コメディ・ライト小説(新)

Re: ホロフロノス〜刻限の輪廻〜 ( No.18 )
日時: 2017/07/02 12:43
名前: 珠紀 (ID: n0SXsNmn)



「俺は漣優の未来。この世界ではホロスと呼ばれている。彼奴等あいつらはこの世界の機動隊だ」

「機動隊?」

「簡単に言えば、国の軍隊だ」

「軍隊!?!?」


そういえば、ホロスも最初に会った頃から軍人のような服装をしている。
ホロスも機動隊ということか。

あの時機動隊はホロスの名を呼んでいた。
同じ軍隊ならば名を知っていてもおかしくないということだ。


「ホロスがユウちゃんなら、私は?私はどこにいるの?」


そう尋ねると、ホロスの目がしっかりと日向子に向けられる。


「十年前……事故で死んだ」

「十年前……」


日向子はその事故のことを知っている。

十年前というとこっちの世界の日向子も私と同い年だ。

過去の日向子が事故に遭ったように、未来の日向子も事故に遭っていた。

日向子は自分の手を見つめた。
知っている自分の手よりも、少し大きくて大人の女性の手をしている。


「……この世界の私が亡くなってるとして、何故私は元の十年前の姿のままではないの?」

「分からない」


その言葉と共に、哀しげな瞳で日向子を見つめる。
微かに、憂いめいた瞳の下には薄っすらとクマがある。
何日も満足な睡眠がとれていないことが分かる。


「私は事故にあった直後、目を覚ましたらこの世界にいたの」

「そうか……」


優は驚いた顔をしたが、直ぐに考えるように右手を顎へと置いた。


「どうしたの……?」

「いや、お前が事故にあって何年か経ったあとに時空移転ができる装置が開発されたんだ」

「時空移転……って何?タイムトラベルとか、そういうもの?」

「そうだな、簡単に言うと、そういうことになる。その装置が開発されたと同時に時空そのものが歪み、見ての通り世界が壊れてしまった。たぶん、その装置ができたことによって、他の世界に干渉してしまったせいだ。本来時空は決して交わってはいけないし、物理的に相互干渉できないはずだった……つまりお前の十年前の身体がその装置の歪みに接触して、その姿になったんだろうな」

「…………」

「まあ、過去の世界にその装置がない以上、誰かがお前をこの世界に連れてきた事は確かだ……」


理解不能な情報が頭の中を駆け巡り、やがて日向子の中でショートする。

その瞬間、体が思考を拒否するかのように日向子の目の前が真っ暗になった。


「……っ」

「おい!」


闇に包まれた視界の向こうで、ホロスが自分を呼ぶ声がした。
それと同時に、たくましい腕が伸びて来て力を失った体を支えてくれる。

日向子の意識があったのはそこまで。








彼女を抱きとめたホロスは、小さく溜息を吐く。


「頭で理解できる限界を超えたな……」


窓ガラスには昔のように微笑んでいる優の姿が映しだされていた。
愛おしそうに微笑んでいる自分の顔を見て、その顔は一瞬にして青褪める。
直ぐに日向子をベッドへと寝かせると、洗面台へと頭を垂らした。

その瞬間、一気に我慢していた吐き気に襲われる。


「笑う権利なんて……俺には……ない、だろ……」


あの時の事故の光景を思い出す。


「何も、できなかった……」


そう呟く彼の瞳には先程までの光が消え乱れた髪の隙間からのぞく目は朦朧としていた。


「日向子」


この言葉は今ここにいる日向子に向けたものではなかった。

優の虚ろな瞳から雫が一滴、静かに落ちた。