コメディ・ライト小説(新)

Re: 【短編集】この一杯を貴方と。【開店中】 ( No.30 )
日時: 2017/04/03 11:45
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

#10 「邪魔」

店のドアが開く。
カウンターで圭介と話していた秋乃は慌てて姿勢を整え、服のしわなどを直し始める──その様子を圭介は呆れながら見つめていた。

「ちょっと緩んでるぞ……」
「ごめんなさい」
あくまでも真面目な秋乃は、圭介の言葉に強く反発をしたりすることはない。


「いらっしゃいませ……あ」
1人の男性客は、初めての人ではなさそうだが「1人で来る」というのは初めてだ。

「こんにちは、八栗さん」
「ど、どうも。今日は緋音は一緒じゃないんですね」

その男性客は他でもない、若田飛鳥だった。

「まぁ。今日は緋音の都合で会えないんですが、ちょっと家にいるのが気まづくてブラブラしていたら、ここが目に入ったので」
しどろもどろに説明する飛鳥を特に気にかける素振りもせず、秋乃は頷いて……この前緋音と飛鳥が来た時と同じ窓際の席に通した。


「では、ご注文お決まりになりましたら呼んでください」
軽く会釈をして、飛鳥の元を離れた。


──それにしても、緋音などの常連客を通じてたくさんの人が「chestnut」に訪れてくれるのは嬉しいことだ。

一応、もう1人の常連客である降谷もそういったことをしてくれればいいのだが、今のところそんなことはしなさそうだ。

「すみません」
飛鳥が秋乃を呼んだ。

「えっと……このアイスコーヒーとモンブランを」
「分かりました」

圭介にそれを伝え、再びカウンター付近で立っていると目に入った飛鳥はあまりすぐれた表情を浮かべていない。

そればかりか、ため息ばかり吐いている。

秋乃はそっと近づいた──。


「どうかしたんですか?」
秋乃の言葉に、飛鳥は無理やり作ったような笑顔を向けて言った。

「やっぱり聞いた通りですね。緋音に八栗さんは困っている人を放っておけない人だ、聞いていたので」

「まぁ……話を聞くのが好きなので……。もしよければお聞かせください?」
秋乃に飛鳥は頷いた。

「俺は双子の弟がいて……と言っても、実のところ日をまたいで俺らは生まれたので、誕生日は1日違いです。簡単に言うと親は俺よりも弟に期待をしているんです。今日も家で、邪魔だとハッキリ言われてしまい思わず家を飛び出してしまって……」

重い話ですみません、と飛鳥は頭を下げたが秋乃は首を振った。

「緋音にもその話を?」
「……いや。こんな話して離れられたりしたらどうしようって」
そういう飛鳥の手は微かに震えていた。

「そんな心配は無用です」
秋乃の強い言葉に飛鳥は驚いた。

「思っている以上に緋音は、受け止めてくれると思います」
私が言うので、大丈夫。と秋乃は笑った。

「そうですかね……」
「してみたら、何か軽くなるものがありますよ」

秋乃の言葉に飛鳥も笑う──さっきの笑顔と違って無理やり感がない。

「アイスコーヒーとモンブランを食べたら、明日にでも話して見てください」
「ありがとうございます」

何度も頭を下げる飛鳥に、秋乃は……
「私は何もしていません」

と言った。


こんなに少しのことで、人を救うことが出来るかもしれない。
──それなら惜しまずに私はやる。

秋乃はきっとそう思っているはずだ……。


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