 19:11
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
#7 「嫉妬」
たとえ、どんな「事情」を抱えようと……。
秋乃がするのはあくまでも、話に耳を傾けることと少しの助言。
激しい同情や、キツい一言は余計なものになることがある。
踏み込んでいいところ、と踏み込まない方がいいところがあるのだ。
「いらっしゃいませー……」
一件普通の女性客に見えるが、普通の客とはちょっと違う。
「chestnut」に入ってくるなり、秋乃の案内がなくともずかずかと席に座って乱暴に持ち物を置いてため息をついた。
慌てて水と手拭きを運んできた秋乃を軽く睨んで、差し出されたメニューをこれまた乱暴に受け取った。
仕方なくその女性客から離れると秋乃は先程女性客がはいたため息に負けないくらいの大きさのため息をついた。
「なかなか近寄り難い雰囲気の方です」
そう言って、圭介に助けを求めると……。
「お客様、もしかして迷われていますか?」
とその女性客の前に出ていったのだ。
突然話しかけられ驚きを隠せない表情のまま、女性客固まっている──が、やがて「えぇ」と返事をした。
「それでしたら、こちらのモンブランは当店の看板メニューですので推させて頂いていますがいかがでしょうか? 少し疲れている時になどに合うかと思います」
所謂営業スマイル、とでも言うのだろうか。
その顔を保ちながら圭介は続けた。
言葉とともに差し出されたモンブランの写真を見て、頷き「それではこれを頂きます」と決断したらしかった。
「メニューお下げしますね」と、圭介は受け取ったメニューを少し先にいる秋乃に渡した。
「ありがとう、お父さん」
「あぁ」
こういうのは慣れてる、と付け足して圭介は早速モンブランを作るのに取り掛かった。
あとは、出来上がったモンブランをあの女性客に持っていくだけ……そう秋乃が思っていた時だ。
「素敵なお店ですね」
と声が聞こえた。
今いるのは、秋乃と圭介、こんぶに例の女性客のみ。
こんぶが言葉を発するとは考え難い。声を聞く限り女性の声。
消去法で行くと、秋乃と女性客のみになるが秋乃は発していない。──つまり、女性客だ。
慌ててそっちに視線を秋乃は移すと、「ありがとうございます」と笑った。
「少しムシャクシャしていたもので、いきなり席やメニューを乱暴に扱ってしまい、すみません」
律儀に謝られ、秋乃は少し戸惑う。
「いえ! ……差し支えなければで構いませんのでお話、お聞かせ願います」
「えぇ。まぁ、少し貴方には分からない部分もあるかもしれないけれど、仕事でもプライベートでも勝っていると思っていた相手……友人に、大切な人を取られてしまって。今で言う、不倫ではなくて。「これからはこっちと付き合うから、俺と別れてくれ」って言われたのよ」
悲しそうに微笑みながら、女性客は話を続けた。
「その私の友人は、私に何かしてきたわけではないの。……ただ私の醜い嫉妬が1人で強く暴れていただけ」
その場で分かったと返事をして、離れた先に「chestnut」があり勢いで入ったらしい。
「ここに来たら、なんだか少し気持ちが和らいだ。モンブランを食べて、さらに和らげられたらいいのだけれどね」
秋乃もただただ、そのことを願うばかりだ。
人の気持ちを幸せにする。
幸せな時間を与える。
──他人の幸せに入ることが出来るのは、すごく自分も幸せになれることだと思うのだ。
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