コメディ・ライト小説(新)
- Re: キミの隣に。『コメント募集中(。>ω<)ノ』 ( No.110 )
- 日時: 2018/01/02 11:32
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
episode18.「Boosting sound」
10日前。11月15日――。
何だか疲れを感じて、私は屋上へと足を運んだ。この学校の屋上は結構広いのに、殆ど人が居ない。何か疲れを感じたとき、独りで居たいとき……ぴったりな場所だ。
柵へもたれかかる。昼休みが終わるまでにはまだ20分あるから、今日はここで過ごそう。誰もいないし。
「あーあ……青石くんに告白…ってどうしたらいいんだろうなぁ……」
浮かれすぎ、と思うかもしれないが、私の心の中はそのことでいっぱいになりつつあった。……文化祭一緒に回ろうと言って了承をもらっただけで、こんなに色々考えるなんて思考がお花畑みたいだけど。
――やっぱり、それぐらい嬉しいんだ。
私は決めていることがある。告白するなら、この屋上でしたい、と。特に何も意味はないけれど――理由を挙げるならここが一番、星空が綺麗に見えるところだからだ。
「――暗闇に光る星ー…貴方と一度、数えたい~♪」
音楽発表会の時に歌った、あの曲の歌詞。
心に残るこのサビの部分を忘れてはいない。
「歌、上手いんですね」
「っえ!?」
ドアが開く気配もなかったのに、誰かに突然声を掛けられた。
敬語だから一瞬知らない人かと思ったが、この声には聞き覚えがあった。
「…アニタ……?」
「ええ。今、お一人でしょう?」
「……う、ん」
アニタがわざわざ学校までやってきたんだから――何か大事なことでもあるのだろうか。私が身構えていると。
「これと言って大事な用ではありませんから、あまり身構えないでください」
至って落ち着いた声で私に言う。
ふっと力を緩めた。
「――青石さんに告白、するんですか?25日に」
「う……まあ、するために……ここに来たんだし……ね?え、そうだっけ」
せっかくのチャンスを与えてくれたのに告白しないなんて勿体ないけれど、私にはどうしても勇気が出なかった。
――私みたいな目立たない存在、青石くんのようなムードメーカー的存在の人に。
「黒崎さん。私のような身がアドバイスするのもなんですけど。元々私も人間だったんですよ――その時に私も、今の黒崎さんのように恋愛感情を抱いている人が居ました」
突然何を言い出すのか。
「……魔界にいる人って……皆、元は人間なの?」
「ええ。私は15年間人間でしたよ。今は人間と呼べるかは微妙ですが……話の続きです」
私はアニタの話に、耳を傾ける。
「―――私の恋愛感情はきっと届かなかっただろうと思います。皆にいじめられていたので。きっと人間界に戻ったとしても、私には絶対に叶えられないものでした」
アニタは他人事のような口調で話しているが、目は切なく……いつもの無感情な目ではなかった。
ちゃんとした人間のように、瞳には光があった。
「だから、黒崎さんのように…………叶えられる希望がある人に、叶えて欲しいんです。初恋、を」
私は叶わなかったので、と切なげに笑うアニタは、初めて本当の表情を見せていたようだった。
ずっと、全く正体を見せなかったアニタが。初めてと言っても良いほど、感情を見せた。
「綺麗事かもしれません。でも……伝えないまま終わるのが、どれだけ悲しいことなのか私には分かります。勇気を出せ、とは言いませんが……せめて私と同じような経験はさせたくないので――」
その時、ドタバタと……3、4人の足音と、かけ声と笑い声がこちらに向かってくるのを感じた。おそらく、昼休み中に鬼ごっこでもしている中学1年生だろう。
「――誰か来ましたね。では、私はこれで」
アニタはそれだけ言って、忽然と姿を消した。
ドアが中学1年生の男の子たちによって開けられるのと、アニタが完全に視界から消えるのはほぼ同時。
ドアが開く音は、まるで私の気持ちを後押ししているようで。
澄んだ青空を見ながら、私は教室へと戻った――。