コメディ・ライト小説(新)
- Re: キミの隣に。『コメント募集中(。>ω<)ノ』 ( No.115 )
- 日時: 2018/01/02 11:33
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
episode20.「Next to you」
「………7時、だよね……」
6時30分、私はそっと呟く。青石くんが指定した時間は7時だったが、そわそわしすぎて早く来てしまった。
こんな時間に屋上にいるのって中々ないから、なんだか心臓の音がうるさい。先生にバレたらやばいな、という意味と……これから青石くんに告白するから、という意味とで。
それにしても早く来すぎた。あと30分間も何しよう……。とりあえず空でも見ておこうかな。
私も今日でこの世界とは縁がなくなる。
「星、降ってるみたい……」
私が星空に見とれて居ると、突然屋上の扉が開いた。一瞬先生かと思ってビクッと震えてしまったが、暗闇でも分かる姿が私に近づいてきた。
「ごめん、こんな時間に呼び出して……」
「大丈夫。私も……実は、呼ぼうと思ってたんだよ」
え、と――青石くんが驚いた顔で私の隣に立った。私と同じように暗闇を見上げる彼の姿がもう見られなくなるなんて未だに信じられないけれど、そろそろ現実を受け止めなければならないとき。
彼はもう居なくなるんだという現実を――。
「黒崎は、俺が交通事故にあったこと……覚えてる?」
至って普通のことのように、青石くんは話を切り出した――。
○*
やっぱり青石くんは、この世界についてを話すんだなぁと思った。未来に起こることなんて予測不可能だ。
「……11月25日の夜、俺が交通事故にあったんだよなー」
至って何もなかったのように不謹慎な言葉を並べる。
「本来、今日も交通事故に遭う予定だったんだけど……?その辺は魔界で上手く処理してくれてたみたい」
「………そっか」
私は気の利いた言葉を返せず素っ気ない返しになってしまった。こんな場合なんて想定できるはずがない。ましてや、何という返しをするのがベストなのかも分かるはずがない。
「……アニタが……青石くんには未練があるって言ってたけど……青石くん、解決できたの?」
未練があるからこの世界にいる。私がなぜこの世界に来たのかは未だに分からないままだが、青石くんの未練が私によって少しでも解決できたのならば―――
「………まだ」
良いと思ったのだが、彼はこの2ヶ月では未練を解決できていない――そんな衝撃の2文字を放った。
○
最終話です!
- Re: キミの隣に。『コメント募集中(。>ω<)ノ』 ( No.116 )
- 日時: 2018/01/01 16:26
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
-
「え……?駄目じゃん、青石くんの未練って何!?アニタ……何時に迎えに来るの!?」
「……俺が未練を解決したとき、かな」
「今日中に解決できるの?……あと5時間しか……!」
「できる。今すぐにも出来るんだけど」
「……え?」
青石くんは多分私の事情は知っている。よく分からないまま連れてこられたことを知っている。
だから私は何も気遣うことなくこの世界でしか分からないことを口に出せるし、感情のまま訴えることも出来た。
解決はしていないけれど今すぐにも解決できる未練って―――
「―――1年の頃から好きだった」
まさかの、私への告白だった。
○*
息が止まるような思いを感じる。私が大好きな人から、私に向けられた好意。この世で一番嬉しいことなんて、これ以上にあるだろうか。
青石くんの言葉に私は固まったままだった。
「……好きです。黒崎が俺のことを忘れても俺は絶対忘れない」
―――もっと早くに私も告白しておくべきだったなぁ………。それならこんなに切ない思いをする必要もなかった。
もっと楽しく過ごすことも出来たはずだ。
ねぇ。青石くんは本当に――
「本当に居なくなるの………?」
「……そうみたい、だな」
無駄な言葉なんて必要なかった。私たちはこの世界に来たという時点では同じ境遇なのだから。
私は……ずっと引き延ばしにして、青石くんの気持ちは少しも考えていなかった。
彼に早く告白していればもっと彼と過ごすことも出来たはずだ。あわよくば、交通事故という最悪の事態も免れることが出来たのかもしれない――。
青石くんの、私が一番聞きたくない肯定の言葉。それを聞いて私は涙が溢れた。
もう一緒に過ごせないことを実感させる涙は酸っぱい味がする。
「……黒崎は……?」
突然、述語も何もない青石くんの言葉が降りかかってきた。私はさすがにその意図は読み取れず、え?とかすれた声で聞き返す。
「……俺のこと……どう思ってる?」
「………好きだよっ!!」
私は叫んで、彼に飛びつく。彼は体勢を崩したがすぐに状況を理解したようで、私を受け止めてくれた。
「……だから……居なくなるなんて……理解しないと、駄目なのに……信じたくない……っ!」
涙でかすれた声は彼にどのような形で聞こえているのだろうか。私はそんなことを考える余裕もなく一生懸命何かを叫んでいた。
「――青石さん、これで未練は解決ですね」
屋上に突然、何の音もなく降り立ったアニタの声が唐突に聞こえた。それは寂しさを含んだ……感情を見せないアニタが初めて出した涙声だった。
○
クライマックスです。設定がお気に入り菜だけに書くのに一苦労…ヾ(;´▽`A
- Re: キミの隣に。『コメント募集中(。>ω<)ノ』 ( No.117 )
- 日時: 2018/01/01 23:47
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
-
「……アニタ……まぁ、未練……解決かな」
「貴方自身が黒崎さんに告白する。その未練は十分に解決されたでしょう……。とても良い形で」
「……これのどこが良い形なんだよ……っ」
青石くんは苦虫を噛み潰したような顔をした。……おそらく私だって同じような顔をしていると思う。アニタが来たと言うことは、別れの時間が刻一刻と迫っていると言うことだ。
この時間がずっと続けばいいのに。このまま時が止まって……ずっと一緒にいられたらいいのに。
「……黒崎さん。彼は、黒崎さんに告白することが未練だったと言うことは何となく察していると思いますが……。彼は本当の貴女に告白したくて、私が無理矢理理由をこじつけて貴女をこの世界に呼びました」
私はアニタの衝撃的な言葉に目を見開く。アニタは私をこの世界にわざわざ呼んだ理由を語り出した――。
「この世界にいる人間は、もともと感情を持っていなくて……本来の時空の人間の感情を完全コピーするという魔界の技術で感情のコントロールをしているんです」
人の感情を完全コピー……予測機能、ということだろうか。人にこう言われたらこう返す、というのが決まって居るんだろう。
私はこの世界で暮らす中で、ゆかちゃんの過去の話を聞いて、青石くんが好きだという話も聞いて……麻奈が少し明るくなったようなことを実感したけれど。本来の世界に戻ってしまったら、それが統べてなかったこととされてしまうのだ。
せっかく築き上げてきたものが崩れ落ちていく、という複雑な感情を今の数秒で感じた。
「だから……この世界に存在するただの操り人形の黒崎さんに告白なんて意味がない。本当の黒崎さんに告白したいんだと青石さんが言っていました。それが今回、黒崎さんを呼んだ理由なんです……」
青石くんが直接私を指名した。その事実は、複雑な私の気持ちを少し晴れやかにさせたけれど。
「……咲恵ちゃんや麻奈、ゆかちゃんとすっごく友情が深まったと思った……1からリセットされるんでしょ……?どうすればいいの……?」
涙ながらに訴える。
「それは、貴女がこれから変えるべきことでしょう?水山さんには……意見をはっきり言ってもらった日があると思います。だから、貴女から変わるんですよ」
青石くんに言われて咲恵ちゃんに言ったときのことだ。なぜアニタがそれを知っているのかは……深くは追求しないことにしよう。
「………貴女が帰る本来の世界は12月27日です。丁度冬休み、という時期になりますかね……。3学期からでも貴女は自分自身を変えることだって出来ます。この世界での経験を生かしてください。こちらの事情で呼び出した側としては申し訳なく思っていますが、少なからず貴女も学ぶことがあったと思います」
アニタからは聞き慣れた真面目な言葉に思わず聞き入る。確かに……私も色々学んだ。自分のこと、友達のこと。
急に態度を変えるわけではないが、前より積極的に関わっていくことは確かに出来ると思う。
「……最後に何か、お互いに言いたいことはありますか?」
アニタが、優しい声で私たちに言う。
「………私は」
「………俺は」
2人の声が重なる。
「「ずっと君のこと、忘れないから」」
一番伝えたいこと。私がこれからも、ずっと忘れない人。
空に消えゆく君に次会える日は、きっと遠いだろう――。
だけど、それまで決して君のことを忘れない。