コメディ・ライト小説(新)

未来改変 ( No.35 )
日時: 2017/04/08 11:24
名前: ラッテ (ID: 5YaOdPeQ)

Re;32 巨


凰牙はひどく絶望した。

魁斗から彼らの力は聞いていたのだが、まさかここまでとは思っていなかったからである。

雄哉たちの能力オリジンで起こすことのできる出来事には、制限があると思っていたのだ。

例えば、能力オリジン自体に何らかの影響をきたす出来事は、起こせないと考えていた。

のだが。

今、凰牙は何も考えられなくなっていた。

凰牙の力は、頭の中に直感的に思考が入り込んでくる。

その入り込みが、発生しないのだ。

普通最強だと思っていた自分の力が通用しない相手が現れた時、人は畏縮してしまうだろう。

しかし、凰牙は体だけで無く、心も大きく、強い。

これしきのことでは、折れなかった。

すぐに魁斗から聞いた情報を思い出し、対抗策を練り出した。

雄哉たちの能力オリジンは、自分達に関係のあることしか使えない。

つまり、もう一人の女、佐竹玲子に雄哉たちの力を使うことはできない。

瞬間移動は厄介な力だが、凰牙の前では無力に等しい力である。

なぜなら、瞬間移動先が、《分かる》から。

玲子を先に倒すことにした凰牙は、玲子の元へ走って行った。

それを狙っていたかのように、玲子は構えた。

「あなたに私の移動先が読まれるのなら、あなた自体を瞬間移動させればいい。」

玲子は、今日の早朝で出発する前に、雄哉と計画を立てていた。

ナンバーズ唯一の、戦術を立てていたのである。

朝登から、もし戦闘に入ったら必ず玲子と雄哉たちを組ませるようにすると言われたのだ。

三人は、ある作戦を立てた。

その作戦は、玲子が相手を雄哉たちの前まで送り、雄哉たちがその相手を拘束させる、というものである。

発言創造には、様々な制約がある。

その一つに、《自分達に関係があるが、相手にも干渉する出来事》を発生させる場合には、その相手に触れなければならない、という制約がある。

先程の思考を読まれなくする、ということに関しては、相手自体には何の影響もなく、《力》に干渉することだったため、凰牙に触れなくても能力オリジンは発生した。

しかし、今回の場合《相手を拘束する》、具体的にいうと《相手の動きを止める》という出来事のため、相手に干渉する出来事と認定される。

その場合、凰牙に触れなくてはいけない。

そのために、玲子が瞬間移動で凰牙を移動させるのだ。




凰牙が玲子の目の前まで来た時、玲子は視点を変えた。

他の物体を移動させる時、視界の中しか移動させる事は出来ない。

雄哉の方を見なければならない。

普通、戦闘中に相手から目を離す、という行為はタブーであるが、玲子の場合、《触れる》だけでいいので、目を離しても良いのだ。

玲子は目的地を設定した。あとは、凰牙が触れてくれるのを待つだけだ。

しかし、玲子は焦るあまり、肝心な事を忘れていた。

誰だって、強力な戦術を立てたら、それに頼りたくなる。

ゲームにおいてハマったコンボを何度も繰り返し使ってしまう現象と、同じである。

この時、人は肝心な事を忘れてしまう。

強力な戦術に頼るあまり、周りが見えなくなってしまう。

相手の力は、言い方を変えれば自分の思考が読まれる、という力。

この戦術も、バレてしまっている。

玲子は何かが触れたのを察知して、瞬間移動を発生させた。

そして送られた物体を、雄哉たちは拘束させた。

「俺たちに害のあるこの男を、拘束させろ!」

しかし、何も起こらなかった。

玲子が送ったのは、路地裏にあった木材。

凰牙は、適当な木材を拾って、玲子に触れさせたのだ。

予定が狂い、戸惑った玲子。その一瞬を、凰牙は見逃さなかった。

「喰らえ!!」

直感的思考で、どこを狙えば一番強くなるか、どのように殴れば良いかが、イメージとして頭の中で再生された。

その通りに凰牙は動いた。

鍛えられた強靭な肉体から繰り広げられる強力なパンチと、能力オリジンによるアシストが加わり、玲子は数メートル飛ばされた。

そして、そのまま気絶してしまった。

飛ばされた玲子の元に、芽亜が駆けつけた。

それすらも、見逃さなかった。

凰牙は芽亜の前に駆けつけ、首元をつかみ、持ち上げた。

芽亜の足は地面から離れ、必死に逃げ出そうと凰牙の手を両手で掴んでいるが、強大な力を持つ凰牙には、蝿が止まっている程度にしか感じなかった。

そしてそのまま、芽亜を壁に向かって投げつけようと振りかぶったその瞬間。

後ろから何かが突き刺さった様な感じがした。

後ろを見ると、落ちていた木材の中で最も鋭利なものを選び、それを凰牙に突き刺した雄哉の姿があった。

流石に凰牙は痛みを感じたが、それでも芽亜を話さなかった。

雄哉の力では足りず、少ししか刺さらなかった木材を抜き、雄哉は思い切り凰牙に殴りかかった。

しかし、やはり力が足りずに逆に雄哉の手が折れることとなった。

手を抑えてしゃがみこんだ雄哉に、凰牙は言い放った。

「力の使い方を知らないお子様がこんな所に来るからいけないんだ。自分達の非力さを、思い知れ。」

そう言って凰牙は、芽亜を壁に向かって思い切り投げた。

壁は壊れ、芽亜の体は建物の中へと突っ込んでいった。

建物の中は幸い誰もおらず、置いてあったものも少なかったが、芽亜の体からは血が流れた。

腕を振り回し、凰牙は言った。

「あの程度では死んでない。一生治らない程度には怪我をしているだろうがな。これに懲りて、もうこんな戦いごっこはやめよう。君達はまだ、子供だ。」

凰牙の言葉は、雄哉には届いていなかった。

痛みに耐えていたわけではない。痛みなど、もう感じていない。

怒りだ。怒りに体を支配され、言葉など耳に入らなかったのだ。

その感情は、どんどん膨らんでいき、そして爆発した。

「芽亜を…。よくも…。お前なんか…。」

ゆっくりと立ち上がろうとしている雄哉の体に、光が発生した。

紫色に光る、禍々しき光が。

体の周りには、黒色の文様の様な輪が出現して、その姿は邪神の様だった。

完全に立ち上がった雄哉は、凰牙を睨んだ。

その瞳は、赤色だった。

怒りに燃える、復讐の赤色。

「オコリセタユアール…!」

聞いたこともない言葉で、雄哉は叫んだ。

凰牙は、恐怖を覚えていた。その強靭な体は、震えていた。

その様子を発見した戦闘開始前の朝登、そして彩都と絢も、その光景に驚いていた。

突如朝登に謎の頭痛が襲い、朝登は頭を抱えた。




寝転がっていた魁斗は、呟いた。

「覚醒したか…。」