コメディ・ライト小説(新)
- 灼熱装甲 ( No.25 )
- 日時: 2017/04/05 11:25
- 名前: ラッテ (ID: 5YaOdPeQ)
Re;23 焰
赤木 和貴。十八歳。
彼の能力は、《灼熱装甲》である。
名前から察することが出来るが、その力は炎を作り出し、身に纏うことが出来る。
ここで一つ、疑問が生まれる。
そもそも、彼の作り出す《炎》とはどのようなものなのか。
仮想の炎で、実は熱く無いのだろうか。
もしくは、そもそも炎に見せかけているだけで実は他の物質から構成されている《別の何か》では無いのだろうか。
否。両者とも違う。
彼の作り出す炎は、本物の炎である。
では、炎とは何なのか。
炎が何かと質問されて、適確に答えられる人は少ないだろう。
そもそも炎とは、《ものが燃える時に出る火の先》なのである。
燃え上がっている《火》自体の事を表すのではなく、《火の先》という部分的な箇所を示しているのだ。
つまり、炎を作り出すという言葉は、矛盾しているということになってしまう。
火が無ければ、炎は生まれない。
彼の能力を、もう少し詳しく見てみよう。
和貴は、炎を身に纏うことが出来るが、主に拳にまとう事が多い。
拳に炎を纏うなら、仮に言うならば拳に火を付けなければいけない。
しかし、彼はそういう素振りを一切見せず、炎を出現させている。
一体、《火》はどこにあるのか。
答えは、拳の《中》だ。
彼の能力は、能力の中では珍しく科学的に証明する事が出来る。
彼の体内で循環している血液中の酸素を、燃やしているのだ。
何故燃やす事が出来るのか、それを証明するには科学者レベルの知能が無いと不可能だが、そもそも本人が能力の詳細を知らないので、無理に追求する必要は無い。
つまり、彼の能力は、《炎を身に纏う》と言うよりは、《体内中の酸素を燃やす》と言った方が正しい。
ここで質問だ。酸素が燃えた時に発生する気体は何でしょう。
正解は、二酸化炭素だ。
もう少し詳しく言うと、まだ出現するものがあるのだが、今は二酸化炭素だけということにしておこう。
彼が体内で酸素を燃やした時、当然だが二酸化炭素が発生する。
この二酸化炭素は、彼の体内を循環するが、呼吸によって吐き出される。
あくまで、血液中の二酸化炭素量が多くなるだけだ。
さあ、彼の能力の弱点が見えてきた頃だと思う。
《酸素》が無い、つまり、《静脈》がある所では、炎を纏う事が出来ない。
また、炎を纏いすぎると血液中の二酸化炭素が増え、最悪の場合死に至る。
和貴の力は、弱点も存在する。
しかし、その弱点を彼は知らず知らずの内に克服できているのだ。
それを説明するにあたって、まず一つ言っておかなければいけない事がある。
酸素の性質は、《ものが燃える時に役立つ》事であって、《酸素自体が燃える》訳では無い。
当然だ。もし酸素が燃えるならば、マッチやライターで火を付けた時、空気中の酸素が燃えてあっという間に世界は火の世界へと変わってしまう。
だが、この性質を話に持ち出すと、今まで説明してきた和貴の能力が根本的におかしい、という話になってしまう。
あくまで、彼の能力を説明するにあたって、《酸素を燃やす》という表現をした方が分かりやすいというだけであり、実際は酸素を燃やしている訳では無いのだ。
彼の能力をしっかりと話すには、先ほども言った通り、科学者レベルの知能が必要となってくる。
ここでこの話を持ち出したのは、《酸素を燃やす》という表現で彼の能力を表しているが、実際には《酸素はものの燃焼に役立っている》という事を、理解してもらっておくためだ。
さて、この前提を踏まえた上で話を続けよう。
彼は、自分の力をコントロールする事が出来る。
彼が炎を纏う時に何をするか。
それは、炎を纏いたい箇所に流れている血液中の酸素を燃やす、イメージをするのだ。
分かりにくいと思うから、分かりやすく言おう。
例えば、サッカーをする時に、ボールを《蹴ろう》と思った時、足は《蹴る》という動作を行う。
足に《蹴る》という動作を命令する訳ではなく、ボールを《蹴る》為に脳が足に命令しているのだ。
これと同じように、和貴が手に炎を《纏いたい》と思うことにより、脳は手に《火を出せ》という命令をする。
つまり、《何かをしたい》という欲求を叶える為に脳が命令するという事と、彼の能力はそう変わらないのだ。
このようにして彼が力を発生させる時に、具体的な事を要求することによって、脳はより具体的な命令をする。
酸素がものを燃やす時、より激しい火にするには、どうすれば良いか。
火を激しくする、という表現が曖昧なのだが、単純に酸素量を多くすれば良いだろう。
酸素が容器一杯に入っている所に火を付けたら、大爆発する。
同じように、和貴の能力も炎の具合を変える事が出来る。
彼が少ない炎を纏いたい、と考えた時、血液中の酸素の消費量は少なくなる。
逆に、彼が最高出力の炎を纏いたい、と考えた時には、血液中の酸素が全て消費される、という事になる。
彼はこの性質を生かし、自分が戦闘不能にならない程度に炎を調節する事が出来るようになったのである。
彼の《炎》については、大体説明が済んだだろう。
しかし、《人間の仕組み》の視点で考えると、更に彼の能力には説明しなければならない箇所が出現する。
血液が体内を循環するスピードは速いため、炎が出現するのも一瞬なのでは無いか。
呼吸を平均以上にしなければ彼の力は成り立たないのでは無いか。
このように、彼の能力は、《自然現象》と《人体の仕組み》に基づいて出来上がっている。
このような能力を、超常能力と呼んでいる。
超常能力の特徴としては、科学的に説明する事が可能、という点が挙げられる。
さらに、他の種類に比べて弱点が明確だが、物理的な火力としては一番高い、という特徴もある。
鍛え方によって、強い弱いが一番はっきりしてくるのが、この超常能力である。
説明が長くなったが、これらが赤木 和貴の能力である。
「すげえだろ!かっこいいし!」
そう言って和貴は拳に炎を纏わせた。
この能力は、男なら一度は夢見た力なのだろう。
雄哉の子供心を擽った。
「すっげえ!カッコいいです!赤木さん!」
「和貴でいいぜ!っしゃあ!行くぜ、全身装甲!」
「うおおおお!!」
盛り上がっている男子二人を差し置いて、今度は佐竹 玲子の能力の紹介が始まった。
玲子は兄に置いていかれ一人ぽつんと立っていた芽亜の元へ行った。
「芽亜ちゃん、赤木の力理解できた?」
芽亜は、疲れたような顔でこう言った。
「長すぎ、説明。」
玲子と朝登は笑った。
確かに、能力説明するだけに、十五分も使ったのだ。
そりゃあ、疲れるだろう。
ぐったりとしている芽亜に、玲子は優しく言った。
「大丈夫。私はさっさと紹介済ませちゃうからね。」
彼女の能力は、かなり説明がしやすい力なのである。
彼女の能力名は、《瞬間移動》。
その名の通りである。