コメディ・ライト小説(新)

未来改変 ( No.12 )
日時: 2017/04/03 19:28
名前: ラッテ (ID: 5YaOdPeQ)

『人は、人という短い期間の中で、死の恐怖を克服する事は出来ない。人は、その定められた時間の中で、立ち向うしかない。そう。死は、人にとって一番の弱点なのだ。』



《第3章 死の恐怖》

Re;12 説


黒霧探偵事務所を出発してから、もう一時間は経過しただろう。

国会議事堂にはまだ到着していない。

今奶斗と魁斗がいるのは、近道という事で選んだ路地裏だった。

急がば回れ。誰もが知っていることわざだろう。

急いでいる時こそ、近道はしてはいけない。

誰もが知っているのに、誰もが土壇場では忘れてしまうことわざ。

近道をするという行為は、それ相応のリスクを伴うのである。

魁斗の能力オリジンは、《未来》まで見越す事は出来ない。

よって、近道する事により現れる危険は、視る事が不可能なのである。

しかし、奶斗の能力オリジンは、未来を見越す事までは出来なくても、選択肢により最善な未来へとアシストする事が可能なのである。

それならば、なぜ。わざわざ近道をする行為を選択したのだろうか。

答えは簡単。選択肢が出現していないからである。

魁斗が近道をしようと言い出したのは、あまりにも道が混んでいたからである。

普段ならば、《近道をする》《近道をしない》の選択肢が現れる分岐点のはずだ。

しかし、分岐点は訪れなかった。

考えられる説は、二つ。

単純に、近道をするという行為が確定事項だから。

簡単に言うと、分岐点では無かったから。選択肢が現れるまでも無い、あまりにも当然な事だから、分岐点が訪れなかったという考え。

この考えが、現時点においては一番有力な説だろう。

もう一つの説は、既に未来が確定しておりその道筋を辿っているだけに過ぎないから選択肢が現れない、という考えである。

もし選択肢が現れなかった理由が後者であるのならば、今奶斗たちが置かれている状況は危険極まりない、という事になる。

これまでに選択した選択肢により確定された未来を通過するまで、定められた行動しか起こす事ができない。奶斗の能力オリジンが、ほとんど役目を果たさなくなってしまうのである。

奶斗の考えは、当然魁斗にも伝わっている。

二人の間に流れていた沈黙は、いつの間にか緊張感へと変わっていた。

その張り詰めた空気を良くも悪くも変えたのは、突如目の前に現れた謎の男である。

急ブレーキをかけた反動で男の前に飛ばされてしまった奶斗は、確かに聞いた。

男が発した声でも無い。

魁斗が叫んだ声でも無い。

確かに聞いた。確かに聞こえた。

聞き覚えのある、少女の声が。



『アタタクオチカギカミサティー.』



奶斗は、意識が途絶えた。