コメディ・ライト小説(新)
- Re: 【短編集】この一杯を貴方と。【開店中】 ( No.24 )
- 日時: 2017/03/16 18:38
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
#9 「紹介」
「chestnut」は開店する。──誰かに求められてするものではない。
きっと彼らの体の一部に「chestnut」はなっているのだ……圭介と秋乃の体の一部に。
店のドアが開く。──圭介と秋乃の視線の先には、緋音と……同い年くらいの男が1人。
「秋乃ー!」
緋音が、ドタドタと店に入るなり秋乃に抱きついた。
あまり高ぶった表情ではないが、嫌に思っている表情でもない……秋乃は優しくそっと緋音を引き剥がすと「こちらの席にどうぞ」とあくまでも店員という役割を果たしたのだった。
通された席は窓際の角で少し広い……特に二人客になるとすごくスペースが生まれる席だろう。
その様子を圭介は見ながらため息を吐いた。
「じゃあ、これと……あとこれ。アスカはどうする?」
アスカ……と呼ばれたのは、先ほどから緋音の横にいる男の名前だ。
慣れた雰囲気の緋音に「任せるよ」と一言言ってからチラッと秋乃の方を見た。
「んー、じゃあこれがおすすめかな!」
緋音は相変わらずメニューに視線をやったまま。
「じゃあ少々お待ちくださいー」
秋乃が圭介に注文を伝えて、こちらを向くタイミングを窺ってから緋音は再度秋乃を呼び戻した。
「秋乃は大切な友達だから私の周りの人間関係も紹介しておくね。彼は……」
続けようとする緋音の言葉を遮るように──、
「若田飛翔です、飛ぶに羊に羽であすか、って書くんだ。緋音とは……」
「付き合ってるよ!」
待ってましたと言わんばかりの緋音の飛び出し具合。
秋乃は若干肩を竦めると、順に2人の顔を見つめて──言った。
「私は何も言う権利ないけど、長く続くように祈ってるからね」
何だかんだで、やはり秋乃は緋音のことを心配しているのだ。
フラフラしていて、ヒョイと掴まれてしまいそうな緋音が心配でたまらないのだ。
「うん! ありがとう秋乃!」
満更でもない笑顔で緋音は幸せそうに笑った。
──たかが家が近い同級生。カフェの店員と客の関係だけどお互いに相談し合って話し合って……お互いを紹介し合って。
わけが分からないかもしれないが、それでも成り立っている関係ならばわけが分からなくても分かることになるのだ。
分からないなら分かるまでその事を通し続けろ──圭介の父で秋乃の祖父である洋介がよく言った言葉。
「それでは、ごゆっくり」
そう言って出したケーキや飲み物を幸せそうに飲む二人を見つめながら、秋乃も幸せに浸っていたのだった。
他人の幸せが回りに回って自分の幸せになったら、それはもう奇跡だと思う──。
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若田飛翔(わかだ あすか)
高校生。秋乃や緋音と同い年。
緋音の彼氏でしっかりしている。
少しだけハーフっぽい顔だがバリバリの日本生まれ日本育ちだ。