コメディ・ライト小説(新)
- Re: キミと一緒に。[**コメント募集中**] ( No.8 )
- 日時: 2017/02/11 10:24
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
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何となく到着する様子は見たくなくて、本能的に私は目を閉じる。
だが、明るい光が私の周りを纏っている……というのは、目を閉じていても分かった。
タイムトリップってこんな感じなのかな――実感はないけど、私はそう思った。
「到着しましたよ、2ヶ月前。本来の時空の2ヶ月前ではなく青石さんが亡くなってから2ヶ月前、というわけです」
つまり、3ヶ月前に到着したということだ。
青石悠人が亡くなってからの1ヶ月と、亡くなる2ヶ月前を足したということ。
ふわっと木を揺らす風や、吹奏楽部の朝練の音。グラウンドから聞こえるボールがバットに当たった音や、「おはよう」という人の声。
トリップ、といってもそんなに現実とは変わらないのか……。
「えっと、アニタ。ここには3ヶ月前の私はいないんだよね?」
「はい、あなたが2人いる…とかはないですよ」
「じゃあ普通に学校入っていいわけか」
「いいですよ」
「アニタ」という少女に違和感を覚えるものの、何だか普通の学校生活みたいだ。
アニタと別れ、私は教室に入る。
上靴に履き替えるとか、廊下を歩くとか――普段の何気ない行動でも少し緊張して顔が強ばってしまう。
「あ、芽衣ー!おはよ~」
突然背後から声が聞こえた。
あまりにも唐突すぎて私は小さく悲鳴を上げてしまう……。
「どうしたの?寝不足?」
麻奈、か……。普段なら、こんなことで驚かないはずなのに。
普通に「おはよう」と返して教室まで一緒に歩く、というのがいつもの私。
その、いつもの私とは違うという違和感を抱いたんだろう。
「……ちゃんと寝たよ。おはよ、麻奈」
「おはよ~」
まさか麻奈は、今見えている「黒崎芽衣」が3ヶ月後の人間だとは、思わないだろうな……――。
- Re: キミと一緒に。[**コメント募集中**] ( No.9 )
- 日時: 2017/02/11 12:05
- 名前: ましゅ ◆um86M6N5/c (ID: QYM4d7FG)
~
教室に入ると、男子がくだらない話で騒いでいたり、その男子を目を細めて見る女子がいたり、本を読んでいる女子がいたり……本当に、いつもの光景だった。
私たちはもう中3、しかも――トリップした今は秋。
受験シーズン真っ最中だというのに、こんなに騒いでいても大丈夫なのだろうか。
教室にざっと目を通すと、
――もう一生、見られないと思っていた人間が友達と喋っているのが目にとまる。
青石悠人。…青石くん。
あまり高くない身長や、ストレートの髪の毛。喋っているときによく見せる人懐っこい笑みや軽く友達の肩を叩く姿。
また、見ることができた。
私がずっと好きだったあの人の姿を、見ることができた。
本当なら涙を流しそうだったけど、歯を食いしばって抑えておく。それでも視界はぼやけてしまう。
軽く目を袖でこすった。
こすった後見ると、青石くんの友達は他のところへ行ったみたいで彼はしばらく外を眺めていた。
青石くんが亡くなった後、私はどれだけ後悔したか。
それが今、その後悔を無くすチャンスなんだ。
今、話しかけに行かないと。
「青石くん!」
私は少しだけ声を高くして――なおかつ気付かれないように喋りかける。
「…おはようっ」
と、微笑みかけた。3ヶ月前の私って、こんなことしていたのかな……。
「黒崎、おはよ」
彼は私に微笑みを返してくれた。
またこうして、青石くんと話すチャンスをもらえたんだ。
タイムトリップという事実は未だに信じられないけれど、とにかく青石くんとまた話せる。
味わうと分かっている後悔を、薄れさせることができるかもしれない。
残された2ヶ月は長くないけれど、せめてそれまではあの笑顔を……私の隣に残して欲しい――。